それぞれの時間①
昨晩は、彼女たちがお楽しみでした。
間違えちゃいけない。彼女たちがだ。
そりゃ俺だって夢心地だったよ? いつもと違う環境だし。でもデートの順番を巡って争ったりするのはなぁ。予想はできていたけど、泥沼みたいなジャンケンだった。2日目、つまり最初に俺を独占する権利を得たのはシェリーだった。
そうしたらユリンとヒナが八つ当たりするみたくガンガン責めてくるの。死ぬかと思った。けど久々に彼女たちと触れ合うことで、俺自身のチューニングが完了した。
実は彼女たちと触れ合えない時、ドイツ支部の医療機関に収容されていた時なんだけど、日に日に睡眠時間が減っていた。大っぴらに3人の女と付き合ってます。なんて言えないもんなぁ。
で、翌朝に叩き起こされた俺は、先日に3人それぞれからコーディネートを受けて、3着の私服を購入。デートで着てほしい服なんだとさ。3人も服を購入した。支払いは全部俺が持つ。それくらいはしないとね。
シェリーもデートに合わせた服を着ていた。季節は秋。昨日思い知ったのだが、秋といえどかなり寒く、ペンタリアルで購入した私服ではとても行動できたものではなかった。ゆえに真っ直ぐに向かったのが服屋。
夕飯をたらふく食べたあと、また服屋に行くんだもんな。もう日が傾いて、数ある建造物が夕日を呑み込んで、常闇で染めようとしている時間帯なのに。
服屋の外ではハーモンたちが護衛と談笑していたが、次第に元気がなくなっていく。男でファッションに興味があれば長居できるが、ハーモンたちは即決できるタイプで、主に男連中が俺たちに「早く帰ろぜ」と視線で訴えていた。
そんな心境も知らず、女子たちはハイテンションで服を物色する。ちなみにアイリの買い物に付き合わされていたソータもげんなりしていた。が、俺のアドバイスを忠実に守り、常にアイリの側にいて、適当な返事はせず、終われば支払いを自分が持っていた。ソータができる、アイリへの初めての贈り物。効果抜群。最初こそ遠慮していたが、嬉しそうにするアイリの笑顔は眼福。
視線を他のカップルに向けていたせいで、不服気味になったユリンが指を俺の鼻の穴に突っ込んで、ピアスがごとく貫通させようとした時は生きた心地がしなかったな。頬を膨らませたユリンの拗ねた顔は可愛かったけどさ。
さて、4泊5日の旅行で、1日ずつ俺は彼女たちに独占される。護衛はついているが、残してきたふたりが気掛かりでもあった。護衛の人数は3人で、ひとりは俺たち、もうひとりはどうせデートに出かけているソータとアイリ。最後のひとりは………ハーモンたち、ヒナたち、どのグループと一緒に行動しているのだろうか。それとの5人一緒に行動させているとか。その方がいいな。
「エー先輩。あれ、すごいですねぇ」
「ベルリン大聖堂だってさ。すごくでかいな。これだけのものを残せるんだ。ドイツ支部の防衛力って、すごいんだな」
「あ、ガリウスだ。Fですね」
「………よく見えるな。俺は鳥が飛んでるみたく見えて………いや、それにしては早いか」
大聖堂の広場にいた俺たち。するとシェリーは、大聖堂越しに空で演習を行なっているガリウスを発見したらしい。
俺はてっきり、遠くで鳥が飛んでるような黒い点が移動しているくらいにしか見えなかったが、スナイパーである彼女の視力は侮れない。シェリーが言うなら、バリアの外を飛んでいるガリウスなのだろう。
「ねぇ先輩」
「ん?」
「私、地球に来ても、きっと戦争続きだと思ってたんです。だって、地球より広い宇宙であれだけの戦闘があったんですから。戦い続ける日々は、終わらないだろうなって」
「実際、まだ終わったわけじゃないよ。これからも、まだ続く」
「それでも、今は………今だけは、こうして楽しんでも………いいんですよね?」
「当たり前だろ。シェリーはよく頑張ったよ。あんな超過酷な環境で戦い続けたんだ。なら、少しくらいご褒美があってもいいじゃないか。今は楽しもう」
「はい。ふふ」
シェリーは、この頃よく笑うようになった。
なんだか、彼女から相談を受けた頃が懐かしい。
シェリーは険しい表情をしてしまうが、それがデフォルトで、勘違いされがちなのだ。実際、ドイツ支部でも交流を目的に接近した支部に勤務する同世代の男女を視線だけでビビらせて、ショックを受けてしまったとも聞く。
俺の前だから、俺限定で見せる笑顔はとても自然で、強引に作った破壊兵器を思わせる悪魔の笑みとはかけ離れていた。
「シェリーは可愛いな」
「みゃっぐ!?」
「変な声」
「エー先輩のせいでしょう!? いきなり、なに言うんですか!?」
いきなりだなんて、誤解を招くような言動は感心しないな。夜はいつも可愛いって言ってるのに。
………やめよう。この例え方。どこぞの艦長を思い出す。俺が今はほとんど差がないクズとなりかけていても。プライドというよりも、現実になる方が怖いから。
「そう思ったから言っただけだよ。ほら、大聖堂に入れるみたいだ。行こう」
「………もうっ」
おっと。惜しいことをしたかな? シェリーがデフォルトの顔に戻ってしまったせいで、周囲の通行人がビビッて道を開けてしまった。
それでも悪い気はしないのか、ずっと俺の腕に手を絡めている。こういうところがまた可愛い………と言ったら、離れてしまうかな。
ふたりで大聖堂のなかに入り、歴史ある建造物を移動する。最上階まで階段で移動できるらしく、普段から鍛えていることもあり、苦労はしなかった。
ひととおり楽しんで外に出る。
次の移動先は決まっていた。それなりに距離があるが、移動もまた楽しむ要素のひとつ。
シェリーと手を繋いで道を行く。機嫌を損ねていたシェリーも、観光名所を楽しむにつれて怒りを忘れてくれたようだ。また自然な、年相応の笑みに戻る。
「ねぇエー先輩。ドイツってホットワインが飲めるんですって」
「………ダメだからな?」
「なんでぇ………いいじゃないですか。他の連中の目がないんだし!」
温めた酒はアルコールが飛ぶというが、酒の味と魔力を覚えたら、夜により凶暴になりかねないものな。
「酔っ払ったお前を背負って帰れば、抜け駆けしたって一発でわかるだろうが」
「私、そんな弱くない方だと………思うんですけど」
「飲んだこともないくせに。なに言ってんだか」
「まるでエー先輩は飲んだことあるみたいな口振りですね」
あるよ。前世でね。
「まぁまぁ、酒以外にも楽しめるところあるから。あ、ソーセージうまそうだな。食ってこうか」
「もう、話を逸らさないでくださいよ」
「はいはい………?」
シェリーを強引に店のあるところまで引っ張っていく。
それには、とある理由があった。
なぜだかは知らないが、なにか周囲で違和感があったのだ。
《ハルモニ》
《イェス。メカニック・エース》
《ちょっと頼みたいことがあるんだが───》
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