それぞれの時間③
4日目。
朝と夜しか俺に触れられなかったヒナとのデートの時間。
そういえば、昨日の夜についにクスドから抗議の申し立てがあった。
おっかない女子を僕に押し付けないでください。だとさ。けど護衛の人数に限りがあるんだしさ。仕方ない。あとで埋め合わせを必ずすると言って、許してもらった。今日はシェリーとユリンとともに行動してもらうわけだが、いくら毒気が抜かれているからとはいえあのふたりだ。クスドとともに行動しているハーモンとコウがいるからとは言えど、クスドは心が休まる時間がなくて、参るかもしれない。
なにかクスドたちが喜ぶようなプレゼントをしてやりたいが、生憎俺には普段から誰かにものを贈る習慣はないし、センスだって無いと自負している。所持金はあれど、ヒナたちに満足なプレゼントができているかすら危ういのだ。それがクスドたちが喜びそうなものを与えるとなれば、飯くらいしか思いつかないのが悲しくなる。
気を取り直して、ヒナが選んだスポットは、ボートによる市内ツアーだった。
戦前は観光客の予約が殺到したそうで、大型ボートによるツアーだったのだが、今は規模を縮小して数人乗れるくらいのボートでシュプレー川を下る。
だが、それくらいでいい。俺たちの他にも客はまばらにいて、各々が景色を楽しんでいる。
「へぇ………初めて水の上を走るボートに乗ったけど、こんな感覚なんだねぇ」
「気を抜くと酔うからな。はしゃぎ過ぎないよう注意するんだぞ?」
「大丈夫だよ。普段、私たちもっと激しいのに乗ってるじゃない」
「まぁ、そりゃそうなんだけどさ。………うっ。わかってはいたけど、水の上だと寒いな」
風が頬を撫でる度に体がブルリと震える。
するとヒナは寄り添ってくれた。分厚いコートを着用しているから体温を共有することはできないが、近づく頭と頭を擦り寄せて、少しだけ温まることができた。
宇宙コロニー出身であるヒナは、川どころか海さえ初体験だ。
サフラビオロスは中流階級のコロニーだが、資源は限られている。当然だが地面を掘れば埋蔵金が出てくるわけではない。
上流階級が住うコロニーには擬似的な海水浴が楽しめるところがあるようだが、地球の海の塩分濃度に比べれば大したことはない。
サフラビオロスではマリンアクティビティがないどころか、水で遊べる施設なんかない。シャワーくらいだ。
そんな彼女はボートに乗ると、沈まないかどうか確かめて、しばらく怖がっていたがすぐに慣れた。
「こういう時間、いつもあればいいのにな」
「これから忙しくなるからなぁ。休暇は優先的にもらえるだろうけど、被るかどうかだな」
「特別休暇が終われば、夜に一緒にいる機会も減っちゃうのかな」
「それはあり得る………はは。なんて顔をしてるんだ。まるで世界の終わりみたいな」
寄り添うヒナがショックを受けて、眉をハの字に曲げて、大きく口を開いて見上げていたので、可愛くもあったが、なんだか餌を欲しがる鯉みたく見えてしまい笑ってしまう。
ただ、彼女にとっては深刻な問題だった。俺にとっても、調整という意味では、不都合が生じてしまうのもあるが。
「じゃあ、フラストレーション貯まる一方じゃん! エー先輩とどれだけ一緒にいられるかが問題なのにさ!」
「わかってるって。そこら辺はレイシアさんに相談してみよう。グラディオスで泊まり込みでガリウスの調整をするとか言ってさ。そしたら俺の部屋が使えるだろ。勤務先はどうせグラディオスだ。居住区だって完全に封鎖されたわけじゃないよ」
「そ、そっか! その手があったんだね! よーし、それなら私もガリウスの整備、手伝っちゃおうかな」
「パイロットにはパイロットの仕事があるんだ。下手に首突っ込もうとするんじゃないよ。怪しまれ………いや。最初から魂胆は見抜かれてるから、俺が目の敵にされるだけか」
グラディオスでは、一部に限って、俺の敵が増えた。
男女交際していない、あるいはその機会がない、あるいは彼女に振られたとか、そういう理由で、俺が同時に3人と関係を持ってしまったクズっぷりに立腹している連中だ。徒党を組み、俺をチクチクと攻撃するんだもんな。たまったもんじゃないけど、だからと言ってヒナたちを下手に拒絶すると、今度は彼女たちの手によって地獄を見ることになる。それも経験済み。
「ヒナ。この戦いが終わったら………」
「結婚する?」
「フラグ立てんな。ブチ折るけどさ。そうじゃなくて、家を買おうかなって思っててさ。どこかに………地球か、コロニーか。………上流階級のコロニーに行けば、そういう野郎もいそうだし。一夫多妻が可能………かも?」
「エー先輩も大変だねぇ。原因を作った私が言えたことじゃないけどさ」
「結局のところ、なにが正解なのかもわからねぇんだよ。このままズルズルと引きずって、現状に甘えて………それで、いいのかなって。いつも思ってる。真剣に」
「エー先輩………」
ヒナは心配そうにしながら顔を寄せ、俺の左手を包むように両手で握った。
「大丈夫。エー先輩の選択なら、私は拒まないから。自信持っていいんだよ?」
ああ………やっぱりヒナはいい女だな。いい子という意味ではない。もう子供扱いはできない。
しばらく寄り添って、ボートが観光名所のひとつである博物館に到着する。ツアーはそういう名所に降りて、観光してはボートで移動するのを繰り返す。
数時間で終わるツアーだが、とても満足できた。
ヒナと一緒だからだ。
この3日間で、彼女たちの新たな一面を見れた気がする。発見も多かった。
来てよかった。不満もない。満足だ。
明日の正午を過ぎれば、ドイツ支部に戻って、翌日から仕事が始まる。未だなにをするのかは知らされていないが、きっとドイツ支部との合同演習についてだ。
タキオンを見せるわけにはいかない。きっとガリウスGのみで出撃する。
タキオンが使えない以上、俺がやることはない。精々、製造ラインの助勤くらいだろう。新しいジャケットの問題もある。
《………ハルモニ》
《イェス。メカニック・エース》
《もう向こうさんは、隠すつもりはないらしい。堂々としてやがるじゃないか。記録を続けろ。俺の予想が正しければ、きっと明日も来る。捕まえるぞ。今から準備しておけ》
《イェス》
ヒナには悟られぬよう、脳内チップを介して指示を出す。
昨日も、一昨日も、ずっと違和感を感じていた。
近くには護衛もいるが、彼でも気付けない違和感の正体。
今もなお、木の陰から、ジーッと俺たちを観察していた。
▼▼▼▼▼
同時刻。
グラディオスの自室にて。多くの部下がグラディオスに揃い、特別休暇を得る前に大きな傷を直してしまおうと大勢の整備士が出勤していた。
ドイツ支部の整備士たちの協力と連携で、グラディオス自体はすでに修理へと向かっていたが、艦載機だけはどうしても時間がかかるのだ。カイドウはほぼ休日を返却し、少ない部下たちとともにガリウスGのナンバーズの修理を行っていたのだが、連日の勤務による疲労も蓄積し、休憩に出る回数が増えた。
また、多くの整備士たちもカイドウの申告のない勤労、つまりサービス残業を翌日も執行しているカイドウに尊敬の念を込めた視線を送ったが、なかには体調を気遣うもののあった。
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