終焉の譜A08
演習、もといガンビッドジャケットの実験は30分後に開始された。
すでに作戦開始領域も近い。一度限りの実験だ。試練もいつ始まるかわからない。呑気になどしていられない。
タキオンが射出されると、グラディオスがダミーを前方に放つ。
『エース副隊長。これよりタキオンの演習を開始します。こちらの指示に従って、ノルマを達成してください。なお、ダミーは撃墜の度にこちらで補填します。よろしくお願いします』
「了解。いつでも始めてください」
いつもの発進シークエンスを担当してくれるオペレーターの女性が誘導を開始する。
『では、先方12キロメートル先にて出現したダミーをアンノウンBタイプと過程。接近し、ヒートナイフで撃破してください』
「了解。出ます!」
スロットに挿入したインターフェースにより、ラグもなくタキオンは全速力で飛翔する。
ガンビッドジャケットの加速力は、これまでに体感したことのないGを俺に与える。「ぐっ」と短く呻くが、意識は機体と繋いで維持する。
速い。なんて加速だ。15キロメートルを数秒で駆け抜けた。ダミーが衝撃波で飛ばされそうになる。急制動をかけて強引な減速をかけると同時にヒートナイフを一閃。ガスで膨らんだバルーンは一溜りもない。
『次のターゲット出現。3時の方向2体。ジャケットのキャノンで倒したのち、7時の方向にいるCタイプを撃破───えっ』
オペレーターの声が歯切れが悪くなる。
仕方ないっちゃ、仕方ない。
オペレーターの指示どおり動くが、間髪入れなかった。言われた直後にキャノンで2つのバルーンを正確に狙撃している途中で再加速。斜め後方のCタイプを模したバルーンにヒートナイフを叩き込む。
「次!」
『りょ、了解!』
彼女には気の毒なことをした。口にした瞬間には、もうノルマが終わっている。奇妙なことになっていた。
グラディオスも数秒前とは違って、連続でダミーを撃っている。ガスによって膨らんだ直後には弾丸かタキオンがその前にいた。
ガンビッドの同時操縦も悪くない。思ったほどどちらの操縦に支障は出なかったし、どちらの機動も劣ることはない。イメージどおりの飛翔をする。
『い………以上で、演習を終了します。エース副隊長、タキオンを帰投させてください』
「了解。戻ります」
演習や模擬戦は、俺が参加するといつもアクシデントで中止してしまう印象が払拭されただろう。俺だってやる時はやるんだ。
別々の場所に設置されたダミーを狙撃して帰ってきたガンビッドをバックパックに接続し、グラディオスへ推進する。
アークのタキオンに劣らないスラスターの数だ。
宇宙空間で敵対することになれば、きっと劣ることはない。敵対することになるのは地球からだから使えないのだが。
ガイドビーコンに従ってタキオンを戻すと、クレーンに繋がれて、開いた隔壁の向こうにあるハンガーに収容された。
「お前ぇ………めっちゃ調子良いじゃねぇか!」
コクピットから降りると、そこにいたカイドウにバシバシと背中を叩かれる。
整備士たちも興奮して俺たちを見上げていた。これまでのジャケットとは違う複合兵器だ。この上々たる結果を前にテンションが上がらないはずがない。
「こりゃあ、ガリウスにも付けてぇな。本格的な量産を視野に入れるかぁ!?」
「落ち着いてくださいよ、おやっさん。これから地球に降りるのに、あんな重たいもんをガリウスに背負わせたら命取りですって」
「あー………それならよぅ。武器だけ取っ払って、スラスターを増設すんのはどうだ?」
「主翼を付けたいところですね。けど整備が大変そうだなぁ。大気圏の内外で切り替えるのって、面倒じゃありません? それならいっそのこと、ガリウスを改修した方が早いと思うんですけど」
「それもそう………ったく。危ねえ危ねえ。テメェ油断も隙もねぇな。口車に乗せられるとこだったぜ。お前ぇのガリウスG改の改造プランは無しっつっただろうが!」
「チッ。あと少しだったのに………」
「あっ、テメェ舌打ちしやがったな!」
「気のせいじゃないですかね」
「んなわけあるかこの野郎!」
ハンガーは今日も平和だ。
とても、このあとグラディオスに最大の危機が迫るとは思えない。
周りの整備士たちは、俺とカイドウのやり取りを微笑ましげに見ている。
その間にも周囲のちょっとした会話に聞き耳を立てた。脳内チップを駆使して、整備士たちの何気ない会話のすべてを分析する。
第6話の例もある。本来なら発生するタイミングではない時に、イベントが発生する予兆たる会話が発生し、Dタイプ出現を確信した。
だが、カイドウに頭をグリグリされている時でも、そのような会話は聞こえない。
ではどこで───食堂か、ブリッジか?
『レーダーが敵影を捕捉! 急激に接近するアンノウンあり! パイロットは所定の位置へ! 第一次警戒───敵の攻撃、来ます!!』
「なんだと!?」
驚愕せずにはいられなかった。
イベントも無く、いきなり試練が始まるなど思いもしなかった。
「全員、対ショック姿せ、ぐぉおお!?」
「おやっさん!」
ハンガーが猛烈に揺れる。違う。グラディオスが震撼した。
敵の攻撃だ。
俺へのお仕置きを中断し、整備士たちに叫ぶカイドウ。しかし揺れた衝撃でタキオンから放り出される。急ぎ左手でカイドウのノーマルスーツを掴み、右手でタキオンに掴まった。グリップのきかない無重力区画で放り出されると、壁や天井や床に触れない限り止まらない。カイドウにとってそれは時間のロスだ。
「す、すまねぇ。………エース。ちょっと待ってろ。弾丸と推進剤を充填したら、すぐ出してやる」
「そんな暇はないですよ。すぐ出ます!」
「い、いや待て! 早まるな! 残弾だって半分もねぇだろ!? 推進剤だって減ってらぁ!」
「そこは技量と知識でカバーします」
「ば、馬鹿言うんじゃねぇ!」
「いきなり攻撃を仕掛けたヤバいアンノウンなんて、これまでいなかった! 沈められてからじゃ遅い! 俺が足止めします。隊長やソータたちが本命。やることはいつもと同じです」
「くっ………仕方ねえ。お前ら、タキオンを出すぞ! クランド、聞いてのとおりだ。エースを斥候として出す!」
『………仕方あるまい。しかし、本隊の到着後、補給に必ず戻れ。いいな?』
「了解!」
俺の言っていることがわからないカイドウとクランドではない。
コクピットに搭乗し、スロットにインターフェースを挿入しながら、前触れのないイベントについて考察した。
「オペレーターの声の直後に衝撃………これまで会敵してきたアンノウンは、近、中距離しか攻撃手段がなかった。けれど今回は違う。………超長距離狙撃。それを可能にする敵」
最悪だ。
俺が知るなかで、それを可能にする敵はひとつしかない。
アンノウンFタイプ。第2クールから登場する新種だ。
アンノウンでも珍しい、中、遠距離攻撃を得意とする。人間とガリウスを学習した結果、いつもの色彩は変わらずとも形状が大きく進化した。人型である。左右に熱エネルギーを圧縮した弾を放つ機構があり、それを合わせることで超長距離狙撃を可能にするのだ。
ことの重大さに、ソータたちはミーティングもせずパイロットスーツに着替えてハンガーまで走るだろうが、Fタイプはそれを待ってくれるはずがない。
俺が止めるしかないのだ。
「エース・ノギ。タキオン。ブラストオフッ!」
残弾も推進剤も半分ほど失っているが、戦えないわけではない。
俺はタキオンを再び宇宙空間に召喚した。
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