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それぞれの時間②

 3日目。


 この日はユリンの番。早朝からまた連れ出された俺は、朝食のために国会議事堂の屋上レストランまで足を運んだ。


 こんなところにレストランがあったとは知らなかった。けれど有名な場所らしいとユリンが教えてくれた。


 どうやら、昨日はクスドを早々に捕まえて、ヒナと一緒にデートプランを練ったらしい。ごめんなクスド。相当酷い目に遭ったのか、昨日は帰ってきたら鶏ガラみたいな痩せ方をしていた。どんなカロリーの使い方をしたのだろう。


 十分な時間を用意されたユリンとヒナは、お互いにスポットが被らないよう配慮したらしい。あの人間関係が崩壊することこそ喜ぶユリンらしからぬ協調生に感心した。


 そんなユリンが選ぶデートは、大人しく観光名所を練り歩くシェリーとは違い、アグレッシブな食べ歩きの旅。


 とにかく食べる。腕の端末ではなく、わざわざ部屋にあった備え付けのメモ用紙にペンを走らせて、行きたいところをリストアップする徹底ぶり。


 これなら確かに、すぐに場所の住所を見ることができる。それもメモ用紙は1枚で足りず、コートのポケットからは何枚も出て来るんだもんな。


 地元民ではない俺たちは、住所なんぞ見ても「あ、ここだ」とはならない。


 軍人身分は現地民を恐怖させるかもしれないので、腕の端末は支払い以外で見せないことにしている。よって、メモ用紙を手渡された俺が脳内チップを介して住所を検索していた。これなら端末を使わず、脳裏に描いたマップにダイレクトで場所が表示される。とても便利。


「そこがどこだろうと、コークの味は最高ねぇ!」


 恍惚としながらジャンクフードを貪り、コーラを飲むユリン。


 お嬢様っぽいコーディネートに似合わない豪快さ。原作でも語られることがなかった裏の、いや本当の一面に、俺はつい微笑しながら、パンを齧る。


「ねぇ、次はあそこ行きましょお! ねぇ、エー先輩!」


「わかった。わかったから。引っ張るなって。………うっぷ。どれくらい食べるつもりだよ」


「あら情けない。私なんて、まだ腹4分目よぉ?」


「俺は7分目なんだよなぁ………」


 紫色の長い髪が踊るように跳ねる。毛先まで手入れが行き届いた、絹糸を思わせるサラサラとした手触り。見た人間の誰もを振り返らせる笑顔。サイコパスな一面が去り、ユリンは純粋に俺とのデートを楽しんでくれていた。


 正午になるまで食べ歩く。小休憩を挟みたいと訴えたところ、仕方なくカフェに入ってくれた。


 ふたりでホットコーヒーをオーダー。窓際の特等席が空いていたので、そこに腰を下ろす。


「それにしても………よく食べるなぁ、ユリンは」


「グラディオスでは抑圧されてたからかしらねぇ。でも、お陰でウェストがかなり引き締まったわ」


「じゃあ、やっと満足できたかな?」


「面白い冗談ね。お祭りはまだまだ続くわぁ」


 まだ食うと。


 いったい、ユリンの細い体のどこにそんなものが詰め込めるというのだろう。


「あ、そうそう。エー先輩。近く、グラディオスとドイツ支部とで合同訓練が実施されるそうねぇ」


「耳が早いな。艦長と支部長が旧知の仲みたいでさ。早い段階で、何回か実施するんだと」


「整備科は大変ねぇ」


「俺も顔出さないとなぁ」


 ドイツ支部の往年のパイロットであるシュナイツであるからこそ知っているだろう情報だったのに、ユリンはやはり情報の収集がうまい。もう仕入れていたとは。


「こっちのガリウス、動くのかしらねぇ」


「大気圏内用の装備に換装すれば、飛べるようになるさ。でも、やっぱり重力圏にいると、どうしても身軽な方が飛びやすいし。なにより空気の抵抗を考えるとなぁ」


 思い浮かぶのは、まだ宇宙にいた頃にカイドウに見せた、ガリウスGの改修プランだ。


 実現は遠いが、もし可能になれば、大気圏内での戦闘が楽になる。整備が困難になることを代償に、機動性が向上する。その際、パイロットたちはさらなる訓練が必要になるのだが………みんな、やれるだろうか。


「タキオンは心配ないの?」


「ああ。タキオンは両方の環境でも使えるからな。そうなるよう設計されてる。だから簡単な換装でいけるよ」


「ずるいわぁ。あ、いいこと思いついた。それならタキオンを、サブフライトシステムにするの」


「常におんぶしろってか。けどいいこと教えてやるよ。二号機は引き続き、パピヨンジャケットを使える。むしろ大気圏内の方が揚力をうまく掴めるし、俺の上に乗らなくても飛べるさ」


「あら、つまらない。じゃあエー先輩の上に乗るのは、夜だけにしておくわぁ」


「いつものことだろうに」


「そうねぇ」


 ユリンは受け身にはならない。いつも責めたがる。上に乗るのはいつものこと。上から俺を俯瞰して、両腕を掴んで反応を楽しむのだ。反撃できたのは、つい最近のことだし。


 ………やめよう。まだ昼だ。はしたない考えは無しだ。


「それで? 次はどこに行く?」


「エスコートしてくださるのぉ?」


「いつでもするさ。ユリンが喜んでくれるなら」


「いつも喜んでるわぁ」


 コーヒーを飲み終えて、次の店に行く。歴史を感じさせる街並みを、ユリンと腕を組んで歩いた。


 目的地は案外近くにあった。ユリンは目を輝かせ、店を指差す。


「あれよぉ! あれ! やっぱりドイツに来たならカリーヴルストは食べておかないとねぇ!」


「お、それなら俺も知ってるぞ。最強コスパの大衆食だな」


 早速店に入る。そこは前世で言う立ち食い蕎麦屋みたいな内装で、テーブルこそあれど椅子がない。誰もが立って食べている。


 そこで嗜まれているものこそ、目的たるカリーヴルスト。焼いたソーセージをカットして、ケチャップとカレー粉で味付け。フライドポテトの量も多い。二股のフォークで刺して食べる。


 ケチャップだけなら前世でも親しまれてきた味だが、そこにカレー粉をプラスするという試みは初めてだ。


 消化も進んで、また食べられるようになった。適度な空腹感が味わいを増してくれる。


 ケチャップにカレー粉をプラスするのでは辛くなるのでは、と不安になったが、案外辛くない。スパイスが効いたケチャップと、ソーセージとフライドポテト。うまい。


 ユリンはまたコーラを注文。俺もだけど。


 組み合わせもいい。やっぱり最強だな。


 けどね、一番最強なのは、やっぱりビールよな。久々に飲みたくなるよなぁ。ビール。本場ものと聞けば涎を垂らさない飲兵衛はいない。


 でも、でも………っ。飲みたい………っ! けど………我慢っ!


「エー先輩っ」


「へびやっ!?」


「蛇屋? おかしなひと」


 ユリンめ。なにかを察して、ケチャップがついていたであろう唇の端を舐め取りやがった。周囲の人間たちの視線と反応が変わる。微笑ましげにしているひとたちもいれば、見せつけてんじゃねぇよと蔑むひとなど。


 蠱惑な笑みを浮かべるユリン。勝てる気がしねぇ。でもお陰で、羞恥で飲酒の欲望が消えた。


「………」


「どうしたの? エー先輩」


「………いや、なんでもないよ」


 こんなところじゃなければ、すぐにでもユリンにキスして押し倒したくなるのだが、気になることがひとつ。


 どうも昨日から、この違和感が続くのだ。


《ハルモニ》


《イェス。メカニック・エース》


《記録と解析、できるな?》


《すでに完了しております。先日のものと一致しております》


 なるほど………ね。


リアクションありがとうございます!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

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