合同演習①
「なんかさ、周りがソータきゅんとシドウ様のカップリング推してるのに、ソータきゅんとヒロインをくっつけようとしてる必死なやつ! 本当、必死だから笑っちゃったよ。どんなに辛辣にされてもめげないの。根性あるなぁって感心したけど、人気になりたいなら、他の二次小説が書けるサイトに行けばいいのにね」
「………そいつのアカウント名、ソーアイの使者って言うんじゃないか?」
「そうそう。よく知ってんじゃん! ソータきゅんが曇らずに明るく笑ってんの。ヒロインとおてて握ってるだけで満足しちゃうような純情小説! クックック。でもその必死さは可愛げがあったなぁ。文章は悪くないんだけど、あのサイトで書くのはちょっとねぇ。努力はすげぇ認めてるんだけどさ。ああいうの嫌いじゃないし。ねぇエース。お前、なんかアカウント持ってるの? なんか書いてた? それとも、もしかしてお前がソーアイの使者とか?」
「………」
「いやまさかね………おい。………なんで黙ってるの? ………ねぇったら。ねぇ………え? ………い、いや………も、もしかしてだけどさぁ………」
サァとシーナの顔から血の気がひく。
俺は、多分冷めた目でシーナを俯瞰していた。シーナはヒュッと喉を鳴らす。
そうか。こいつが俺の駄文に、色々ちょっかい出してくれた奴なのか。
そうかそうか。
じゃあ、こいつは敵だな。
「悪いけど、さっきの話しはなかったってことで───」
「ごめんごめんごめんごめんごめん! ち、違っ………ちょっと! い、いや待ってってば! 違うんだ! べ、別にあんたが嫌いってわけじゃないんだ! ただ周りが腐女子だらけのサイトに異色なもんを持ち込むあんたが悪………ち、違うな! うん。違うよな! 悪かったって! 中傷はしてないだろ!? 指摘しただけだから! あんたの度胸は認めるよ。大したもんだ! だから、頼むよ! もう一度、もう一度チャンスを頂戴ってばぁ!」
俺が本気でその場を去ろうとすると、シーナは腰辺りにタックルして引き止めようとする。
それでも怒りは収まらず、シーナがどれだけ喚こうが構いもせずに歩き出す。
シーナは謝罪と言い訳を繰り返しながら、ついに片足に抱きついた。それでも歩く。軽いなこのチビ。
往来が激しいところでもニャーニャーと叫んでいるから、勘違いめいた視線を突きつけられる。
結局、騒ぎを聞きつけた整備科の上長が飛んできて、シーナの頭に拳骨を一発。俺から引き剥がすと部下の非礼を何度も詫びて、シーナを抱えてその場から去った。
数時間後、夕飯になる前にグラディオスに戻る。それまで合同演習について、ドイツ支部のパイロットたちと情報交換をしていた。
「エーせんぱぁい。あのハムスターちゃんと、随分と仲良くしてたんだねぇ」
一難去ってまた一難。
そこに待っていたのはヒナとシェリーとユリン。みんな笑顔でブチギレていた。
ああ、本当に噂が出回るのって、早いなぁ………。
1ヶ月が過ぎた。
残り5ヶ月。早いもんだ。
冬に突入したドイツは、防寒具無しでは出歩けないくらい冷え込んだ。これでまた初冬というのだから、年越し辺りの気温が怖くなる。
パイロットたちは相変わらず戦闘機による訓練を受けさせた。そうする必要があった。
ただ、1ヶ月も経てば地球という環境に慣れるかと思いきや、本物の冬を舐めていたのか、疲れが出たのか。パイロットの大半が風邪をひいてダウンした。
それは仕方ない。彼らとて人間だ。いかに鍛え抜いた軍人だろうと、体調を崩すことだってある。
咎められることではないが、少しだけ………困った。
シドウまで体調を崩した。レイシアは先週風邪をひき、看病していたのが遅れて移ったのかもしれない。
現状、動けるのは、俺とアイリだけだった。
「う………うぅ………」
「緊張してるのか? 無理もないな。まぁ楽にしてろって。お前を出すつもりはないよ」
「エー先輩こそ、緊張しないんですか? なんだかいつもどおり飄々としちゃって」
「実はめっちゃ緊張してる。ゲロ吐きそう。オエェ」
「ちょ、ちょっと! 本当に吐かないでくださいよ!?」
「冗談だよ」
「もう!」
こうしてアイリに構うのも久しぶりだ。互いにパートナーができたから、ふたりきりで話す機会が激減したからだ。
俺たちは今、ドイツ支部のハンガーの前にいる。パイロットスーツの上に防寒着を着ていた。宇宙空間でもパイロットスーツを着ていれば動けるので、要は気分の問題だ。
俺たちの周囲には、大勢のガリウスFのパイロットたちがいた。老若男女。往年のベテランがいれば、アイリみたく緊張している新人もいる。
「よう、エース副隊長。ついにこの時が来たなぁ」
「シュナイツさん。今日はお手柔らかに」
「ああ、そうするつもりだぜ。………なんていういか、本当に気の毒にな。お前んとこのパイロット、過労と風邪でダウンだって?」
「ええ、まぁ」
場違いなくらい目立つ俺たちの緊張をほぐしに来てくれたのが、もう何十回も話をする仲になったシュナイツというベテランパイロットだ。
気さくな良いひとで、アイリを紹介すると優しい笑みを浮かべて握手をしてくれた。どうやら、雰囲気だけで新人と見抜いたらしい。
「本当に気の毒になぁ。上の連中も、なに考えてやがるのか。こういう時こそ、力を合わせるって意味で、仮想の敵を殲滅するためのフォーメーションを意識した演習にするべきだってのによぅ。まさか………模擬戦だなんてな。ついてないなぁ、お前。たった2機だろ? こっちは100機以上を投入するんだぜ? いかに最新鋭機だろうが、囲まれちゃおしまいだよ。俺たちゃ、お前ら子供の心を折るために戦ってるわけじゃないってのにな。反吐が出るぜ!」
支部の上層部に聞かれれば、減俸対象になりかねないのに、シュナイツは本気で激昂していた。
シュナイツだけではない。周囲のベテランたちも怒り、同情してくれた。
「そこで、だ。俺たちは独自にハンデを作ることにしたぜ。俺らがそっちに回ってやるよ。まだ現場に出てない新人どもがいるんでな。程よく緊張させてやりてぇ。なーに、俺らのことは気にすんな。支部長はいいひとだけど、他がちょいと腐ってるだけなんだよ」
いいひとなんだよなぁ。
でも、それに甘えるわけにもいかない。
今朝、クランドから呼び出されて、直々に言われたのだ。「支部長に反目する勢力が暴走しつつある。ドイツ支部長からの依頼もある。そいつらの鼻っ柱をへし折る。副隊長。遠慮はいらない。我々より優位性を示し、支部長を更迭させたい勢力を黙られて来い」だとさ。
そう言われちゃ、俺も従わないわけにはいかないんだよなぁ。
まだ1ヶ月。徹底して周囲を調べたが、まだビーツの勢力は近くにはいない。なら、ちょっとくらいお披露目してもいいはずだ。
「いいえ、シュナイツさん。こっちは俺ひとりで十分です」
「ば、馬鹿なことを言うな! 30秒ともたないぞ!」
「それはどうでしょうね。………支部長を更迭させたい幹部の連中を黙らせる依頼を受けています。ここは、どうかひとつ。でも、手を抜いてしまっては演出になってしまう。半分くらいの力で来てくださって結構です」
「いや、それならなおのこと俺らが………」
「大丈夫です。作戦も戦略も、強力な暴力を前にしては意味を持ちません」
「う、ううん? なにが言いたいのかわからないが………後悔、しないんだな? わかった。それなら、俺たちは普段どおりやらせてもらう。落ち込む必要はないんだからな? 負けてもお前の責任じゃないぞ。副隊長。あとでなにか奢ってやるから。な。じゃあ、あとで会おうぜ」
これでいい。
あとは暴力で演習を支配するだけだ。
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次回は13時頃に更新します!
やっとロボットものを書くことができました。久しぶりな感じがします。
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