終焉の譜C01
シミュレーションルームでクスドの覚醒を見届けた20分後。
タキオンの修理は整備士たちに任せて、パイロットは休憩するべく、自由に過ごしていたので様子を見に行くことにした。
腕の端末の位置情報を読み取る。
行ける場所は限られていた。電力も省エネモードに切り替えているし、隔壁を降ろしているため通行に難が出る。
そのため、車椅子でもそこまで移動しなくても仲間たちには会えるのだ。
「お前たち、仲良いな」
車椅子を転がして数分。自室ではなく、食堂の一角で紙とペンを片手に、膝を突き合わせていた意外な組み合わせを発見する。ハーモンとコウだ。
「特別仲がいいというわけではないが、仲間としての打ち合わせをするのは当然のことだろう?」
「エー先輩とシドウ隊長も、よくやってるじゃないっすか」
「それもそうだ。で、なにやってんだ?」
食堂は閑散としていた。もう食事どころではないから炊事兵もいない。飲料水が飲めるサーバーが置かれているので、水分補給のために誰かが立ち寄る程度だ。ちなみに購買部も閉まっている。仕方なくここに集まっているという感じ。
「現状、俺たちはタイタンジャケットを失っているからな。その上でEタイプの対抗策を話し合っていた」
「やることねぇからってボーッとするのも落ち着かないんすよね。じゃあ、少しでもプラスになるようなことがしてぇんすよ」
こいつら、わかってる。
シドウがこの前、認めたものな。一人前のパイロットだって。
それにハーモンとコウは喧嘩に明け暮れた私生活ゆえ、負けたままでは済まさないタイプだ。必ず報復すると誓い、そのための策を練る。誰かのためにだけではない。なにより自分のために。
そういう奴は強くなる。ここに来て、それを知った。
だがノートを覗き込んで、評価を改めた。
「………なんだ、こりゃ」
「Eタイプが出たら俺らが殴る! んで、グラディオスが主砲をぶちかます! 以上、戦闘終了! 完勝!」
「………呆れるのも、わかる。だが、俺たちにはこれしか思いつかなかったんだ。笑いたきゃ笑えよ」
評価は改める。けど、口に出しちゃいけないよな。認めるのは姿勢だけ。過程は………この際無視しよう。せっかくこのふたりが前向きに、協力して必死なプランニングをしたんだ。その勢いだけは止めてはいけない。
「笑いはしねぇよ。シンプルなのは良いことだ。………主砲をぶちこむ、ね。結局のところ、そこにかかってるのは違いねぇ。けど殴るってのはな。もうちょい、そこんとこ詰めてみ? 色々条件をつけてみてさ」
俺からの修正はした。このくらいでいい。
モチベーションを維持できているなら、俺は方向性を与えてやるだけでいいのだ。
ハーモンとコウは再びノートに視線を落とし、うんうんと唸りながらも再考する。
原作では、こんなことはしなかった。ふたりとも別の場所にいて、ものに当たり散らしていたのだ。それと比べると、なんて微笑ましい光景だろう。
次に向かったのはメディカルルームだった。脳内チップもそれなりに再生し、熱も冷めて歩行機能が戻りつつあった。
車椅子を返却するついでに寄るはずだったのだが、端末の位置情報を調べてみると、なんともまぁ呆れ半分、感心半分な感情にさせられる。
「おい。こんなところでなにをしている。休んでいろ。エース」
「それを言うならシドウ隊長こそ。なにしてるんです? パイロットなんだから休まなきゃダメでしょ」
「俺をお前たち学徒兵と同じにするな。体力から違う。どこも人手不足だ。俺が出張し、メディカルルームを手伝ってなにが悪い?」
このツンデレ隊長、ついに開き直りおった。
さすがにパイロットスーツでは機敏に動けないので軍服に着替えている。白衣ではなくエプロンと手袋を着用し、怪我人の手当てをしていた。
少なくとも、これから負けるかもしれない戦いに赴くため、レイシアと最後の時間を過ごしたい───という下心のある動機は若干あるのだろうが、真剣に働いている。本来なら俺も手伝うべきなのだろうが、レイシアに殴られるだろう。やめておく。
「もう動けるようになったので、車椅子を返却しに来ました。みんなの様子を見て、それから休みます。シドウ隊長も少しは休んでくださいね。では」
心配は杞憂だ。シドウはメンタルも強く、そしてじっとしていられるタイプでもないから、こうして体を動かして、不安を忘れようとしているのだろう。レイシアとの連携も悪くない。邪魔をするべきではない。
「待て、エース」
「はい?」
シドウはレイシアにアイコンタクトを送ると、俺の腕を掴んで止める。
ベッドも医療ポッドも足りず、床にシーツを敷いて怪我人を寝かせている現状で、出入り口にいる俺を呼び止めるのは邪魔な気がしたゆえ、シドウを促して出口の横に移動する。
「隊員の世話をさせてすまないな。お前とて無事では済まなかったというのに。それは本来、俺の仕事だ」
「いつものことですよ。あいつらのメンタルケアは俺の方が得意です。だから副隊長になったんですから」
「ああ。それは否定しない。………だが、本題は違う。………この戦いで………」
「勝ったら俺と結婚します?」
「お前なにを言っている? 殴るぞ?」
「冗談です。でも、安易なことは口にしない方がいいですよ。フラグです」
「俺はお前の言葉が理解できない」
呆れるシドウ。笑える。
でもその背後にいたレイシアの、射殺執行寸前の眼光は笑えない。ちょっとしたジョークだったのに。反省しよう。
「この戦い、勝てると思うか?」
それは、誰もが解答を出せず、そして知りたい内容だろう。
だからって、俺に聞くかな?
ほら見たことか。ここに収容されて、まだ意識のある患者や、ドクターやレイシアが無言となり、一切の音を消して、俺に視線を集中させてきた。
さっきのジョークの仕返しってか?
「勝てます。って言えれば楽なんですけどね」
「………済まない。お前は特異な存在で、いつも俺たちとは異なる観点から物事を見て、親父たちも言っていたが、未来視の能力でも持っているのではないかと疑ってしまった。そんなこと、あるはずがないのにな。俺たちはいつも、お前に背負わせすぎた。………済まない」
一瞬、ギクリとした。
まぁでも、こうまでスパンを短縮してグラディオスを強化し続けたし、死ぬはずの人員も救ってきた。
未来視の能力を疑われても仕方ない。
だから原作破壊行為の責任を、ここでも果たさなければならない。
「隊長。俺はね」
「うん?」
「まだ諦めちゃいませんよ? そりゃ、無傷とはいかないでしょうけどね。でも、みんなで地球に降下します。Eタイプもどうにかします。だから、俺と一緒に足掻いてくれませんか?」
「………ふっ。なぜだろうな。お前が最後まで足掻くと言うと、不思議なくらい安心するんだ」
苦笑するシドウ。その苦笑は拡散し、多忙なドクターとレイシア、痛みで顔を歪めていた患者たちも薄く笑う。
「お前はまだ諦めていない。ここで終わりにはしない。そう言いたいんだな? わかった。なら、精々最後まで、俺も足掻くさ。お前と一緒にな」
「俺も安心しました。じゃ、次の現場に行ってきます」
「気をつけてな」
「はーい」
メディカルルームはもう大丈夫だ。空気が変わった。
きっと奮闘するシドウとレイシアたちのお陰だろうな。
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