特別休暇①
激戦を終えて、原作どおりドイツに降り立って3日が経過した。
これはよくある設定に準じているのだが、人類が宇宙に進出した影響から、何十年も前から世界の標準語が英語ではなく、英語を基にした世界標準語という言語が作られ、今や世界中の人間が、宇宙にいる人間が、統一された言葉を喋るようになった。
当然、俺もそれが使える。さもなくば、ドイツに降り立ったのだからドイツ語を喋れと強要され、会話もままならず、意思疎通ができなかっただろう。
3日というのが全クルーに与えられた休暇で、上長以外はグラディオスの外にある、ドイツ支部の宿舎を使わせてもらっている。
しばらくは揺れない大地で過ごせる。グラディオスも基本的に揺れを感じることはなかったが、重力発生区画と無重力区画を往来するというのは、慣れていたとしても、やはりどこか落ち着かないものだ。
それに、時間の移り変わりを明確に景色で理解できるようになったのが素晴らしい。
朝がきて、昼がきて、夕方を迎え、夜となる。東から昇る太陽を西へ見送るというのは、常に漆黒の闇だった宇宙空間ではできないことだからな。
そして思い切って外で食事をするのもいい。食堂の食事もいいが、受け取ったトレーを片手に、外に出てカップに注いだコーヒーを飲みながら食べる。なんて贅沢で優雅なことだろう。
俺は今、生前にような生活ができるわけだ。
………これで、プライベートな時間が増えれば、なにも言うことはなかったというのにね。
「エー先輩っ。特別休暇、パイロットは優先的に伸びるんだって。どこか遊びに行こうよ」
「いいね。ペンタリアルみたく、みんなで行こうよ」
「ちょっと、男子は黙っててよ。デートの邪魔すんな」
ヒナが最新の噂を仕入れて、昼飯時に発表する。するとソータが提案し、シェリーに却下をされた。
「いいよ。まずみんなで行こう。下見ついでにさ」
こういう時、歳上ならではの余裕ぶりを発揮しなければならない。
忘れがちになるが、こいつらは軍人である以前に、まだ16歳なのだ。遊びたい盛りだし、あのストレスがマッハで蓄積する環境下にいたなら、ガス抜きもしなければならない。
パイロットの休暇が優先的にもらえるのなら、それを利用してみせる。
基本休暇の3日間で、俺はなんとか回復できた。
第12話の激戦を経て、なんとか艦内に収容されると、すでに用意されていた担架に乗せられた。
ヘルメットのなかに蓄積した鼻血で溺れかけるくらいの出血だったから、外見が酷いだけで、そこまで体に異常はないかなと油断していたら、やはり脳内チップがオーバーヒートしていて、脳が焦げる寸前だったらしい。マジで危なかった。再生治療を受けても脳が元に戻るかどうかというくらいのダメージだとか。
治療ポッドに漬物みたくジャブジャブと漬けられて、機能が回復したら、グラディオスは地上に降り立つシークエンスに入っていた。
大気圏突入のダメージを加味しても、3基のレイライトリアクターだって過多気味な稼働を続けたのだ。荒れる着地になるかと思いきや、操舵手の腕がよく、想定内の揺れで収まる。
その10分後。メディカルルームは急に慌ただしくなった。ドイツのベルリン支部に降り立ち、クランドがそこの支部長と交渉し、まず怪我人の収容を可能にしたからだ。大勢が退艦していく一方で、俺はレイシアに言われて治療ポッドをひとりで出た。
ははっ。治療ポッドの利用数が、クルーのなかでもダントツで1位の俺を舐めてもらっちゃ困るね。ひとりでできるもんっ。黄緑色の液体が流れて、そこから這い出る。足がうまく動かないからってなんだ。腕は無事。上体の筋力だけでポッドから降りると、備え付けのタオルで体を拭いて、着替えをする。慣れたもんだ。
軍服に着替え終わると、ヒナたちが迎えに来てくれた。どうやらパイロットは優先的に降りれるらしい。整備士はここからが大変だしな。逆にパイロットはやることがないから先に休めと。
初めて降り立つドイツの大地。生前、憧れた旅行先だったけど、まさかこんな形で叶うことになるとは。
「うるせぇブチ殺すぞ。このフニャチン野郎」
………怖。
女の子がイケメンのタマを握り潰そうとしてる。
どこにでも、ああいうタイプっているんだな。気を付けないと。
車椅子に乗って施設にある医療機関に収容される。だが、いくらアニメの世界とはいえどこにでも治療ポッドがあるわけではない。それが普通なんだけど、どうしても原始的な治療に思えてしまうんだな。グラディオスが最新鋭艦ゆえに搭載されていただけなんだけど。
3日間の療養で、俺は自分の足で歩けるまで回復していた。周囲の怪我人とは違い、投薬も不要。俺は寝ていれば治るから便利だ。
休暇をすべて寝て過ごすのは勿体無い気がするが、久々になにも考えずにいられる時間を過ごせただけ、有意義だ。
3日後、現場に復帰しようとした俺に告げられる特別休暇。本当にいいのかなと疑問に思い、ハルモニに脳内チップで尋ねてみたところ、カイドウからメッセージを預かっているという。開けてみれば、やはりというか、見抜かれていた。『ワーカーホリックに逆戻りしているクソガキへ。お前の仕事は当分回ってこないので、ガキはガキらしく遊んでなバーカ。仕事なんてさせねぇよ』だとさ。
その荒々しい文言はどうであれ、内容はホワイト企業を思わせる。有給の延長だなんて聞いたことがない。
ゆえに俺は、ペンタリアルでの休暇がたった数時間で終わってしまったこともあり、パイロットと参謀が獲得した特別休暇を、早速利用することにした。
俺はその日、ドイツ支部のガリウスFのパイロットという往年の男に声をかけた。
向こうは宇宙から来たエリートと聞いて緊張していたが、それがまさか子供だとは思わなかったのだろう。砕けた感じで対応してくれた。
機体についての勉強を主題に、地上での戦闘での注意点を聞き出す。その際、それとなく褒めるのも忘れずに。気をよくしたシュナイツという男は、なんでも教えてくれた。
すっかり仲良くなったところで、ドイツ支部が防衛している街のことについて聞く。これからが本題。休暇をもらったのだが、どこに行けばいいのかわからないと相談した。
すると、それについてもなんでも教えてくれた。なんとドイツ支部の防衛力は世界でもトップで、アメリカに比肩するのだとか。主要都市の防衛。それ以外にも美しい大地を防衛し、街に住む人間の心の平穏を守っているのが誇りなのだとか。
ミュンヘン辺りは過疎化してしまったが、ベルリンの周辺なら観光することはできるらしい。
俺とシュナイツは、近く合同訓練が実施されるという噂を聞き、そこで再会しようと約束して別れた。
都市の主要機関とライフラインが確保されているなら、外泊することも可能だろう。まさかビーツの魔の手がここにまで届いている───とは考えにくい。あいつも暇ではないだろう。
クランドにメッセージを送信する。こういう時、脳内チップがあると便利だ。歩きながら作成と送信ができる。それも5秒で。
3分後、クランドからメッセージが返る。
パイロットと参謀の外泊許可だ。5日しか取れなかったが、まぁこんなところだろう。むしろ4泊5日なんて、よく許可してくれたものだ。
ちなみに護衛がつくらしい。アーレスのところの射撃訓練を受けた砲術士たちだ。ペンタリアルでの一件を考えれば、警戒もするか。
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