終焉の譜B09
「もういっそのことよぅ、俺らも月方面に行って、Eタイプを本部直属の艦隊が相手にするしかない状況にしてやるかぁ?」
カイドウらしいことを言う。それはそれで愉快だ。
グラディオスを生贄にしようとした連中が慌てふためく姿が見れるだろう。
「それができれば苦労はしないことくらい、お前が一番理解しているだろう?」
「まぁなぁ。不可能だぜ。物理的によぅ」
クランドの苦笑に、カイドウは自嘲を浮かべる。
クルーたちが必死に艦を修理しているとはいえ、冒頭での発言のとおり、グラディオスは動けるが、まともな戦闘ができない状況だった。
敗北した。初めての敗北。引き分けはあったが、これまでの連戦で辛勝してきたソータたちにのしかかる、敗北の事実。叫びたくなるような悔しさ。だがそれよりも、敗北が死を意味している環境で、叫んでいられる暇などない。
「カイドウ。アーレス。被害状況の報告を」
「はい。艦長。………現在、グラディオスの武装は7割が機能停止。3基のレイライトリアクターは辛うじて無事ですが、想定以上のダメージで、通常の航行なら問題はありませんが、戦闘による出力の向上を促せば推進器が暴発する危険があります。現在、両方とも修理を行なっていますが………アンノウンに発見されるのも時間の問題でしょうし、完全な修理が完了するとは思えません。なにより物資が足りない。この廃コロニーを物色してはいますが、必要な部品があるかどうか。………次の戦闘が発生した場合、まともな戦闘は行えて10分だとお考えください」
「ガリウス、ならびタキオンも修理中。ハァ………マジで最後のは意味不明だな。アンノウンが電流まで扱うたぁ聞いたことねぇぞ。艦のシステムがやられた。復旧に時間がかかる。………マジでヤベェ状況だ。今、アンノウンに見つかれば即死確定だぜ」
「その他のセクションからも同じような報告を受けている。次回と修理に必要な物資があれば、まだ戦えるのだが………これでは、もうどうしようもないな。だが、悲観していてもなにも始まらない。3時間後、またここに集合してほしい。3時間でなにも変わらないかもしれない。しかし、私は………なにかあると信じたい」
クランドはチラッと俺を一瞥する。こんな、脳内チップの処理限界を超えて、歩行機能に支障が出たせいで、また車椅子で移動しなければならなくなった俺を。
意見こそ求められなかったが、動いてほしいという切実な願いが視線に込められていた。
まぁ、わかっているんだけどな。
例え足がうまく動かなくなったとしても、俺は動く。
3時間というのは原作でもそうだった。応急処置と修理をする時間───ではない。
覚悟をする時間だ。
Eタイプと戦って死ぬ覚悟。
ここから出ようが出まいが、Eタイプとの戦闘は避けては通れない。
地球はすぐそこにあるのに、そこにたどり着く前に戦闘が始まってしまえば元も子もない。
八方塞がりなのだ。
「エー先輩。行こう? エー先輩は特に無茶したんだから、休まないと」
車椅子を押してくれるヒナが休憩を促す。
俺はグラディオスに収容されてから、恒例となったメディカルルームへ収容───されなかった。
あの雷撃で被害を被ったのは武装だけではない。小規模ではあったが艦内で爆発が起きた。それに巻き込まれ、死傷者が出た。
グラディオスのクルーは160名とされている。そのうち、27名が死亡。24名が重軽傷を負った。
メディカルルームは怪我人を収容し、レイシアたちが休む間もなく働いている。俺は脳内チップのオーバーヒートで歩行能力を一時的に失っただけだ。この程度でレイシアの世話になるわけにはいかない。車椅子だけを借りて、治療を辞退した。
俺の場合、ハルモニを介せばナノマシンが脳内チップの修復を開始する。治療ポッド漬けになった甲斐あって、俺の体内に潜伏している治療用ナノマシンを総動員すれば、疲労も最短で回復するだろう。
「いや………行くところがあるんだ。お前たちは先に行っててくれ」
「なら、私たちも」
「プレッシャーをかけたくないんだ。ふたりきりで話がしたい………そんな顔するなよ。心配すんなって。会うのは野郎だから。浮気じゃないから」
この土壇場で、また別の女に唾を付けるのかと疑いの目を向けられるが、そこまで俺は器用ではないし、毎日ヒナたちに搾られて死にかけているのだから、自殺行為の手数を増やすはずがない。
不服そうにする彼女たちから離れて、ミーティングルームを出る。
誰しもが意気消沈していた。
戦っても勝てない。きっと負けて死ぬ。そう信じて疑わない目をして、死にに行くための準備を無言で行なっている印象だ。
グラディオスが最後に受けたダメージというのが深刻で、多くの死傷者を出してしまった。
いかに最新鋭艦といえども、ラスボスを相手にすればこんなものだ。
しかし、まだ諦めるには早い。俺だって想定外の事態に慌ててしまったが、こうしてうまく正規ルートに戻せた。
ならば、きっと───俺が育んだ絆が、実を結ぶ頃なのだ。
「クスド」
予備パイロットたちは、不足しているセクションに駆り出され、シミュレーションルームは閑散としていた。
しかし、彼だけはここにいる。
雷撃でダメージを受け、照明が付けられずともシステムは生きている。メインコンソールのモニターを光源にしたクスドが、青白い顔をして、そこにいた。
「こっちの被害状況がとんでもないことになってる。戦力差は想定の倍以上。こっちが優位に立てる条件がなにひとつとして無い。それでも………やれるか?」
車椅子から降りて、ゆっくりとクスドに歩み寄る。
「………さっき、ハンガーに問い合わせたんです。イリス先輩が教えてくれました。クレーンに繋いだガリウスを固定して、ケーブルで接続した時に高圧電流が流れたって。感電した整備士も何人かいて、メディカルルームに運ばれたとか。………相手の戦力差は倍以上、そしてこちらは戦闘開始前より半減以下。勝負にすらなりません」
クスドの顔色は悪い。
すべてはこの時のために。クスドを頭脳を鍛えてきた。
この最終局面ですべてを覆す契機を作り出す、意外過ぎる人材として。
だが………こんな状況では、本編と同じ方法で勝てるはずもない。
クスド自身、努力したのだろう。それでも覆せなかった。
仕方ない。俺はクスドを攻められるはずがない。
「先輩。ひとつお聞きしたいことがあります。ハルモニを貸してもらえませんか?」
「え、ハルモニを? いや………俺にそんな権限無いし。無理かな」
「じゃあ、僕の代わりに今から述べる条件をハルモニに伝えて計算してください。いいですか───」
クスドが述べた条件。
それは本編にはないものだった。
あまりのスケールに、俺は絶句するしかなかった。
イカれてるとしか思えない。
でも、それでいいのかもしれない。クスドもまた、原作破壊行為によって斜め上の成長を遂げたのだとすれば。
それに俺は、そういう無茶や無謀を、強引に押し通そうとするスピリットが大好きだった。
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