それぞれの時間④
オーバーワークを疑うも、カイドウは出勤数が多いだけで、その場にいた部下たちに指示を出すだけであり、パソコンの前から離れようとしなかった。
数日前からずっとこうである。
ハンガーの隅にある作業台にて、カイドウはずっとパソコンに齧り付いていた。
「………で、ハルモニよぉ。解析できたガリウスGの改修案に………これがあったってか」
『イェス。マスター・カイドウ。プロフェッサー・ケイスマンによる、第七世代ガリウスGの改修案は、以下のとおりです。なかでももっとも、今後の───大気圏内での戦闘を想定し、大気圏外でも通用する、もっとも適したものが、現在表示しているものです』
「………まさか、あいつの目論見が………こうも的確だったとはな」
嘆息し、コーヒーをがぶ飲みする。本当は酒がよかったのだが、大勢の部下がいる前で堂々と飲酒などできるはずがない。
「ハルモニ。これは………現時点で、可能なのか?」
『イェス。ドイツ支部から機材を購入し、製造部門の増設をすれば可能です。そのための期間を要してしまいますが───半年後に実現可能となるでしょう』
「半年………長えな。クランドが同意するのやら」
『グラディオスはEタイプとの激戦で、内部にかなりのダメージを受けております。大気圏突入時、強引な方向転換を行ったことで、装甲も損傷。大掛かりな修理の期間に数ヶ月を要しております』
「………どちみち、時間はかかるってことか」
『イェス。マスター・カイドウ』
グラディオスが誇る高性能AIの診断と提案だ。少なくとも間違いはない。カイドウならびクランドを納得させられるだけの材料を提示していた。
カイドウが頭を抱える原因になったのが、このタイミングで解析が終了したケイスマンの遺産の一部にある。
第七世代ガリウスGの改修案。どうにも「出番だな。待ってました」と言わんばかりの、逆に感心してしまうくらいの時期に出てきた、画期的な案。
「まさか、エースの野郎が持ってきた無茶振りプランと、ほぼ一致してるとはよぉ。ハァ………」
『しかし、比較すればプロフェッサー・ケイスマンのプランは、整備士への負担が半減。増設する稼働部も少なく、シンプルでいながら強度も増しています』
「そこなんだよなぁ。………チッ。おいハルモニ。前に………エースの野郎が直々にシミュレーションしたデータがあんだろ。あいつが勝率80パーとか言ってたやつだ。そいつに、ケイスマンの野郎のプランどおりに改修したガリウスを投入した場合………どうなるよ」
『勝率は依然として80パーセントを維持しておりますが、グラディオスの負担軽減も加味すれば85パーセントまで上昇します』
「………やるっきゃねぇか。しゃーねぇ。俺からクランドにこのプランを持ってく。エースの野郎がドヤ顔しやがるのが目に浮かぶぜ」
『イェス。マスター・カイドウ』
カイドウだけでなく、クランドも今やエースを信頼していた。ある意味で依存していると表現してもいい。
要注意たる危険人物ではあるが、取り扱いさえ間違えなければ、味方の損害を最低限に抑えつつ、パイロットだけでなくグラディオスクルーの犠牲さえ回避しようとするのだ。その分、自己犠牲が増してしまうが、クランドとカイドウが頼み込んだ結果、今はそれを抑えられつつもある。
パートナーたちの存在も大きい。もう自己犠牲に徹することはできないという、自覚を促すことも成功しただろう。
ただ、それでも不安が尽きないところがある。
エースはまだなにか隠しているようで、それがいつかカイドウたちの度肝を抜きそうで、その時は心臓が止まりそうに思えてならない。
「………俺らはエースに地獄を歩ませる道を選んだ。さらなる地獄は、俺らが歩くべきなのによ………」
エースへのダメージが計り知れないものになるかもしれない。
真っ黒になって、虫の息で発見した時以上の───それがなにより嫌だった。ペンタリブルで退役させた方が、まだよかったのだ。
それなのに………。
「エースくん、最近どう?」
「俺と一緒にいるのに、他の男の話題を出すか? 普通」
「ごめんって。職業病みたいなものだよ。最近になって、やっと一緒の時間を過ごせるようになったんだし。聞いておきたかったんだよね」
ベッドに座るレイシアに、シドウはコーヒーを淹れて差し出した。
お互い、今日はオフである。働き過ぎだ。とレイシアの父親が釘を刺し、強引に休ませた。
今はグラディオスはほぼ稼働していない。レイライトリアクターの回転数も、ほぼ落ちている。機関部と主砲にある3基はメンテナンスのため完全に停止し、今は外部からの電力供給のみで稼働している状態だ。
パイロットは特別休暇を満喫し、メディカルルームも今や患者は支部の医療機関に収容されている。軽傷を負えば駐在する数人のドクターが治療する。シドウもレイシアも、特にやることがなく、自然と艦内にあるシドウの自室へ集まった。
最近ご無沙汰ということもあり、レイシアが言わずもがな、早速シドウを襲った。
おそらく、こうなることもクランドは予想しているだろう。シドウは覚悟をクランドに伝えた。クランドは泥酔していたとはいえ、記憶ははっきりしているようで、ならばと娘を託したのだ。
最近、クランドの呼び付けと指導が厳しくなっている気もするが、すべては義理の息子への試練である………とレイシアは読んでいた。理不尽を行えば即座にキャロットケーキの刑罰だ。地球に降下した今、材料は手を伸ばせばすぐに購入できる。クランドもそんなリスクを冒したくないだろう。シドウはしっかりとクランドの期待に応えている。無理難題はない。しっかりと努力すれば結果が出る試練ばかりだ。
内密にされているが、シドウとレイシアの給金も上げられている。これはクランドの私情ともいえる。不器用ながら、ふたりを祝福しているのだ。言い出すタイミングと、度胸がないだけで。レイシアは近く、父親の尻を蹴り上げてでも覚悟を決めさせて、シドウにそれを伝える場を設けるつもりだ。
「エースは………まぁ、変わらん。良い意味でも、悪い意味でも」
「そっか。なら、いいや」
「いいのか?」
「いいよ。それはきっと、本人たちが決めることだから。………ふぅ。よいしょっと」
「おっ………」
レイシアは近くにあった小さな机にコーヒーのカップを置き、一口飲んだシドウのカップも奪って置き、シドウの首に腕を回して力づくでベッドにともに体を投げ出した。
「まだ休める。無理するな」
「えへへ。でももったいなくて」
「俺の体がもたん………」
レイシアは覆いかぶさるような体勢となったシドウを見上げる。
ベッドに寝転んだ時、体を包んでいたシーツは剥がれ落ち、美しい肢体を、心を許したパートナーにさらけ出していた。
彼女の顔の横に両腕を突いたシドウは、眼下に広がる、レイシアの綺麗な裸体を前に喉を鳴らす。
ふたりの体が重なるのに、数秒もかからなかった。突いていた両腕は、レイシアの体に伸びている。
そんな愛の営みに励むシドウの、外した端末に、エースからメッセージが届く。それに気付いたのは、夜になってからだった。
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後半がセンシティブ! けどシドウとレイシアは、あまりふたりきりにさせたことがなかったので満足してます!
まずは1回目! 次回は7時頃に更新します!
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