終焉の譜C02
メディカルルームの次は───メインディッシュたるソータだ。
第11話はクランドの絶望的な発言で幕を下ろす。次回予告では「こんなところで終われない」とアイリも言っていた。
つまり今は、原作にはない第11話と第12話の間。第11話Cパートといったところかな。
ソータは疲弊し、絶望の淵に立たされ、塞ぎ込み、孤独に苛まれていた。
これまで天才的な操縦技術でアンノウンを圧倒したのに、まったく歯が立たなかった。逃亡し、救援の見込みもなく、ここで朽ちるか、敵と戦って死ぬか。そんな感じの描写が一瞬だけあったような。
それが第11話の終わり方で、エンディングテーマに入る。
だが今回は違う。
病床に伏せていないアイリは健在で、なんとなんとっ、ソータとともに男子の更衣室に一緒にいるんだなぁこれが!
うほほぉ。なんておいしい展開なんでしょう。
味見せずにはいられない!
俺は胸を躍らせて更衣室に突入した。
ソータとアイリは寄り添ってベンチに座り、意気消沈しながら無言でいたが、突然俺が乱入すると、パッと顔を上げる。
「よっ。おふたりさん。落ち込んでるなんて、らしくねぇぞ」
「エー先輩………」
「………エー先輩っ!」
「うぉおっ!?」
ふたりきりになるという希少な時間を邪魔したというのに、アイリから極上の殺意を込めた視線で睨まれるかと思いきや、ソータとアイリは同時に立ち上がり、俺に抱きついた。
「おっ………おいおい。どうしたふたりとも。せっかく俺がふたりの時間を割いて間に入ろうとしてるのに、殴りもしないで、ふたりから間に受け入れるなんて、らしくねぇぞ? 特にアイリ」
「私のことなんて、どうでもいいんです! エー先輩っ………私たち、ここで終わりなんですか!? 死んじゃうんですか!?」
おおぅ………そういうことね。
だから不安になって、ふたりじゃ答えを出せなくて、現れた俺を頼ったってわけか。
なんて役得。推し対象のふたりが俺に抱きつくなんて。
異性の感触をヒナたちに刻みつけられているから、アイリのハグに動揺しないで済んだ。
ちょっと汗の匂いがするけど、それも絶妙なエッセンス。ふたりの匂いが今日もうめぇ!!
「俺、負けたことなんて一度もなかった。アンノウンが相手でも、勝てたんだ。ねぇエー先輩。Eタイプに、どうやって勝つの? どうやったら勝てるの? エー先輩のタキオンも、相当強いけど………それでも勝てなかった。俺たち死ぬの? 死ぬってなに? 辛いの? 痛いの? ………怖い。怖いんだ。エー先輩。助けて………」
本編では、ソータはこんなこと言わなかった。
自分の命にもある意味で無頓着で、他人にも、敵にも関心を抱けなかったからだ。
ところが俺の推し活による原作破壊行為によって、ソータは他人との接点を作ってしまった。アイリと接点があったのに、作中ですれ違いからの勘違いを繰り返していた。ユリンに追い詰められて、より自分の命と仲間を蔑ろにしたのだ。ある意味、そうであったからこそあれだけの戦果を挙げられたのだとも思う。
けれど他人と関わりを持ち、自分を見つめ直すことになったソータは、初めて死を恐れた。
アイリとこれまで話し合ったのだろう。そして死への恐怖を増したのだ。
絶好の機会なのに。押し倒してキスしてことに及べばいいのに。そうすりゃ俺だって邪魔しに来ないのにさ。
「………俺も死ぬのは怖い。死にたくないよ。だからソータ。怖いなら………うん。逃げちまえよ」
「えっ」
「俺は、ソータが壊れるところなんて見たくない。アイリもそうだ。辛いなら逃げな? どうとでもしてやるから。機体に乗らなくていい」
「じゃ、じゃあ………誰が戦うのさ」
「俺が戦うよ。ひとりでも。ソータ。アイリ。自分を大切にしな? 逃げることのなにが悪いんだ? こうなったのはお前たちのせいじゃ、ないんだよ?」
これは、本編で精神的に病んでいくソータが更衣室でひとりで蹲り、金切り声を上げていた時に言ってやりたかった言葉だ。周りは誰も、そんなことを言わない。アイリだってすれ違うことを恐れて声をかけられなかった。
だからもし、第11話が始まる前に、ソータがなんらかの要因で精神を壊すまでに至ったのなら。俺はこの言葉を絶対にかけると決めていた。
「………嫌だ」
「うん?」
「エー先輩、絶対無茶するし。ひとりで戦ったらタキオンでも無事じゃない。絶対に死んじゃう。俺、エー先輩が死ぬところなんて見たくない!」
「私も! 私たちのせいでエー先輩が死んじゃったら、後悔してもしきれません! そうなるくらいなら………戦います」
「俺も。エー先輩は絶対に俺が守る! あだっ!?」
「おバカちゃんめ。そういうのは、俺じゃなくてアイリに言ってやりな?」
なんか、変なスイッチが入ってしまったらしい。意気消沈していたのが嘘みたく元気になった。空元気に近いけど。
それでソータが的外れな言動をするので、左手でチョップして止める。
するとソータはいつもどおり「え、なんで?」と聞き、アイリを見る。アイリは顔を赤くしていた。
うんうん。やっぱり可愛いなこいつら。
よし。元気になったみたいだし、もっと元気にさせてやろう。
「よっこらせっと」
「え、どうしたのエー先輩………わっ!?」
「ちょ、ちょっと! なんでまたロッカーに詰め込むんですかぁっ!?」
俺が廃人になりかけて、復活したきっかけとなったロッカーに、またソータとアイリを押し込む。ふたりとも小柄だから身動きが取れないわけではない。より密着するだけだ。
「んー、アイリさぁ。ソータって絶対自分から言わないだろうし、もう観念して自分から伝えちまえよ」
「なにをっ!?」
「言わせんなよぉ。あ、ほら。これやるから」
「ちょっ………エーせんぱぁぁぁああああああいッ!!」
俺はポケットに入っていた避妊具の束を、アイリの肩に乗せてやった。
今回は扉を閉めず、ある程度明るいしな。ソータだってそれをバッチリと見てしまった。
あれから調べる時間もあっただろうし、ビニールで包装されたゴム製品の使い方くらい知っているだろう。現にほら、ソータも羞恥の末にアイリから顔を背けて───おやおやぁ? それにしては、アイリの腰に触れた手が離れるどころか、より強く抱き寄せておりますなぁ?
なんて眼福。
例えるなら、親戚の幼い子たちが寄り添って昼寝しているのを目にしたような。可愛すぎるだろ。ロッカーに押し込んだせいで俺の正気が疑われるけど、それはどうでもいい。
「えーと、時間まであと2時間半はあるな。よし、お前らここで話し合いな。お前らに足りなかったのはスキンシップだよ。俺の部屋を貸してやれなくてごめんな。けど、ここなら存分に話し合えるから。まぁ、話し合い以上のこともするだろうから、更衣室の前に清掃中の看板を立てて、ドアもロックしておいてやるよ。1時間後に迎えに来るから」
「え、エー先輩正気なんですか!? ちょっと、ソータも変なとこ触らないで!」
アイリは抵抗するのだが、ソータを見た途端に弱くなる。
ソータは可愛い。アイリの香りを狭い場所で取り込んだがゆえに、もう瞳がトローンとして、アイリだけしか見られなくなっている。
ここで役に立つのは、以前トーマスが仕掛けた盗聴器とカメラだ。事前に改造して危険性を除去したそれを、目立たないところにセット。
あとは俺が去って、1時間後に戻れば───
「待ってエー先輩! 俺、ちゃんとするから!」
───おやぁ?
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