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AとC ④

 頼みたいこと、ねぇ。


 シーナを見下ろす。とても強い意志を込めた瞳をしていた。吸い込まれそうになるくらいの、黒々とした目をしている。


「私を、グラディオスのクルーにしてほしいんだ」


「………なるほどねぇ」


「おい。馬鹿にすんなよ? 私だってやる時はやる! 絶対に力になってみせる!」


「いや、馬鹿になんかしてねぇよ。でも、この続きをするにはなぁ………ちょっとこっち来い」


 シーナの腕を掴み、グラディオスへ一直線に向かう。


 その途中でハルモニをシャットダウンさせた。これからの会話を記録されるのはまずい。


 ちなみに、初見での会話は、アニメのタイトルを言い合う前にハルモニをシャットダウンさせている。記録に残せるはずがなかった。


 グラディオスを収容している施設には、休憩所が設けられていた。自動販売機とベンチがある。幸い、誰も使っておらず、俺たちは一番奥のベンチに陣取ることにした。


「なんか飲む?」


「コーヒー」


「あいよ」


 腕の端末で電子決済をしてホットコーヒーを2本購入。ベンチに戻る。


「………そうだなぁ。実は俺も、お前をスカウトしようかなって思ってた」


「え、マジ?」


「うん。マジ」


 シーナの表情がパァと明るくなる。


「喜ぶのは、まだ早い。決まってるわけじゃないからな」


「どういうこと?」


「俺がクルーに欲しいって言っても、お前がその枠に入れるかどうか、わからないってこと」


「は、はぁ!? い、いやお前………副隊長なんだろ!? じゃあ、色々権限持ってるじゃん! 推薦とか、できないの!?」


「なに言ってんだお前。そりゃあ、隊長クラスになれば推薦できるだろうよ? 実際、俺は整備士見習いだったのが、推薦でパイロット科の副隊長になれたわけだし」


「なんだそりゃ。異動するにしたって、そんな馬鹿げた抜擢があるかよ!」


「あるんだなぁ。これが」


 俺だって、あの時いきなりパイロット科に異動して、そしていきなり副隊長に栄転するとは思わなんだ。


 あれはシドウの推薦だった。当時、副艦長のデーテルが猛反対したのを黙らせるまでが長く、それがなければもっと早い段階で副隊長に就任してたとか。


 そういえばデーテルの野郎、今なにしてるんだろう。まったく姿が見えないけど。ちょっと気になるので、あとで検索してみよう。まさかあいつも異動してたりしてね。


「クソッ………猫被った意味がないじゃんよ!」


「あれで猫被ってたのかよ。でもまぁ、コウの前では激しくニャンついていたか。言っておくけど、コウはドン引きしてたぞ?」


「え、嘘。照れてるんじゃなかったの!?」


「照れてたさ。あいつ、女性経験皆無だし。でも、ジグ………あいつの兄貴の件で、他人に恐怖するようになってるんだ」


「ジグ………ああ、確かファンブックにあったような。え、なにがあったの?」


 あんな事件をファンブックに載せる方がどうかしてるか。


 それに同じ転生者のよしみだ。悪用しないだろうし、すべて教えてやることにした。


 フォトロプシー事件。幹部のトカゲの尻尾切りにされて撲殺されたコウの兄、ジグの末路。エース・ノギが、偶然にもジグと交友があったことを。


 簡潔に、ざっくりと噛み砕いて教えたから、5分もかかってない。


 それでもシーナは、鼻水を啜るくらい号泣した。


「ぞっが………ゴウぎゅん、ぞんな辛い過去があっだんだべぇ」


「うん。で、俺はその過去の真実を教えて、コウとも仲良くなった。あいつ、とっても優しい奴だよ。序盤でハーモンやシェリーに当たり散らしてただろ。でも、本当はあのふたりが死ぬところを見たくないから、パイロットをやめるように言ったんだ」


「やざじいべぇ。ゴウぎゅんばぁ………」


「ああ。そうだな」


 たったひとりのキャラで、ここまで泣けるんだ。


 ド変態なだけで、シーナはいい奴なんだろうな。多分………きっと………うん。


「グズッ………それで、よくコウきゅんは死ななかったよなあ。実際、どうだった?」


「あの時はEタイプじゃなくて、Fタイプが現れてな。仲間が狙撃された。それを防ぐため、ソータが本気で戦い続けられるよう、自分が壁になりに行った」


「Fタイプって………え、これから出る敵じゃん!」


「Gタイプも出やがった。タキオンの敵じゃなかったけどな。で、案の定コウが死にそうになったから、助けたってわけよ。並の機体じゃダメだ。タキオンでなきゃ………助けられなかった。俺がタキオンに乗るのは、そういう理由があるからなんだよ」


「なるほど。すっげぇ理解。よくやったエース。グッジョブ。あんたのそういうところを尊敬する。いやマジで。他のメスはどうでもいいけど、コウきゅんを助けたところだけは褒めてやる!」


「すっげぇ上から目線………」


 泣き止んだシーナは、瞳を輝かせながら俺の肩に手を起き、サムズアップを送る。調子の良い女なんだからなぁ。


「………うん。やっぱり決めた。私もグラディオスに乗りたい。コウきゅんと一緒に行きたい。私の理想郷を叶えるため………っていうのは嘘だけど、あんたと気持ちは同じだよ。ねぇ、なんとかならない?」


 過激派の女というのは、どうしても隠せない。不穏にして邪な部分が、どうしても隠せていない。


 だが、やる気があるのはいいことだ。俺にとっても都合がいい。


「………そうだな。そういえば、グラディオスはドイツ支部でも人員を補填するだろ? その時、お前もリストのなかに名前があればいいわけだし。補填するにも試験があるだろうし………その試験を突破するしかないんじゃね? おやっさんには、それとなく聞いておいてやるよ。整備科の空き具合をさ」


「それだ! お前、頭冴えてんな! 流石副隊長!」


 また調子のいいことを言うんだから。


「でも簡単じゃないぞ? 試験の他には………そうだな。上長に顔と名前を覚えてもらうところから始めるか。なんかあったら教えてやる。連絡先を寄越しな」


「いいねぇ! なんでも受けてやるよ! お前いい奴だな! 見直したぞモブオス!」


 つまり、それまでは虫ケラみたく思われてたってわけね。


 差し出された腕の端末の個人情報を、脳内チップを介して、俺の腕の端末に送信する。


「なぁ、それどうやってんの? ハンズフリーでやれるなんて、お前もしかして超能力者?」


「それは追々話すよ。………ん? FULOVEOSU………?」


「そ。それが私が前世で使ってたアカウント名でもあんの」


 シーナのアカウント名には覚えがあった。そこで俺は、持っていたメモ帳にペンを走らせる。


「もしかして………こう書くんじゃねぇか?」


 紙に()L()O()V()E()()()と書く。グラディオスを改造しまくったアカウント名だ。


「うわ、知ってんのかよ。じゃあお前、あの小説サイトにいた? いやぁ、懐かしいな。ちょっと恥ずかしいけど。私そこで小説書いてたんだぁ。私の脳内設定を全快にした聖域をさ。それなりに人気あったんだよねぇ。本当懐かしい。また書きたいなぁ。あ、あの小説サイトさぁ、変な奴もいたんだよねぇ」




 ………あ?




ブクマ、リアクションありがとうございます!

エースとシーナが仲良くなりかけたのに、雲行きが怪しくなって参りましたとさ。


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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