AとC③
すべての手続きが終わった3日後に、ソータたちは俺の希望で、全員が戦闘機に乗ることができた。
ただ、やはり予想していたとおり、戦闘機の数は少なかった。
この世界の空中戦といえば、やはりガリウスがセオリーだ。戦闘機なんてアンノウンの脅威にもならない。
精々偵察目的で飛ばすのが良い方で、戦闘目的で運用はされない。
されどもアンノウンに遭遇した際は直掩のガリウスFの防衛の庇護下に入るしかなく、全速力で撤退できるよう整備に手抜かりはなかった。
そんな複座型の戦闘機に乗せてもらったソータたち。ガリウス用ではない、戦闘機用のパイロットスーツを借りて着用。後部シートに身を沈めると、見送る俺に余裕で手を振っていた。
最初こそ余裕があったのだが、誰しもが共通して、加速すると『ヴッ!?』と唸る。離陸直後なんて声にすらならなかった。アフターバーナーによる超加速で上昇した時の反応なんて笑えた。
ソータ、ハーモン、コウ以外は全員失神。通信を入れて叩き起こしてからが本番。
スロットルを絞って加速したままの曲芸飛行。
一応、プログラムは組んでおいた。次になにが来るかわかるように。記憶もさせた。
結果───戦闘機から降りた全員が、用意しておいたバケツのなかに吐いた。
「おぼぇ、ゔぉ………な、なんでぇ………」
涙目になって吐き続けるヒナ。俺はその背中をさする。
「これでみんな、わかっただろ。宇宙とは違うんだ。地球の、重力って制限がある環境では、これまでとは話が違ってくる。後ろに引っ張られるだけじゃない。今度は下にも引っ張られるんだな。上下逆さになった時、怖くなかったか? お前たちはこれから、そんな恐怖と戦わないといけないんだ。………終わったか? ほい。水だ。飲めるか?」
「うん………ど、どうしよう………満足に戦える気がしないよぅ」
戦闘機から降りたヒナは、ずっとこんな感じだ。吐きながら泣いていた。相当怖かったらしい。通信からも悲鳴が聞こえたからな。それでも一人前のパイロットとして、搭乗中に吐くことだけは避けたらしい。
「エー先輩。………なんで、こんなことさせるんすか………」
「同意だ。あんな時代遅れの戦闘機に乗ったとて、俺たちとは関係ないだろうに………」
喋れるくらいに回復しても、起き上がれる気配がないハーモンとコウ。
「関係あるんだよ。お前たちは特にな」
「あら、ならなんでエー先輩は乗らないのかしらねぇ………不公平じゃないのぉ………」
あのユリンでも真っ青になりながら、強引に薄く笑う。
「タキオンは関係ないからな。大改造計画に入ってないし。でもお前たちは違うよ。新しく生まれ変わるガリウスGに耐えられる体にしないといけない。だから、手っ取り早く戦闘機に乗せてもらえるようお願いしたんじゃないか。あ、シーナ。このバケツ頼むよ」
「………はーいただいまよろこんでぇ」
滑走路の横にあるハンガーの一角。サンルーフで日光を遮っているところに座り込む6人。それを指導する俺。あともうひとり。えっさほっさと汚物を運び出す女、シーナの姿があった。
あの会議以降、シーナはクビも減俸も免れたが、無罪放免というのは示しがつかないという理由で、俺がグラディオスの外にいる時に限っては、シーナが雑務を請け負うことになった。つまり、俺のパシリ。
全員分の吐瀉物を捨てに行く重労働だ。誰だって拒否したい───と思いきや、シーナはふたつ返事で了解を示した。物分かりがいいというわけではない。理由は俺と同じだ。俺の近くにいれば、推しキャラの近くにいられるからだ。
俺と同じ、筋金入りのファンだけあって、でも俺とは違って差別的な対応が目立つが、波風立てないように従事はしているので、厳しく改善要求をすることはない。
バケツを洗って戻ってくるシーナ。丁度そのタイミングで、シドウを乗せた戦闘機が戻ってきた。順番は機体の番号どおりに行っている。
「へぇ。流石は隊長。自力で歩けますか」
「そこは流石にな。示しがつかんだろう。あと、俺は地上に降下したこともある。今さら戦闘機に乗って飛んだところで、ヴッ!? ………なにをする貴様! エースッ!」
「ハハハ。そういう割には足がガクガクしてますぜ隊長ぉ。ガリウスと違うから、ちょっと怖かったんじゃないですかぁ?」
いつもどおりクールな表情と仕草でヘルメットを取り戻ってくるが、顔では隠せても、ちょっとした変化は隠せていない。俺たちの前で立ち止まった時、しゃがんで足を指でつつくと、過剰な反応を示した。
「こ、怖いはずがあるまい! 足だって震えるものか!」
「てなわけで、隊長もこのとおりだ。お前たちが怖くてガクブルするのも仕方ないんだよ」
「おいエースっ。ひとの話を、聞けぇっ!」
「けどいつか、近い将来、役に立つから。これからは1週間で1回は乗せてもらいな。これはクランド艦長の命令。戦闘機のハイマニューバを受けてもピンピンしていられるのが合格ラインってところかな」
「エースっ!」
「ああ、はいはい。わかってます。怖くないんですよね。そういうことにしておきます。………ってなわけで、ラスト。アイリ、行っておいで?」
親指でクイッと、待機していた戦闘機を示す。アイリは苦笑しながら回避する算段でも講じていたのだろうが、悪巧みで俺を上回れるはずもなく、強引に乗せた。
アイリは発進直後に気絶し、覚醒しては気絶を繰り返す。今まで整備士見習い兼ドローンカメラの操縦士だったとはいえ、彼女もソータたちと一緒に鍛えていたのだ。これからは正式に八号機のパイロットとして登録されたわけだし。手を抜かない。
だが、予定の半分でアイリを乗せた戦闘機は緊急着陸した。
プログラムの半分で、アイリは嘔吐してしまったからだ。掃除はシーナだけでは悪いし、俺も加わった。
「まぁ、なんていうかさ。あんたがみんなからよく信頼されてるってのは、わかったよ」
コクピットの掃除を終えた俺とシーナは、パイロットに礼と謝罪をして、グラディオスへ通じる道を歩く。
ちなみにガリウスGのナンバーズのパイロットたちは、全員医療室に行った。根性だけで歩いた。アイリはソータがおぶった。見送ったシーナが舌打ちした。
「そうかい。誤解が解けたようで、なによりだよ」
俺は薄く笑いながら返答する。
俺とシーナ。転生者と転生者。異なる部署。元整備士見習いと現役整備士。副隊長と狂犬。
そんな組み合わせが珍しかったのか、あるいはシーナの失態の噂が出回ったからか、ジロジロと凝視された。
それでもシーナはめげずに───それとも慣れているのか、毅然としている。
「苦労してたんだな。あんたも」
「苦労しかなかったよ。でもやり甲斐はあった」
「やっぱり、グラディオスに乗ってると、良いことあった?」
「あるよ。けど、同じくらい悪いこともあった。大変な毎日だよ」
「ふーん」
シーナはぶっきらぼうに返事をして、しかし次の瞬間「よし」と意を決したような気合いの入った声を出す。
「エース。あんたに頼みたいことがあるんだ」
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