反撃のグラディオスA09
「………まず、諸君らには感謝を述べたい。この艦を預かる者として、指揮を仕損じ、このような敗退をしてしまった私に、よくぞここまでついてきてくれた。ありがとう」
「艦長………」
「艦長っ」
もしかしたら最後になるかもしれない。
クランドの指示で、解放していた隔壁を閉じ、酸素を供給して、ヘルメットを外したクランドは素顔で対面した。
いつものようにブリッジから声だけを放送するのでなく、クルーの顔を見て、直接語りかけたかったのだ。その心意気に、数人が感動している。
多くのガリウスが出払ったハンガーは広々としていて、全クルーを悠々と整列させることができる。俺たちパイロットは最前列にいた。
「我々はこれより、かつてないほどの強敵に挑む。連合軍の選りすぐりの艦隊を単騎で潰したEタイプ。それも2体。前代未聞だ。勝機があるはずがない。………正直、私は諦めていた。それは諸君らも同じだろう。絶望し、家族の顔を浮かべ、平穏な場所で再会したい。そう願った者も少なくないはずだ。私もそうだ。それは恥ずべきことではないのだ。我々が、人間が、感情と言葉を取得した瞬間に得た権利でもある。誰にでも平等に、それがあるのだ」
クランドの妻は別のコロニーにいる。連合軍の本部があるところだ。月艦隊に近いのだった。本部には今、多くの艦隊が集結していると聞く。ならば一応は、安全だろう。
「だがっ! そんな、生きることを諦めかけた我々に、希望を与えてくれた者がいた! 今後、その者をグラディオスの戦術アドバイザーとして迎えることとなる! クスド・スクド、前へ!」
「はい!」
ここら辺は本編にもあった流れだな。見ていて驚いた。まさか本当に参謀にしちまうなんて。クスドは本編では「クズド」という遺憾でしかない名で呼ばれていたけど、才能を見出してからは栄転した。
「オペレーションテンハの立案者、クスドである。彼を参謀とし、今作戦を成功に導く! 諸君、確かに彼はまだ子供だ。だが、そんな子供たちに我々は何度救われた? 彼だけではない。艦を何度も守ったパイロットたち。整備士見習いとして励んだ学徒兵。そして………若干1名、規格外で有名な者もいるが、その者は特に貢献してくれたな。我々の肝を潰す勢いでな!」
途中から空気が変わったぞ。
誰が規格外だコラ。最後のブラックジョークなんて、各方々から「ハハハ」と笑い声が聞こえる。
「ドゥワッッハッハ! そりゃ違ぇねぇな!」
「驚かされるけど、その分生きた心地しないのよねぇ」
「でもそれがエース先輩のいいところだよね」
「毎度、心配するこっちの身にもなってほしいけどねぇ」
カイドウが爆笑すると、不満と評価が飛び交う。なんの吊し上げ大会だこれは?
「そんな子供たちの助力を得て、我々は明日を生きると決意した。すべてに諸君らの働きぶりを見て、誰も生きることを諦めていないと知った。それでいい。それでこそグラディオスのクルーである! 私も生きることを諦めない! 生きろ! なにがあっても! 戦って、その上で生きよ! これは大人も子供も、男も女も関係ない! ここにいる全員が共通して携える使命である!」
クランドの演説に力がこもる。
これでいい。俺たちが灯した蝋燭程度の小さな火が、旋風によって巨大な炎になりつつある。
「ここで敗退したまま朽ち果てればいい。そう思っている者は、もはやいないだろう!」
クランドは右から左へと視線を移動させる。
「そうだ。我々はここで終わるべきではない。愛する家族に会うために。そしてこれから愛すべき者に出会うために。我々が持つ、我々にしかない可能性を、希望を、体現するのだ!」
軽く後ろを振り返る。
もう、誰も暗い顔をしていない。精鋭部隊だからではない。クランドがそうさせた。
戦えば犠牲が出ることはわかっている。その犠牲を恐れるのは当然だ。クランドはその犠牲を恐れる心を麻痺させてはいない。
「かつてない強敵を前に、この艦も、人員も無傷とはいかないだろう。必ずしもどこかで被害が出るかもしれない。だが、その時こそ諸君らは、手を携え、ひとりでも多く助かるよう心掛けてほしい。………どこぞの副隊長はそれを履き違え、単独行動が目立って自己犠牲に走りがちだが、それを反面教師とせよ!」
「おいクランドォ! じゃあなにか? うちの副隊長殿は俺らとは違うから、絶対に見習うなって言いたいのかぁ?」
「いや、そこまでは言っていない。独断行動をするなと言いたいだけだ。彼もまた、志は我々と同じだと信じたい」
「じゃあそう言えやぁ。思い詰めたエースが暴走しやがったら、どんなことしでかすかわかったもんじゃねぇぞぁ! 例えばそうだなぁ。グラディオスを変形させるとか言いそうじゃねぇかぁ!?」
「ハハハハハハ」
このひとたちはぁ………っ。
「好き放題言ってくれますねぇ。リクエストがあるなら、お応えしますが?」
「おいバカやめろ! ほ、本気にすんじゃねぇ! ちょっとした冗談だろうがよぉ。は、はは………」
「う、うむ。表現がよろしくなかったな。私はきみを中傷したかったわけではないのだよ。許してくれ。………そんな目をして辺りを見るんじゃない! きみは本気でこの艦を変形させようというのかねっ!?」
トランスフォームか。それも悪くない。
ミチザネ隊の副隊長になってから、可能となる権限が増えたことで、俺は整備士見習いでありながらグラディオスという最新鋭艦を隅々まで調べることができた。
脳内チップも得て、様々な計算を可能としている。
以前よりそれに似たプランを考えていたのだが───残念ながら、グラディオスはトランスフォームできるほどの機構を持ち合わせていないし、強襲型にするならともかく、人型にするというのは無理だ。
人型にするには、なにかが足りなくなる。例えば、人間ではないものの、ティラノサウルスみたいな、手が極端に小さくなったりとか。
つまりグラディオスを人型にするには、大きくて長い足がある反面、小さな手がピョロッと肩から出ていたり、その逆も然り。不完全なんだな。全長300メートルの五角形な戦艦には様々な敷設がある。人型にするにはそれらを分断しなければならない。居住区の俺の部屋が真っ二つになるのは御免だ。
「聞いているのかねエース!」
「聞いています。トランスフォームは諦めますから。安心してください」
「………なら、いい。話が逸れたが………案外、みなリラックスできたようだな」
こんにゃろ。まだ俺をダシにするか。本編では静謐な空間から湧き上がる膂力のような、そんな興奮があったのに。俺をいじったせいで完全に脱力ムード。どうすんのこれ?
ひとしきり笑ったクルーたちは、すぐに静まるとクランドに注目する。
「ともあれ、その志はみなの胸にあることだろう。私も全力を投入する。ゆえにみなの全力を見せてくれることを期待する。生きて地球に降下するぞ。私たちならやれる。グラディオスを生贄にしようとした軍上層部の豚どもを仰天させてやれ! 我々の有用性を示し、今後は無視できなくしてやるのだ! 忘れるな諸君! 正義とは、結果を出した勝者が提示できるものである! 結果も出せず敗北した者に発言権は無い! ならば、このグラディオスのクルーとして、グラディオスの名を世界に轟かせ、勝者としての正義を主張するのだ! そして連合軍本部に後悔を与えてやれ!」
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」
原作とはちょっと違う文言だが、テンションは同じだ。
この演説により、グラディオスに炎が巻き起こる。
切り捨てられた者たちが這い上がるサクセスストーリーを作り上げると、心に誓った全員が、反撃の狼煙を上げるのだ。
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