AとC①
タキオンの情報までくれてやるつもりはなかった。
けど、こうなった以上、他の転生者のことはまったく知らないようだし、タキオンの存在もいつかバレるし、ここで明かしても問題ないと判断した。
案の定、シーナは狼狽する。面白いくらいに。
「タキオンって………アリスランドの………アークの機体じゃん! え、マジで意味不明なんだけど!? なんでそんなもんをあんたが持ってんだよ!?」
「まぁ………製造したから、な」
「できるのかよ、普通!?」
「偶然だけど、ピースは揃ってた。それはまた、機会があったら話してやるよ。それより、これからのことだ。お前はドイツ支部の人間で、間違いないんだな?」
「まぁ、そうだけどさ。え、なんか後ろめたいことでもあんの?」
「確認しときたいんだよ。で、お前はアリスランドと繋がりがあるわけ?」
「あるはずないだろ。まだ日本支部跡地の、隠しドッグにいるんじゃないの?」
「いや、なんか宇宙にいた。第8話………立ち寄ったペンタリブルで会ったんだよ」
「は!? いや、え、なんで!?」
これが普通の反応だ。
今までのやり取りから、このシーナという女が、俺と同じく「天破のグラディオス」のファンであることは確定し、同時に驚愕の度合いからアリスランドに接触しておらず、ビーツの野郎の手駒になっているわけでもないだろう。
もしビーツの手先になっていたなら、こんな下手なことはしないだろうからな。
「俺もよくわからないけど、予定が早まって出港したらしい。ある意味、本編よりも厄介だ。お前がアリスランドと関係してないだろうから教えるけど、アリスランドの艦長も俺たちと同じ転生者。名前はビーツ・クノ。要注意人物。かなりのクズで、かなりのやり手だ。奴も奴で動いた結果、なにかの目的があって本編を歪めようとしてるらしい」
「マジか。………じゃあなに? あんたたちは、自分の目的があって動いてたわけ?」
「そうなる。俺はさっきも言ったとおり、誰かが死ぬのを見たくなかった。これでも頑張ったんだ。でもその甲斐あって、みんな生き残ったよ」
「………そこは、素直に尊敬しとくわ。いやマジで。だってさ………第12話でコウが死ぬわけじゃん。コウって私の推しキャラなんだよね。………助けてくれて、ありがとう。本当に………本当に嬉しい。きっと会えないだろうなって諦めて………」
「ああ。推しキャラが生きて、話せる機会ができるのって嬉しいよな。わかるよ」
さっきまで威嚇するハムスターみたいだったのに、これまでの経緯を知ると、急に大人しくなって、ペコリと頭を下げるシーナ。
その気持ちこそ推し活を遂行するファンの感情そのものだ。共感できなければファンではない。
「シーナ。お前は俺のそこが知りたかったんだろ?」
「うん。知りたかったことの9割はわかった。かなりスッキリした」
「それはよかった」
ここからだ。
シーナはまだ、俺やビーツのような能力を持ってはいない。
だが、本編を知り尽くすファンがもうひとり増えるのは、ある意味で、俺の目的のために優位にことを運べるかもしれないということだ。
なら俺がすることはひとつ。しかし二択が迫られる。
シーナをこちら側に引き込むか、このまま放置するか。
味方として引き込んだ場合、俺が不在の時に彼女にあれこれやってもらえるかもしれない。
ただ、シーナの言動はどこか………女性を軽蔑して排斥したがっている傾向にある。どこか、なぜか嫌な予感がしてならないのだ。ある意味で俺の苦手とする空気を纏っている。
「じゃあ───」
「でもひとつ。あと1割。知っておかなきゃならないことが、判明させなきゃならないことがある」
「う、うん?」
シーナの空気が変わる。
また威嚇するハムスターに逆戻りした。
「あんたは………ノマカプ厨か?」
ノマカプ厨───ノーマルカップリングを推す者、という意味だ。
「あ、ああ。ソータとアイリ、シドウとレイシアをくっ付けてみたんだ。まだ手隙な野郎がいるから、これから機会があればカップリングを増やすつもり───」
「テメェか………テメェがやっぱり、元凶かぁあああああああああ!!」
「うわ、うるさ」
この変貌ぶりはなんだ?
まるで親の仇でも見るような目をしている。
俺、こいつに恨まれるようなことを───あ、なんとなくだけど、読めた。
わざわざノマカプ厨かとか聞く時点で、こいつは俺とは違ったんだ。
つまりこいつは、
「お前………腐女子か!」
「生粋のなぁっ!」
もっとも俺の苦手とする部類だった。ファンのなかでは、それぞれに個性と同様に、反発し、相容れないラインがある。好き嫌いの問題だ。それを超えて相手の領域を侵犯する過激派が存在するが、こいつがそうだった。
「よりにもよってソータきゅんとシドウ様を、最終回までしゃぶり着くせるカップリングを崩壊させやがってぇええええええ!! 死ねぇ! その罪、死んで償えぇええええええええ!!」
豹変するハムスター。あ、いや、シーナ。
スパナを振り上げて、俺を殴ろうとしたその時。
発砲音と同時に、彼女が握っていたスパナが弾け飛んだ。
「無事か! 副隊長!」
「無事です。でも、もう撃つ必要はないので、それはしまってください!」
護衛のひとりだった。
今朝、降車後に言い含めておいたのだ。俺を囮に尾行者を炙り出すから、危なくなったら威嚇射撃をするようにと依頼した。
それに伴い、屋上を移動していた砲術士のひとりが片膝を立てて銃を構え、シーナのスパナを撃って無力化したのだ。相変わらずすげぇ命中制度。
相手が過激派の腐女子だとしても、アリスランドとは無関係な転生者だ。できるなら傷付けたくはない。言語を世界標準語に戻して、銃を下げるように叫ぶ。
「うぅぅ………殺す………殺してや──」
「あらぁ。このおチビさん、随分と達者な人間様の言葉を使うのねぇ。いったいどこの研究所出身のネズミちゃんなのかしらぁ?」
「───い、ひぃっ!?」
武器が無いなら爪と牙で立ち向かおうとするハムスター、ではなくシーナ。
ところが、その背後から現れた乱入者によって、簡単に拘束されてしまう。
「ユリン!?」
「いけないわねぇ、エーせんぱぁい。こんな人気のない路地裏で、こんなちっちゃい子と会ってるなんてぇ。こんなきな臭い空気になってなければ、エー先輩も引き裂いてたわぁ」
いったい、どこを引き裂こうというのだろう。
ユリンはシーナの背後から覆い被さり、右手で左腕を掴むと、左手はシーナの首に絡めてゆっくりと締め上げていた。
呼吸が詰まりかけてあえぐシーナ。ユリンは嗜虐性の一面が出て、その様を楽しんでいる様子。
「よ、よせ! 落とすなユリン!」
「えー。でもぉ、このネズミちゃんはエー先輩に奇声をあげて襲い掛かっているように見えたのだけどぉ? じゃあ自分も殺されても文句は言えないわよねぇ?」
「これは行き違いがあったというか、こいつが勘違いしてるだけなんだ。冷静に話せば、わかってくれるさ」
「へぇ。そうなの。………それでぇ? エー先輩は、このネズミさんとどういう関係なのかしらぁ?」
「それは………ちょっと、前にな」
「前に、なにかしらぁ?」
クソッ………こういうことになるだろうから、辻褄を合わせておきたかったのに、過激派の暴走のせいで、咄嗟の言い訳をするしかなくなるじゃねぇか。
リアクションありがとうございます!
くっ………外出した途端に時間を忘れていました。ジャムプロを爆音でなんか聞いて歩いてなんかいないんだからねっ!
次回は19時に更新します。ラストは21時です!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!




