グラディオスB06
グラディオスの艦長室で、シュッシュッと半透明の立体スクリーンがフリップされる音だけが響く。
あとはそこにいるクランドの吐息と、時折漏れる声。メッセージの着信音だけが満ちていた。
「………ハルモニ」
『イェス。キャプテン・クランド』
「以上が、お前が導き出した答えか?」
『イェス。以下6名が、第七世代ガリウスGに搭乗し、要求される操縦レベル水準を満たせるパイロットです。なかでもソータ・レビンス、ヒナ・ワルステッド、ユリン・エフナールが即戦力として期待できるでしょう』
「………現場に出せるのは13機のうち、6機のみか」
『イェス。他のパイロット科の生徒もスペックは問題ないのですが、ガリウスGに要求される操縦レベル水準を満たしておりません。臨時のパイロットとして採用はできるでしょうが、生還率は5パーセント未満となります。2週間前に更新されたデータベースを参照した結果、CタイプとDタイプの出現頻度も増加。遭遇すれば1パーセントを下回り───』
「もういい。次のデータを分析しろ。整備班についてだ」
『承知いたしました。キャプテン・クランド』
クランドはデスクのスピーカーを睨んで黙らせた。
相手はクランドの相棒とも呼べる副官───ではなく、グラディオスの機能のほぼすべてを統括している高性能AI『ハルモニ』だ。
副官は存在するのだが、人材について───特に新人、それも民間人上がりの管理と分析については素人も同然だ。
それについてはクランドも同様で、前例が無いわけではないが、実際に自分にお鉢が回ってくるとは考えてもいなかったゆえ、ハルモニに分析をさせる他、手段を持ち合わせてはいなかった。
だが、やはりハルモニが数秒で弾き出した答えは、ざっとデータを見たクランドとほぼ同じで、落胆してしまった。
「………いや、本来なら正規軍でも扱えるか不明な、最新鋭機だ。学生が水準を満たせる方がおかしい。いきなり6名が確保できただけでも幸運………馬鹿な。なにを言っている。相手は子供だ。民間人など戦場に駆り出せば、統制ができるはずなどないのだ」
自嘲気味になりながら、クランドはデスクに両肘を突き、交互に組んだ指の上に額を置いて従面した。
葛藤のみしかない思考。
されども、そうするしかない現状。
クランドの悩みなど、本来なら唾棄すべきつまらないプライドでしかなかったのかもしれない。
が、それでも、そうであったとしても、クランドは最後まで悩み、悩み抜き、答えを出すと決めた。
すると、そんなクランドの雑念と苦渋に満ちた心境に水を差すように、ノックもしない不躾な来訪者が艦長室を訪れる。
「よう、クランド。なにしけた面してやがる」
「ノックくらいせんか粗忽者め。なんの用だ」
「一杯付き合え」
「勤務時間内で飲酒か。減俸されたいらしいな」
「硬いこと言うなっての。ここにゃ俺とお前、ハルモニしかいねぇだろ。ハルモニ、このこたぁ黙ってろよ?」
『イェス。マスター・カイドウ』
「良い子だ」
艦長室を訪れたのは整備士長のカイドウだった。
メインメカニック。整備主任。おやっさん。様々な呼び方があるが、グラディオスと視聴者の間ではおやっさんで定着していた。
カイドウは琥珀色の液体が半分ほど満たされた瓶と、ショットグラスを持っていた。グラスに半分ほどウィスキーを注ぐと「おらよ」とクランドに差し出す。
クランドは数秒の躊躇いと葛藤の末、受け取った。
「艦内は禁酒のはずなのだがな」
「気にすんな。艦長室は特例だ。俺とお前の仲だろうが。なにかあればどっちかが酒に誘う。いつもそうだろうがよ」
「………ハァ。確かに、今さらか」
「おうよ」
カツンとグラスがぶつかって、ふたりとも少ないウィスキーを舐めとる。
一気に煽れば纏ってしまう酒気によって、恐ろしい医者か、そこで勤務する娘にバレることになる。それだけはどうしても避けたい。
「で? 当たりはいたかい?」
「6名だ」
「そいつぁ、すげぇな」
「ああ」
カイドウはエースによって運搬されたガリウスGの性能をすでに把握していた。
息子が扱う第六世代機、ガリウスFも相当ピーキーで、そして存分に扱えるようにカリカリにチューン、武装や装甲の変更など、ガリウスF・Sカスタムをグラディオスで製造した。
ガリウスF・Sカスタムと比較しても、ガリウスGは異常だ。
なんの改造も施していない素体のままでも、ガリウスF・Sカスタムに匹敵、あるいは上回る。
先の物資運搬の任務で遭遇したアンノウンBタイプとのドッグファイトであってもそうだった。
シドウはソータの操縦する、素体のままのガリウスG一号機に単純な加速で追いつけなかった。その上、ガリウスG一号機はプロトタイプガリウスGを牽引していたのだ。
あの目視さえ適わぬ加速力。縦横無尽な移動を可能にするスラスター。設計したケイスマンの正気を疑うほどだった。
これでは下手をすれば、敵ではなく、機体がパイロットを殺しかねない。
しかし天啓か、運命か、ケイスマンの指導によってか、ガリウスGのパイロット候補が6人も揃ったのだ。
「奇しくも、誰もがケイスマン教授の教え子だ。………あの教授は悪魔の子を育てたとしか思えんよ」
「だとしても、やるっきゃねぇだろ」
「わかっている。………わかってはいるんだ」
クランドは従面したまま、またウィスキーを舐めた。
カイドウには感謝していた。酒を飲まなければやっていられなかった。
ブクマ、たくさんの評価、リアクション、そして感想ありがとうございます!
無事、二日酔いでドロドロになりましたが、こんなに応援をいただいてしまっては寝込んでばかりじゃいられない!
飛び起きてパソコンかiPadに向き合うとします!
作者はほしがり、かつ現金な性格でありますので「はよ書けやオラァ」とブクマ、評価、感想、リアクションなどをいただけると喜んでしまう傾向にあります。
皆様の応援が頼りです! 何卒よろしくお願いします!




