おバカちゃん捕獲大作戦
特別休暇の最終日。
チェックアウト時は慌ただしくなった。どうやら、ハーモンとコウとクスドの部屋で、私物を散らかしすぎて、鞄に入れられなくなったらしい。男子あるある………と思っていいのか?
一方で俺やソータは、普段から整理整頓をしているシェリーやアイリに指導、あるいは躾られているので、そこまで私物を散乱させておらず、そもそも手に余るくらいの買い物もしていないし、クリーニングもその度にしていたので、チェックアウト1時間前にはきちんと鞄に服を収納できていた。
余った時間、なにをしたって? 生殺しさ。汚すわけにはいかないってさ。キスされたり触られたりと。時間ギリギリまで楽しんでやがった。
ハーモンたちは10分前に私物を鞄に入れればいいと高を括っていたせいで、賭けポーカーに熱狂していたらしい。小金持ちになったからって、クスドまで大金を賭けることにスリルを覚えたとか。ギャンブラーになりかけた、いけないガキどもめ。あとで説教だ。
結局、女子たちの助けを借り───るのは酷なので、俺とソータが助けに入って、ギリギリで部屋を出ることができた。俺が買い物用のマイバッグが欲しくて大きめのものを買っておいたのが功を奏した。
分別は帰ってからやれと言い、汚れ物以外をマイバッグに放り込み、詰め込み、パンパンになったものを元凶のハーモンに押し付けて、忘れ物がないか俺とソータとクスドのトリプルチェックで確認。やっと出ることができた。
ハーモンたちはシェリーの説教とユリンのチクチクするような嫌味の刑に処され、拒否できるはずもなく、大人しく受けていたが、なんだかそれさえも微笑ましく思える。
第1クールと第2クールの間で、犠牲者が出るはずだった。もしかしたらこの場にいない者もいたかもしれない。それがフルメンバーが揃っていて、俺の前にいることがとても嬉しかった。
「どうしたの? エー先輩。嬉しそうに笑っちゃって」
「なにかあったんですか?」
ヒナとアイリが尋ねる。ソータも興味があるのかアイリの隣にいて、俺を見上げていた。
「楽しい5日間だったなって。また来ような。特別休暇をもらえるくらいの成果を出そう。そうすりゃ、ここに泊まれるかもしれないからな。………ソータ。そっちはどうだった? 楽しかったか?」
ヒナとアイリが満面の笑みで頷くなかで、俺はソータの首の後ろに腕を回し、小声で尋ねる。
これは男だけの会話だ。ヒナはなにか察したらしく、アイリにも同じ質問を小声でしている。
「え、えっと………楽しかった、よ? アイリとベルリンの街を見たんだ。エー先輩がそうしたように、俺たちもほぼ同じルートだったんじゃないかな」
「そりゃあよかった。で、夜の方は?」
「ぅえ!? え、えっと………」
「お前、ちゃんとアイリに触れたんだろうな?」
「………や」
「は?」
「い、いや、そうじゃなくて………その………や、わらか、かった………」
「ならよかった」
下卑た会話も楽しくなる。ソータの口からそれを聞くのが愉快だ。
あらら。ソータも、ヒナから色々尋問を受けているアイリも、同じくらい赤くなっちゃって。可愛いなぁこいつら。
「チェックアウト終わったぞ。それにしても追加料金まで払うなんて、太っ腹だなぁ。副隊長」
「あー。まぁ、清掃代ってことで」
「大変だねぇ」
この護衛の男たちは全員妻子持ちだ。俺の事情も知っているし、ひとりで3人を相手にするという現実離れした行為の大変さを理解してくれている。俺の苦笑に、もうそれ以上はなにも言わなかった。
「一応、夕方までに支部に帰れればいいんだが、どうするね? 最後に観光しとくか?」
「そうですね。どうせだから、みんなで飯食ったり、どこか遊びに行ったりして帰ろうかと思います」
「わかった。じゃ、車を回してきてやるよ」
俺たちが全員で観光することに安心する護衛たち。
昨日まで、ほぼワンオペで回してたようなものだ。苦労もするだろう。一方で今回は休憩回しできるから、大した労力にもならない。
ホテルから車で出て、初日に歩き回った市街に向かう。
車があると便利だ。荷物を置いておける。持ち歩くのは最小限の荷物で済む。
市街地の駐車場に停車する2台。護衛たちが3人揃う。そこで、俺はとある提案をしてみた。
快く───とはならず、かなり渋られたが、了解を得る。
そして最終日の観光を開始して、適当に遊んで昼食を全員で食べて───
《メカニック・エース。エネミー、出現》
《ま、そうだよなぁ。場所は?》
《300メートル先の路上です》
ふむ………今日は遠くからか。
昨日はちまちまと現れたけど、一昨日は常に近くにいた。
移動手段が限られている。徒歩とか、自転車とか。
《偽装している可能性は?》
《ノー。細部まで調べましたが、支部で発行されるIDも得ました》
ペンタリブルでは、ペンタリブル支部の人間を語った間者だったからな。そこは当然疑う。
をして、その前例があるからこそ、ハルモニはこれを特例と判断し、俺たちの周囲をうろちょろする鬱陶しい小蝿の正体を判明させた。
ならば、だ。
こちらから挨拶してやるのが、筋というもの。今回に限っては敵対勢力というわけでもなさそうだ。
「悪い。さっきの店で、ちょっと気になったものがあったから買ってくる」
「そうなの? 私も一緒に行こうか?」
「大丈夫だよ。そんなに遠くないし。みんなはここで待っててくれ」
昼飯も終盤。俺は一足先に食事を終え、腰を上げる。同伴しようとするヒナたちを手で制し、店を出た。
護衛たちは外にいる。観光客を装っていた。アイコンタクトを送ると、わずかな首肯が返る。
作戦開始だ。おバカちゃん捕獲大作戦。
俺がそれとなく移動すると、それも動く。
「………へぇ」
やはり、狙いは………俺か。
初日から視線を感じていた。最初は女子たちが狙いかと思ったのだが、今日含めて5日連続となると、相手の狙いが俺としか考えられない。
特に俺の移動になんの躊躇いもなく動く辺り、ターゲットがあくまで俺なのだと判明する。
大通りを行きながら、横に入る。路地裏だ。入り組んだ道を進むと、相手も躊躇いなく飛び込む。
うまく釣れた。ある程度進み、立ち止まる。振り返ると───いた。
「よう。初日から俺をストーカーするとか、熱心なファンもいたもんだな。俺、そんな有名になったつもりなんてないと思うんだけど?」
「勘違いすんな、オス。別にお前のファンじゃない」
「………ふーん?」
チビな女が、そこにいた。
武装している様子はないが、だからといって好意的でもなければ、手を伸ばせば引っ掻かれそう。
強盗や拉致の類でないとすれば、いったいなんの目的があって接触してきたというのか。
「お前に聞きたいことがある」
「俺も聞きたいことがある。ストーカーしてないで、直接聞きに来ればいいのに」
「それができない理由があったんだよ………っ」
女は震えていた。
寒がってはいない。体型を隠すような厚着をしているし、ニット帽にサングラスという、身元を隠蔽する徹底ぶりには感心する。
まぁ、俺の前では無駄なんだけど。
「まぁお前の事情は知らないし、関係ない。俺に用があるみたいだけどさ、一応、これでも一部では有名人なんだ。過去のトラブルを事例にすれば、お前みたいな謎の人物はすぐに捕縛したい。大人しくしてもらえるよな?」
ほいほいと誘いに乗ったこの女を、どうしてくれようかと悩みながら、俺は距離を詰めていく。
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次回は12時頃に更新します。閑話での激動はここから始まります。新たな一面を迎えることとなるでしょう。
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