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合同演習②

「正気ですかエー先輩! 単騎で出撃するなんて!」


「お前を出せるはずないだろ。急遽起動した九号機に乗せるだけでも危ないんだ。いくらお前の八号機の設定をコピーして移植した、間に合わせの機体だろうけど、まだ誰も乗ったことのない機体だ。癖だって強いし。地上装備に換装したとはいえ、推進器もろくにないんじゃ飛べないよ」


 ドイツ支部が用意した大型輸送車両に2機を仰臥させて搭載し、グラディオスを出る。運転手は、どちらも免許を持っている砲術士が担当してくれた。特別休暇で俺たちの護衛をしてくれた3人のうちのふたり。あとは整備科のトップ勢とカイドウ。彼らがいなければ、ガリウスの調整を俺がやらなければならない。どれだけ時間を要するのだか。それを避けるための処置だ。


 先頭車両の後部座席に座る俺とアイリ。アイリはどれだけ説得しようが、いつまでも抗議し続けた。


「砲台くらいにはなれます」


「まぁ、そりゃそうだけど。でも長距離ライフルは九号機じゃ持てないし、アイリに適正はないよ。ペイント弾だし飛距離が出るかもわからない。………あ」


 車窓から外を眺めると、合同演習に参加させてもらえなかったのだろう、シーナの姿があった。


 わざわざグラディオスの前で待ち伏せして、俺を待っていたのだろう。目が合うと、両手を合わせて、拝み始めた。謝罪と懇願だ。


 俺はこの1ヶ月、まともにシーナと会話できなかった。


 敵だと判断したものの、それは早計だったと後で反省。許してやろうと声をかけようとしたところに───パイロットたちがバッタバッタと倒れていく。つまりタイミングが悪過ぎた。


 あいつも反省しているようだし。とため息をついて、親指と人差し指を合わせて輪を作る。外国じゃこのハンドシグナルは中傷を意味しているらしい。ドイツだったらヒトラーを思わせるから、右手を真っ直ぐに上に伸ばす行為がタブーだとか。アニメの世界なのに、こういうところは実際の歴史に基づいているんだよな。


 了解の旨を示すと、シーナは飛び上がりながらなにかを叫んでいた。聞こえないが。あとで聞いてやろう。


「ま、なるようになるだろ。アイリ、無茶しないこと。お前がフラッグだ。落とされちゃ意味がない」


「それ、いつも無茶ばかりするエー先輩にだけは言われたくないです。でも、うん………わかりました。エー先輩も忘れないでくださいよ? エー先輩が落とされたら、その時点で負けなんですからね」


「うん。わかってるよ」


 大型輸送車両は、軍の施設を抜け、専用の道を走る。


 そして、いつしか安全圏たるバリアの外に抜けたのだった。






『各機、配置完了。アンノウンの出現、ありません。遠方に敵影無し。各項目オールグリーン。双方のリーダーより、準備完了のサインを受諾。これより、合同演習の模擬戦を開始します。各機、今一度ペイント弾が装填されていることを確認してください』


 指揮車からオペレーターの声が届く。


 俺はもう一度、機体に実弾ではなく黄色のペイント弾が各部に装填されていることを確認。


「グラディオス所属、エース・ノギ。臨時コールサイン、エース1。ペイント弾の装填を確認した」


『お、同じくっ。アイリ・ナカダ。臨時コールサイン、エース2。ペイント弾の装填を確認しました!』


『グラディオス所属、エース1、エース2。承知しました。ドイツ支部の機体が多いため、確認に時間を要します。このまましばらくお待ちください』


「エース1、了解」


 いやはや、揃えた機体が多いってのも大変だね。小隊がいくつあんだか。中隊規模も連れて来てるな。


 完全にドイツ支部をすっからかんにするのはまずいので、ある程度の戦力は残しているだろうし、俺たちは今、バリアの外とはいえ、隣接する演習場にいる。有事の際はすぐに飛んでいける距離だ。


『え、エースせんぱぁぁい………』


 アイリは声が震えている。


 パイロットになるために体を鍛えたとはいえ、まだ彼女は初戦を終えたばかりの新兵だ。今頃、コクピットのなかでガクガクと震えているに違いない。


 その道を志したソムリエとしては、是非とも額に浮かんだ汗を舌でテイスティングして、ぐへへ………おっと。いかんいかん。集中しないと。


『ま、気楽にやれや。アイリ。お前はそこまで気負うこたぁねぇよ。面倒くせぇこたぁ、我らがクソガキ副隊長ドノが全部やってくれるだろ』


「クソガキは余計ですよ。まぁ、やりますけど」


 できない。という言葉は、この模擬戦において不要。


 やるだけだ。


『全機、ペイント弾の装填を完了しました。では、30秒後に模擬戦を開始します。両軍、位置へ』


 30秒もあるのかよ。今すぐでもいいのに。


 仕方なく、大型輸送車両から機体を降ろして、歩き出す。機体を覆っている防塵カバーは外さずに。


『残り10秒』


 このカウントダウンのせいで、アイリが吐きそうになっているだろうなぁ。


『5秒前───3、2、1、模擬戦開始!』


 オペレーターが告げる。


 対象、大勢。多勢に無勢。


 早速、全機が前進して、5キロメートル以上離れている更地にも関わらず、巨大な砂煙が舞う。


「じゃ、行くとするか………ねっ」


 俺は、機体を操作して、カバーを外す。


 そこに現れた、灰色の機体。


 敵軍の先頭が、反応を示した。


 俺の機体───タキオンが、急激な加速をかける。


 ボッ! と敵軍が舞上げたそれに劣らないほどの高さまで舞う砂煙。


「じゃ、まずは1機!」


 右腕のヒートナイフを展開。これは以前、シドウと行った模擬戦と同じだ。水性の塗膜が敵軍のガリウスF全機に塗布されることが条件だ。


 出力を抑え、発熱しただけで溶断能力のないヒートナイフが直撃、擦れば熱で化学反応を起こしてヒット扱いとなる。


 先頭のガリウスFの腹部にヒートナイフを掠らせる。オペレーターが慌てて『ヒット!』と叫んだ。


 戦術もなにもない。敵陣中央へ飛び込む無謀かつ、最大の効力を発揮する方法。ドイツ支部の人間は、これまで様々な経験をしただろう。模擬戦も幾度となく繰り返したはずだ。戦闘を優位に運ぶための戦術。あえてこれを放棄することで、彼らの経験からくるものを一旦消しにかかったのだ。


 いきなり敵陣に突っ込む馬鹿はいない。瞬時に蜂の巣だ。


 ところがセオリーどおり遠距離から物量差で攻めて、徐々に距離を詰める戦術を組み立てた彼らを混乱させるべく、突然灰色のタキオンが眼前に現れたのではな。しかも彼らはいい感じに密集している。タキオンがぐんぐんと進みながらもヒートナイフと左腕のヘビィガンから繰り出すペイント弾で穴を開けると、混乱が目立ち始めた。


 このポジションの優れたところは、敵軍がタキオンを容易に撃てないことにある。タキオンの機動力はすでに見せつけた。安易に発泡すれは射線上にいる味方機を誤射してしまうのだ。


『なにをしている! 撃て! 誤射しようが、相手はたったの1機だ! それさえ倒せば、丸裸になったフラッグを取れるぞ!』


 指揮車からとんでもない指示が聞こえた。オープンチャンネルだから俺にも聞こえるのに。


 同時に理解が及ぶ。これが支部長が言っていた、反目する勢力のひとりか。指揮官だったとはね。クランドとは大違いだ。



次回は15時頃に更新します!


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