終焉の譜C03
ピュアピュアなソータは、アイリを意識して、密着してからどうすればいいのかわからず、とりあえず腰を抱いて逃がさないようホールドしていた。雄としての性かな。
ところが俺を呼び止めた時、肉欲ありきとはいえ、一号機に搭乗した時のような、凛々しい表情をしていた。
意外な豹変。間近で見たアイリがときめいてやがる。いいね。
「どうした? ちゃんとするって?」
「俺、ちゃんとするから………こんな形になるのは嫌なんだ。いくらエー先輩に力を貸してもらったからって、これだけはちゃんと自分の力でやり遂げたい!」
「うんうん。それで?」
「ここから出して。アイリにちゃんと、伝えるから」
「へぇ。………いいよ。そこまで言うならさ」
ソータの真面目な言動に、心が動いた。
アイリをロッカーから引っ張り出して、肩にかけておいた避妊具の束を除去する。ベンチに置いておいた。今は不要だから。
次のソータを出す。この前みたく俺にもたれ掛からない。しっかりと自分の足で立って、アイリの正面に立つ。
「あ、アイリ………」
「う、うん………?」
「俺、ずっと前から………サフラビオロスにいた頃から………家族が死んで孤独になった俺を支えてくれる前から………アイリの、こと………」
「………」
頑張れ。頑張れソータ。
ていうか、俺が目の前にいるのにおっ始めやがったぞこいつ。
あれか? 俺はオブジェクトか。そうかそうか。ならいいよ。オブジェクトにでもなってやる。
俺的推し活史上、歴史的瞬間だ。絶対に見逃せない。
「アイリのこと………っ、か、家族アダァ!?」
逃げることは許さない。俺史上、もっとも高速なタイキックをソータの尻に叩き込む。
「な、なにすんのさエー先輩っ!」
「俺は木です。観賞用の置物でーす」
「くっ………」
抗議するソータ。で、やっとアイリが俺の存在を思い出す。
俺がいる前で大切なことを告げようとしているソータを凝視した。次に俺を見て、3回ほど往復する。「こいつがここにいていいのか?」と言いたげな表情。
「俺、アイリのこと家族イッ………と同じだと思ってたけど、違うんだ。えっと………」
また同じことを言おうとするソータの尻を蹴って、やっと軌道修正。
ソータとアイリも、俺がなにをしようとしているのか理解している。アイリなんて、もうすでに半ば諦めているようなものだった。
それから2回も追加でタイキックすると、ソータは顔を真っ赤にして、観念したのか、手を伸ばしてアイリの左手をそっと摘む。ガッといけよガッと。なに摘んでんだ。掴んでしまえばいいものを。
しかし、そんなちょっとした動作でもアイリには効果があった。逃げないし抵抗しない。ソータと同じくらい顔を赤くして、言葉の続きを待っている。ほんとかわぇええ………っ。
「お、おれ………アイリ………好き………」
なっっっっっさけねぇなぁああああああああ!!
うちのエースパイロット様はよぉおおおおおおお!!
もっと大声で告白しろよぉおおおおおおお!!
でも、俺はまさしくこれが見たかったんだよなぁああああああ!!
「わ、私も………好き………だ、よ」
っっっっっしゃあぁああああああああオラァアアアアアア!!
キタキタキタキタキタキタキタキタキタァァアアアアアアアア!!
アイリ様の告白の返答、いただきましたぁあああああああ!!
脳内チップで壁に設置したカメラと盗聴器をチェック。映像記録、音源記録、ともに正常作動!
永久保存ですね。まさしく。国宝もんだよ。
なんて尊い………俺、今なら死んでもいい。死なないけど。
「おめでとう。じゃ、ここからはお前たちで進め。俺は邪魔だから去るよ。1時間でロックを解除するし、その前に誰か来たら俺に連絡してくれれば遠隔操作で開けてやる。………今日という日を忘れないようにしような。俺も忘れない。良い日のなったなぁ。………死ねない理由ができたじゃないか。じゃあな」
「うん。ありがとう。エー先輩」
「結果的にエー先輩がいてくれるのが正解だったとは思いませんでしたけどね。ありがとうございます」
「あいよ」
爽快な気分になれた。
あのふたりだけじゃない。俺も生きる希望をもらえた。
更衣室のドアを閉めて、ロックする。清掃中の看板を立てた。
おそらく、これからこのなかで始まるのは、俺がいつも受けるあの行為だろう。さっきからふたりとも、チラチラと見てたしなぁ。
不純異性交遊の誘発? 知るかっ。ここはアスクノーツ学園じゃねぇんだ。
今日を記念日にするための活力を胸に。俺はやっと自室に戻った。
「お疲れ様、エー先輩。なにかいいことあった?」
俺の部屋で大人しく待っていたヒナたち。自販機で購入した飲み物を飲んでいた。俺もストックからインスタントコーヒーを出す。チューブに湯を注入し、粉が溶けてからストローで飲んだ。
「んー。それがさぁ。ついにソータのやつ、アイリに告白したんだよぉ」
「へぇ。あのソータがねぇ」
「やるじゃなぁい。それでぇ? アイリの返答は?」
「オーケーしたよ。いやぁ、いいもんだな。あいつらやっと落ち着いたよ。ソータもひよるから何度も蹴って修正してやってさ。あ、俺が言ったって秘密な? しばらくそっとしておけよ? で、ヒナさんや。自然と俺をベッドに誘い込むのはいいんだけど、自然とベルト緩めようとすんじゃないよ! 休憩しろって言われただろ!?」
「んー。これが私たちの休憩で、ある意味充電行為、みたいな?」
酷いよぉ。
あんなピュアピュアな告白シーンを目の当たりにして感動した直後の仕打ちが、これ。
俺の心の潤いが乾く───ことはないのだけど。
俺はそんなヒナに手を伸ばして持ち上げる。珍しく反撃を受けたヒナは目を丸くして、されるがままになっていた。
持ち上げたヒナを膝の上に座らせて、抱き寄せる。
「どうしたの? 今日のエー先輩は甘えんぼさんだね」
「ダメかな」
「ダメじゃないよ。珍しいから驚いちゃった」
普段は反撃する間もなく消沈してるから、強引に俺のペースに持ち込むと、ゆったりとした時間を作ることに成功する。
そういえば、俺から抱きしめた回数の方が少なかったし、確かに甘えるような擦り寄り方をするのは初めてだ。ヒナは温かいし柔らかいし良い香りがする。
すると、両サイドに来たシェリーとユリンも、俺を抱きしめてくれた。
温かい。
俺はまだ、ここにいるのだと再認識できる。
「エー先輩、不安なの?」
「こんな状況で、不安じゃない方がおかしいって」
「そうですね。でも………なにかあったんでしょう? ここに帰ってきたエー先輩の顔、諦めてませんでした」
ユリンとシェリーには見抜かれてた。ヒナもか。
だからこそ、俺は話さなければならない。
クスドが考案した、本編にもない尋常ではない作戦を。
「みんな。ちょっと聞いてほしい。これから俺たちはEタイプを撃破して、地球に降下する。でもな、その方法ってのが───」
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