特別休暇③
借りたスイートルームは4つ。事前に部屋割りは決めてあった。
俺とヒナとシェリーとユリン。
ソータとアイリ。
ハーモンとコウとクスド。
あとは護衛だ。
なんていう、部屋割りの半分が不純異性交遊に特化しているのだろう。護衛なんて慣れていたのか「ああ、そうかい。若いっていいねぇ。はっはっは」と笑って、深く突っ込もうとしないし。止めろよ。せめて男女別にするとかさ。
………いや、わざわざ止めることはないか。ヒナたちが憤慨して、彼らに危害を加えかねない。
それ以前に、俺たちはまだガキではあるが、軍に志願したパイロットである。自己責任が付き纏うのが常。個人の失態など、誰も責任を取らない。一人前だと認められている証拠である。ゆえに護衛たちも余計な口出しはしない。
そして、誰も突っ込まないところを見るに、ソータとアイリはついに決心したのが半分と、周囲の理解が半分といったところかな。ソータとアイリが同部屋な件について、ふたりは交際していることを明言したのかもな。実にいいことです。仲人として嬉しくなる。今夜はあっちでお楽しみなんですね。盗聴器だけでも持って来ればよかった。失態だ。
盗聴器とカメラといえば、ソータとアイリの愛の営みという、第三者が知れば絶対に俺を軽蔑する衝撃映像があるのだが、結局は見れないまま、グラディオスの自室に保管されている。誰にも知られぬよう、できる限りの隠蔽も重ねた。脳内チップを経由して楽しまないのは、俺にそんな時間がなかったのと、ハルモニに知られる可能性があったからだ。
今はチームの協調性を調べるための参考資料だと思わせているが、もしこれでそのまま見てしまえばハルモニに具体を知られかねない。俺の持つ高性能AIは制限をいくらか設けられた、下位だからな。上位互換たるクランドやカイドウに知られれば、どんな目に遭うのやら。
最終的な手段として、レイシアとまた共犯者になるか───いや、レイシアが知りたがっているのは結果だ。過程のことなどどうでもいいし、他人の愛の営みなど見たいと………思うか?
いずれにせよ難しい問題なんだよな。見れるのは当分先になるだろう。
それはそれとして、割り当てられたスイートルームに入ると、全員が数分で部屋の広さと設備の規模や、豪華絢爛かつ清潔なそれに感動し終えて廊下に集合する。
ホテルを探検するのも悪くはないが、今日は観光に来ているのだから、日中は外に出なければもったいない。
ベルリンの街は、戦時下にあっても整然としていた。活気付く人々の営みがある。
ドイツ支部の防衛力の高さと、この区域で回っている経済が息づいているという証拠だ。なにより経済が回っていなければ、こんなホテルなど経営できないだろう。
多くの荷物を置いて、ほぼ手ぶらで外に出る。生前でいえば、腕の端末が財布とスマートフォンが一体化しているから、そこまで持ち込む必要がないのだ。
外に出ると、まだ日が高いこともあり、早速観光を開始する。
世界でも、観光できる場所があるのは、もう限られた場所になってしまっているらしい。
取り分けアメリカなどの上位の国は強固な防衛手段を有していて、上空に展開するバリアも厚ければ、数を増やしたり、畜層させたりと、収容できる人数を増やしている。
ドイツも畜層させられるほどのバリアの余裕こそないが、支部周辺のみがバリアで覆っておらず、ベルリンに限らずいくつもの地域をバリアで守り、繋げているらしい。
人間が増えれば、様々な需要が高まる。衝突、反発、差別なども頻繁に発生し、警察も出動しなければならなくなるが、ここはそれだけの文化を保てているのだ。
「エー先輩っ! 見てみて! お肉がいっぱい!」
「ドイツだからなぁ。産業のレベルも高いのか。まさか戦時下でこれだけのソーセージが食えるとは思わなかったけど」
なにがすごいって、グリルランナーがいることだ。
俺もパイロットとなった以上、食事量が増えたことだし、かなり多めに購入してしまう。初めて本場で食べるホットドッグだ。うまい。カレーの風味も合う。
地元のグルメというのも、とてもいい。特にこういう手軽に食べ歩けるものは───
「おかわり」
「私もよぉ」
こいつら………最初から飛ばし過ぎだ。
ハーモンとユリンが組むと、グリルランナーが苦笑しながらホットドッグを差し出す。遊びに来た軍人もよく利用するのか、クレジット払いにも対応していて、腕の端末をタッチして支払うハーモンとユリンは個数で競うつもりなのか、パンパンとタッチしてる。
結局、7個も食べておきながら「準備運動完了ぉ」とか言うんだもんな。いやハーモンには食事量を増やすことを推奨したこともあったけど、もう俺よか上じゃないか。
これから夕飯だというのに、満腹になっても知らないぞっと。
「エー先輩! コークよコーク!」
路上でドリンクを売っている店を発見したユリンのテンションが上がる。
途端に全員がギョッとする。こいつ誰? と。
そういえばユリンの好物がジャンクフードで、コークをこよなく愛していると知っているのは俺だけだった。
俺たちはユリンに誘われるままドリンクを買い、街中を練り歩く。
けど………なんていうか、この世界って一応現実なんだけど、架空のアニメが原作だし、深夜アニメだし、ある程度の規制はないのだろうけど、現実世界の法まで適応しているとは思いもしなかった。
きっかけは、ハーモンの一言だ。
有名な軍人の家系だし、地頭はいい。記憶力もある。そんな彼が一言、ボソリと呟いた。
「そういえばドイツって、16歳からアルコール飲めるんだよな」
アルコール───飲酒に、ピクリと全員が反応する。
「そ、そうだね。ドイツでは16歳からアルコールが飲めるはずだよ。ビールが有名だよね。はは………」
薄く笑うクスド。目が泳いでる。
それから全員の目が泳ぐ。
「………15歳のひと、手をあげて? ………いないね」
ヒナまでそんなことを言う。
………こいつら。
「ダメだからな?」
「エー先輩っ!?」
「いや、なに未成年が酒飲もうとしてんだよ。許さないからな?」
釘を刺しておいて正解だった。
半数が泣きそうになり、もう半数ががくりと肩を落とす。
「で、でも! せっかくここではお酒飲めるんですよ!?」
「地元の16歳からな。外国人が飲んで許されるとは限らないだろ」
「殺生な………お、俺だって………酒には人並みの興味が、あるんだぞ」
シェリーとコウまで飲みたかったのか。
サフラビオロスは未成年飲酒に厳しかったからな。酒を買えるはずがない。
こいつらも全員16歳。俺も覚えがある。未成年の頃は酒を飲むことに憧れがあった。
実際に飲んだのは───おっと、これ以上はいけないな。こいつらを同じ道に落としちゃいけない。大学2年生の春休み、家で酒浸りになるくらい飲んでたなんて知られちゃいけないしな。
酒にはそんな魔力がある。こいつらをその魔力に関わらせるわけにはいかない。
インビスで軽食とアルコールがセット料金で売られているからといい、全員の注文を監督して、ちゃんとソフトドリンクをオーダーさせる徹底ぶり。
夕飯になっても酒を飲んでみたいとうるさかった。けど、ダメなんだな。それはそれ、これはこれ。
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未成年飲酒、ダメ絶対。作者が初めて飲んだのは………おっと、誰か来たようです。
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