終焉の譜B05
覚醒とはつまり、認識能力の拡張───とかいうとニュータ◯プと同じになってしまうが、実際にはあのサイコティックな現象は起こらない。精神感応とかもない。………多分?
最終的には若干ながら精神が機体に作用することもあるのだが、基本的にパイロットの強化である。
思考の速度。瞬間的な判断。そして空間認識能力が桁外れとなる。
その際、パイロットの瞳が淡い閃光を放つのだ。その描写はとてもかっこいい。
試しに一号機のカメラに割り込んでみた。本来は用途が違うのだが、ソータの顔さえ見られればそれでいい。
「………すげぇな」
『なにか言った?』
「いや、なんでもねぇ」
ガリウスG一号機とタキオンは敵陣で過激に踊り続ける。ソータが俺に合わせてくれている。
それを可能とする覚醒。
カメラで捉えた一号機のコクピットでは、ソータが激しく操縦桿を操りながらコンマ単位で視線を動かしているところだった。
ソータの瞳は青い。碧眼が輝き始めている。
つまり、半覚醒状態。完全ではない。だが、今はそれでいい。
完全覚醒などすれば、一号機がソータの操縦に耐えられなくなる。ゆえに今は、半覚醒状態ほどで留めていた方が都合がいいのだ。
『エー先輩! Eタイプが近いよ!』
「傷無しの方か」
現在、敵陣はいつもどおり鶴翼の陣を描いている。未知なる生命体から突如仕掛けられた戦争で、アンノウンは新型を導入するなど進化の軌跡を見せてきたが、この陣形だけは初期から変わらない。
けれども、この物量差で描く鶴翼の陣だ。かなりの壮観である。右から突入した俺たちは中央を侵食し、そしてより深部に入る。
敵勢力が描く鶴翼の陣の奥に旗艦がふたつ。それがEタイプ。現在、2体は並走しているが、足並みを揃えようというつもりはないらしく、傷無しの方が暴力的な加速で俺たちを迎えようとしていた。
人間が蟻を本気で踏み潰すようなものだ。小指の第一関節にも満たない矮小な生命体に本気を出すのもおかしな話ではあるが、アンノウンにしては珍しく表情らしい造形をしているタイプは、かなり憤って見えた。
「仕掛けるぞソータ。こっちに注意を引く! グラディオスから引き剥がさねえことには、なにも始まらねぇからな!」
『了解!』
タキオンも足のハードポイントからロングソードを抜く。
俺たちはEタイプに愚かにも正面から勝負を仕掛ける───はずがない。
ギリギリまで引きつける。Eタイプの熱でセンサー類が故障する寸前を見極め、タキオンとガリウスG一号機は左右に展開。
狙うはガリウスなど軽く飲み込んでしまえるほどの大きな口。
近くで見ると、ガリウスの何倍もあるサイズの牙が不揃いではあるがズラッと並び、口腔の奥にアンノウンを吐き出す喉のような穴があった。
だが今はそこを狙わない。とりあえず効果があるかは不明だが、腰のハードポイントから置き土産をパージして巨大な下の上に投げておいた。
そして、左右に展開した俺とソータは、上顎と下顎の付け根を狙い、ロングソードを振り下ろす。
「うぉぉおおおおおおおああああああああ!!」
『ぜぁぁあああああああああああああああ!!』
裂帛の気合い。普段、俺とソータはそこまで叫ぶことはない。自分の声なのかヘルメットのスピーカーから聞こえるソータの声なのか、わからないほどの絶叫。
タキオンとガリウスG一号機の推進力。対となる方向から前進するEタイプ。これを利用してロングソードを食い込ませ───
「くそっ!」
『ダメだ! 質量が違いすぎる!』
結果は知れたことだった。
ロングソード程度の武器では、200メートル以上の巨大な生命体を切断できるはずがなく、ロングソードが途中で融解した。
例えるなら、巨大なマグロを爪楊枝で解体しようと試みるようなものだ。絶対にできない。
Eタイプの突進による衝撃波に巻き込まれないよう斜め前に進みながら、なんとかすり抜ける。
まだ終わりではない。Eタイプはもう1体いるのだ。すぐ後ろに。だが、そこで下した判断は、シドウだけでなくクランドが耳にすれば卒倒しそうな内容であることには違いなかった。
「ソータ! 現状維持! このポイントから動くんじゃねぇぞ!」
「正気? まぁいいけど。タキオンの損害は?』
「さすがはパピヨンジャケットだ。揚力が半端じゃねぇ。うまくEタイプから逃げられて、排熱さえできれば完璧。そっちは?」
『俺、エー先輩よりも長くパイロットやってるんだよ? 経験の差かな。無傷で済んだ』
言ってくれるじゃねぇの。
けど事実だ。否定することができない。
さて。このままでは俺とソータは飛んで火に入る夏の虫になってしまう。
2体のEタイプに挟まれた。
その様子は傷痕のあるEタイプも目視していて、グラディオスを追撃していたアンノウンをUターンさせた。ある程度の指揮系統を有しているとわかるが、だからといってこのEタイプが知能が高いのかと言われれば、多分そうではない。
もしグラディオスを罠に嵌めるほど狡猾な知能を有していれば、この構図の持つ意味がりかいできるはずだ。
『なにをしている! 戻れエース! レビンス!』
グラディオスから遠ざかる大群の先に俺たちがいたので、シドウは焦っているのだろう。
でも、それは違う。
今は戻るべきではない。
《ハルモニ。現宙域をプロット。タキオンと一号機の場所、Eタイプの位置。迫るアンノウンのすべてを記録。予想進路を割り出せ。1匹も見逃すな!》
《イェス。メカニック・エース》
脳内でイメージ図を生成するハルモニ。どの角度からでも立体的な構図になっているそれは、現在進行形でアンノウンすべての動きをトレースしていた。
4機のガンビッドはアンノウンの群れに突撃する前に置いてきた。現在、ガンビッドは各方面に飛翔していて、異なる視点から3Dマッピングのために配置している。
「Eタイプの方が早いか」
グラディオスを叩くために前方に配置したアンノウンは戻ってきているが、反転した傷のないEタイプの方が接近が早い。このままでは2体のどちらかの口のなかに収まり、牙で砕かれ熱で焼かれる。
「ソータ。タイミングを出すまで動くんじゃないぞ?」
『いいよ。エー先輩がやりたいこと、なんとなくわかってるから』
さすがはエースパイロット。この布陣と俺たちのポジションで大体を短時間で理解したか。
ハルモニを介して、脳内チップに保存した3Dのイメージ図を一号機に送る。
『タイミングとしては難しくはないね。でも後続の速度次第では脱出が難しくなるよ?』
「構うもんかよ。その時は強引に突破してやる。さぁソータ。覚悟を決めようぜ。死ぬなよ?」
『エー先輩こそ。またあとで会おうね』
右足のラックから、最後のロングソードを射出する。一号機がキャッチすると、そこで俺たちは背を向けた。
長く喋り過ぎたが、間に合わないわけではない。
視界がほぼ銀色に染まっているだけだ。
顎を開いたEタイプ同士が接近しているのだ。まるで二頭の鯨による捕食に巻き込まれた小魚の気分。
ヘルメットのスピーカーから仲間たちの叫び声がする。一旦無線を切り、接触回線に切り替える。今はソータとだけ繋がっていられればいい。
まだだ、まだだと自分に言い聞かせる。心臓が爆発しそうなくらい跳ね回る。視界はすでに7割くらいがEタイプの口のなかだ。一瞬でも間違えば食われて死ぬ。ミスは許されない。
極限の緊張のなか、果てなく広がる地獄の行く先に、わずかな光を見て───
「今だぁあああああッ!!」
叫ぶ。
タキオンとガリウスGは、ほぼ同時にフルスロットルで加速した。
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次回は明日の7時頃となります。
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