ただの整備士Cちゃん
私の名前は櫻木椎菜。26歳独身。東京のとある市の工場に勤務する、ラインのオペレーター。
製造業に興味があり、専門高校を卒業すると同時に就職。
機械には強かった。高校生の頃、周囲がメイクやらアイドルやら彼ピやらでキャアキャアと騒いでいたが、私はその輪に入ることができなかった。変わった子だと一軍のグループから陰口を叩かれたが、慣れた。
そんな私が所属していた部活は、マンガ研究会。イラストにも興味があった。同志たる女子で徒党を組み、夏と冬に行われるコミックの祭典には欠かさず足を運び、いつか出展したいねと夢を語り腕を磨く。
内容は………男と男の激しい絡み合いをする、要するにガキには見せられない本。
中学生の頃、みっつ歳が上の姉が持っていた同人誌を発見。手に取ってみると、それまでボーイミーツガールの少女漫画しか読まなかった私に、衝撃が走る。最後まで読み切ったところで姉に発見され、軽蔑ではなく興奮を覚えたと告げると、姉は喜んで私に英才教育を施した。
多分、性癖がこれまでとは別のベクトルに曲がったのも、その時から。
私の画力の高さに姉は前々から興味を持っていて、男同士の絡み合いの細部に至るまで監督してくれた。
遙かなる高みを目指して。
高校卒業後、私の世代は大学に進学したり就職したりと忙しくしていたが、同人誌活動に手は抜かなかった。
ところが、そんな私たちに亀裂が生じる。大学を卒業すると就職だったり結婚だったりと、より忙しくなるなかで、自然消滅してしまったのだ。私を監督してくれた姉は、もうとっくに嫁に入って、子を持っている。
それでも同人誌を描き続けたい───無料通信アプリのグループトークで熱弁してみたが、同意を獲ることはできなかった。みんな、それほどもう熱意を持っていなかった。姉に酒の席で打ち明けると「そんなこともあったね。でもあんた、まだそんなことしてんの? 早く結婚相手を見つけな?」と言われた。知るかバーカ。
味方はいなかった。それでも私は諦めず、ひとりで同人誌を描くことに決めた。
利益なんて出なくともいい。私がここにいた証を残せなくともいい。理解を得たいわけでもない。
私は、なにかひとつ、やり遂げたかったのだ。
だが肉体労働のあとの執筆活動は、体にこたえる。年々、体力が落ちてる気がする。腰痛に悩まされ、激務なのに就寝時間を削った。食事もろくに喉を通らない日々。
そんな不摂生な生活が祟ったのだろう。
その日、私は集中力を欠いていた。ほぼ徹夜だった。おかしなテンションのまま朝を迎えると、そこから体力がグングンと減っていく。今日も上長から注意されるのだろうなと考えた矢先───出勤途中の私は、赤信号を渡ってしまい、トラックに轢かれた。
で、今に至る!!
死んだはずの私は、シーナ・サクラとして転生したのだ!
漫画やアニメ、ライトノベルの世界でもあるまいに。ハッハッハ。なんて笑いながら走馬灯間際で見た夢だと疑ってみたが、何日が経過しようが夢が覚める気配がない。
ここはドイツ。ベルリン支部。私は日系ドイツ人として、ここで勤務していた。ガリウスFの整備士として。
信じられなかった。
同時に、狂喜乱舞した。
だってさ、ここ………どう見たって「天破のグラディオス」の世界ってことでしょ!?
ああ、天破のグラディオス。私にとっての、心の癒したるアニメ!
壮絶な世界観とスケール………を語れるほど詳しくない。でも着目すべきは、やっぱりキャラクター!
ソータ。シドウ。ハーモン。コウ。クスド。この5人は外せない。どんな組み合わせでも白米3合はいける!
荒んだ心境。折れかけたメンタル。様々なネガティブな部分を優しく包み込み、妄想を加速させてくれたアニメ。酷い環境のなかでも輝こうとする少年や大人たちの姿に、何度励まされたことか。
有料配信サイトで高画質で何回も見直したり、バックミュージックにしたりと、私の作業を支えてくれたのだ。
で、死んだと思って目を覚ましたら、この世界の住民に転生していた。
ドイツにいることはわかった。ドイツ語はさっぱりだが、世界標準語で喋っていたので助かった。
私は学生だった。17歳の少女。しかし校舎が戦闘で破壊され、徴兵に応じるしかなかった。両親も幾度と発生した戦闘に巻き込まれて死んだらしい。そしてシーナ・サクラという少女は塞ぎ込み、引きこもった直後だったらしい。そこで私と入れ違った。
シーナ・サクラは私と似た経歴の持ち主で、まぁ所謂、他人と積極的に、必要以上に会話をしないタイプだったらしい。彼女の記憶もあり、私はこの世界を知ることができた。
そして彼女は生きることを諦め、自室で首を吊ろうとしたところで私と入れ替わる。それなら、私が代わりに生きるだけだ。椅子から飛び降りて、部屋どころか家を飛び出し、その足で軍の施設に志願しに行った。
生前は機械系に強く、そして彼女も同じような学歴だったこともあり、整備士となることができた。
軍人となって半年が経つ。私はガリウスFを担当することになった。
半年で私も数人くらいは会話するようになった。周りから声をかけられることは滅多にない。
周りの同性は………まぁ、なんていうか、可愛いからな。
ドイツ人だけではない。難民を受け入れたりしているから、人種は様々。ただ、やっぱり外国人というのは骨格や肉付きという、根本的な部分から違うのだ。
それに比べて私はどうか。
容貌でいえば、中の上、かもしれない。
けどさぁ、ここで邪魔をするのが日本人の、血筋というか、定めというか!
シーナは私と同じくらいチビで、胸板も薄く、尻も………まぁ、ちょっと物足りない。
つまり色気がない。絶望的に。
ハーフだろ? 日本とドイツの。日系ドイツ人なんだろ?
父親譲りの白い肌。母親譲りの容姿。
クソが。そのせいで私は、誰からも「お人形ちゃん」と呼ばれ、笑われる!
覚醒しろよエキゾチックな血筋! せめて奴らをあっと言わせるくらいの巨乳にしてみせろ!
と、シャワールームで怨嗟を述べても仕方がない。
でも、それでもいい。
私は、わかってた。自分のことではない。今後の展開というやつだ。
本編は始まっている。
私の計算が正しければ、この暗黒の生活も、今日でおさらばだ。
グラディオスが、来る。
本編第12話を終えて、ドイツ支部に降下するのだ。
さぁ、来い。ソータ。シドウ。ハーモン。クスド。コウは………残念ながら死んでしまった。一番性癖にぶっ刺さり、そして淡い恋の妄想までしたのに。
でも、それでも生き残った子たちに会いたい。
グラディオスの整備士になってやるんだ。
私はそのためにこの半年を我慢してきたのだから。
ブクマ、リアクションありがとうございます!
いかがでしょう。新キャラ。敵か味方か………それとも………?
作者からのお願いです。
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