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特別休暇②

 翌日から始まる特別休暇は、なんとクランドの旧友という、ドイツ支部の支部長の計らいで、ベルリンのホテルを予約してもらえることになった。


 せっかくの休暇だ。軍服など野暮。ペンタリアルで購入した私服に袖を通し、出かけることに。


 俺の私服は鼻血で汚してしまったが、クリーニングは済んでいたので安心した。


 白いTシャツと灰色のジャケット。デニムという至って平々凡々という装い。これをコーディネートしてくれたシェリーはわかっている。


 後輩たちも私服に着替えて、着替えを詰めた鞄を提げてロビーに集合した。


 アンノウンと戦うために組織された支部に、まるで観光気分で訪れた一般人のような外見はかなり目立つも、見送りに来てくれたシドウとレイシア、それから俺たちを護衛してくれる3人の砲術士たちも一般人を装っていて、ドイツ支部の人間からジロジロ見られたが変な指摘や冷やかしは受けなかった。


「では、5日後にな。なにをしてもいいが、夜間の外出は控えろ。トラブルを起こさないよう心掛けるように。ハメを外しすぎるなよ? 腕の端末からクレジット払いも可能だし、お前らの位置情報を報せるツールだ。絶対に手放すな。それからなにかあれば俺かアーレス砲雷長に連絡しろ。時にアーレス砲雷長は、なにがあっても駆けつけるつもりだ。そこは安心していい」


 これでは、まるで修学旅行の自由時間に注意事項を述べる引率の教員だ。


 で、あっちはあっちで、変なことをし始めているし。


「いい? Sプランになったら使うこと。それから、この前の買い物で気になったから買ってみたの。Tプランの時は躊躇いなく使っていいわ。効果は抜群だったから」


「あら。もう実証実験済みなのねぇ」


「もちろん。自分で使わないと、わからないことだってわるからね」


 レイシアは紙袋をユリンに手渡す。酷いことをしやがる。きっとろくでもないものが入ってるんだぜ? あれ。


 俺はレイシアとシドウを交互に見る。視線に気付いたシドウは「聞くな」と呻き、若干顔を赤らめていた。お熱いことで。


「みんな。車借りてきたぜ」


「とりあえず2台あるから、分かれて乗ってくれや」


 護衛のふたりが軍とは関係のない企業からレンタカーをして、施設まで運転してきてくれた。


 俺たち9人と護衛3人。計12人だから6人で乗れる車は、かなり大きい。8人乗りだからか。これなら悠々と座れる。


 俺が先頭の車に乗ると、当然のようについてくるヒナ、シェリー、ユリン。なんか早い者勝ちみたく足早になってると思えば、俺は後部座席に押し詰められ、ユリンが右へシュルンと飛び込み、左をシェリーが強引に腰を下ろす。負けたヒナは渋々と真ん中の席へ。


「い、嫌だ! 僕はこんな殺伐とした空気の車に乗りたくない! 代わってよハーモン! お、押さないでコウ!」


「諦めな、参謀ドノ」


「お前の死は無駄にしない」


 せっかく中央の席が空いているのだから、という理由で、クスドがハーモンとコウに押されて先頭の車に押し詰められる。


 ………いや、おかしくね? 3列あるなら、ふたりずつ座ればいいのに。なんでとは言わないけど、俺の隣を独占したいからって3人で座るかね?


 そのお陰で後ろの車は悠々と5人で座れてる。羨ましい。俺は狭いし手の置き場に困るし、察したふたりが手を握ってきたし。前の列に座ったふたりの護衛がからかうように笑ってるし。ヒナの睥睨で黙らされたけど。


 さっきからずっと、ヒナが俺を睨んでる。羨ましそうにしてる。前見ないと酔いそう。


 クスドは気の毒に、ヒナの殺気に当てられてずっとガクブルしてる。あとで頭撫でてやらないと。


「………ん?」


「どうしたんですか? エー先輩」


 少し気になることがあって視線だけでなく顔を横に動かす。シェリーと目が合ったので、身を乗り出して車窓から外を出た。


「知り合いでもいたのかしら?」


「いや、そうじゃない。けど………なんていうかな。ほら、ここに来た初日、なんか叫んでた奴がいたじゃん。イケメンのキンタマ握り潰そうとした女。あいつが見えて………あだだだだ! ちょ、ちょっとなにすんだシェリー! 俺の指を握り潰そうとするな! ユリンは俺の足をつねるな! い、痛い! 痛いから!」


「私たちがいるのに、他の女に目移りするなんていけないひと」


「お仕置きよぉ。ホテルで可愛がってあげるわぁ。Tプランがきっと火を噴くわよぉ」


「隣に座れなかった分、倍返ししてやる………」


 どうせね、今夜はお楽しみなんだろうね。彼女たちのね!


 俺はまた蹂躙されるだけ。けど、3日間の療養は自室じゃなかったから、ずっとお預けだったもんな。むしろよく我慢できたと褒めてやるべきだ。


「そ、その前に観光だろ! クスド! ほら、プランを練ったんだろ? 教えてくれよ」


「Eタイプに対する戦闘でかなり消耗してしまった。やはりフェイズ4でもっと詰めた方がよかったか。それではエー先輩の負担が大きい。ならフェイズ5で陣形を広げつつも、もっと効率的な戦略を………いや待てよ? フェイズ6でも改善が出せるな………」


 クソ。クスドの奴め。巻き込まれたくないからって、腕の端末でモニターを出し、この前の作戦の反省会をして自分の世界に没入してる。俺の声なんて聞きたくないってか。あとでグリグリしてやろう。ナデナデは無し。


 30分ほど運転して、目的地に到着する。


 数少ないホテルのひとつ。けどかなり大きい。


「よし。チェックイン完了。喜べお前ら。なんと最上階のスイートルームを抑えたぜ。やるねぇ、ドイル支部長は」


 ロビーに着くと、なんとボーイがいて、荷物を運ぶカートを出してくれたのだが、あいにく手提げ程度の鞄しかないので断る。


 荘厳な造りをしたホテルは、ロビーから立派だった。なにしろ天井が高い。というか最上階まで吹き抜けとなっている。すげぇ。高級ホテルじゃん。


 俺たちが乗った車の助手席に座っていた砲術士も一緒に降りて、チェックインを済ませて戻ってくる。その頃には駐車場に停めたふたりも合流した。


 ていうか今、スイートルームとか言わなかったか?


「そ、それってかなりお高いんじゃ………」


「なにビビッてんだよ副隊長。あのな、お前たちの緊急出撃手当ての額、知ってっか? 1回だけでここのスイートルームに10泊くらいできるぞ? 特に副隊長クラスになれば、もっと連泊できる額だ。てかエース、お前色々な科にいんだからよ。俺らより稼ぎいいんだから、胸張りな」


 俺が副隊長になってからは、整備士見習いではなくパイロット科に移籍したから、ドローンカメラの頃からとんでもない回数の出撃をした。基本給でいえば整備士、パイロット、参謀補佐の3つを兼任する分増えるし、脳内チップのレポートにも報酬がつくし。


 どうやら俺は、このなかで一番のリッチマンらしい。


 ヤベェ。今すぐ口座の残高を確認したい。でも腕の端末を堂々と公共の場で見せるわけにもいかない。軍人だと警戒されると聞いたことがある。どうしよ………あ、脳内チップを解すればいいじゃん。


 さてどれくらい………


「っ………!?」


「どうしたの? エー先輩。トイレ行きたくなった?」


「な、なんでも、ないよ」


「そうなの?」


 ヒナが俺の表情が強張ったのを一瞬で察知する。どんなレーダーを積んでるんだこいつ。


 いや、それくらいわかりやすかったんだな。今の俺の反応は。


 すごかった。俺の口座には日本円にして、1000万円は超えている額があったのだ。


 怖すぎる額だった。


ブクマ、リアクションありがとうございます!

しばらく平和な日常が続きます。でもいつかは………あの面白ぇ女を出そうと思います。


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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