終焉の譜A06
「だから、みんなちゃんと反省しようね?」
「………はーい」
なんてことだ。奇跡は連続する。
レイシアが簡単にヒナたちの手綱を掴んでしまった。俺はまだできないのに。
シュンと項垂れるヒナたち。あのユリンでさえ反省している。こんな姿、滅多に見られない。
「うんうん。物分かりがいいなら、きっとエースくんはみんなのこと大好きになるはずだよ。てなわけでご褒美です。ハルモニ」
『イェス。ドクター・レイシア』
「エースくんの部屋のドアのロックを、解除」
「ちょっ………!?」
思わず変な声が出た。
不覚だった。
レイシアの所有するハルモニは、俺の上位互換だ。
いくら脳内チップを所有しているとはいえ、俺は今、ハルモニに依存している状態だ。
俺よりも上位のハルモニを所有しているレイシアなら、その権力で簡単にドアのロックを解除できる。
プシューと音をさせて開くドア。そこからひょこりと頭を出すレイシア。
「な、なんで………」
「ここからは、私個人のお仕置きってことかな」
「ナンデ!?」
「自分で言えばいいのに。私に言わせちゃってさ。面と向かって話し合うべきことなのに、極端なことするからだよ」
「こいつらが俺の言葉なんて素直に聞くはずがないでしょう!? レイシアさんが構築した最悪なプランが後押ししているせいで!」
「うーん。今はそんなの関係ないかな」
話し合ったって流されるのは目に見えていた。だから強硬手段に出たというのに。
やはりレイシアのせいですべてが水の泡となる。
「俺にヒナたちに逆らえと言うんですか!?」
「従順な男の子って素敵だよ」
世間ではそれを性の奴隷と言う。
レイシアめ、わかっててやりやがった。
お蔭で、今日くらいは招き入れたくない人物たちを、部屋への侵入を許してしまった。
なんだか、外国のモンスターパニック映画とかで見たことがある。恐竜やモンスターが、これからおやつにしようとしている馬鹿に向かって、音を立てずに忍び寄るのだ。その表情たるや、笑っているようにも見える。
今、まさにそう。ヒナたちは幽鬼のようにも見える。獲物を前に舌舐めずりする心境で───あ、本当に舌舐めずりしやがった。
「エースくん。彼女たちと仲良くね?」
「仲良くしてるけど、それで死にかけるのは話が別なんですよ! やめろ、今は来るな! 話をしよう! 話をしよう! 話し合えばきっと相互理解ができるはずなんだ!」
「エースくんの口がなにかで塞がれてない限り、話し合うことはできね」
「レイシアさんはちょっと黙っててください!」
「あ、そう。じゃあお邪魔のようだし。そろそろ退散しようかな」
「待って嘘! 嘘ですから! 行かないで………ちょっと本当に出て行こうとしないでくださいよ! こちとら命懸けのデスゲームを強いられてるってのに! 待って、待ってレイシアさん! 助け………助けてぇええええ! 助けてぇぇえええええ!!」
なんだかこれも前世の記憶に覚えがあるような。
モンスターパニック映画だけでなく、ゾンビ映画でもそうだったかな。中盤辺りで調子に乗っていた馬鹿が化物に取り込まれるのだけど、誰にも助けられないシーンだ。
そう、そのとおり。俺は誰にも助けられない。レイシアは無情にも去っていく。
「Fプラン3パターンも試してみましょうかねぇ」
「Jプラン4パターンもいいかも」
レイシアの教え子どもめ。俺を搾取するために学習した結果かよ。
改造したのかと疑うほど慣れている手付きで軍服を脱ぐと、芸術品に匹敵する美しい裸体が目の前に迫る。
「エー先輩。今日も人間ってものを教えてあげますからねぇ」
ヒナも可愛い笑顔を浮かべて、えげつないことを考えていやがる。
その後、俺がどうなったかって?
ユリンが購買部で夕飯を購入してきてくれたお蔭で食堂に行かなくて済んだから、日付が変わるまで優しさの蹂躙を受けました。
「索敵システム、敵影と思われる熱源を感知。しかし、本艦に接近する様子はありません」
「敵もこちらの動きを掴んでいる………と考えているべきだと思うかね?」
あれから3日が経過した。俺とシドウの模擬戦からだ。
俺はこの日、オペレーションルームに呼び出されて出頭した。
そこにはオペレーターはもちろん砲術長などの各セクションの担い手がいて、艦長であるクランドの隣に立った俺は、アドバイザーのような立場で意見を求められている。
「そうですね。アンノウンはグラディオスの存在を掴んでいる。その上で攻撃を仕掛けないのは、別の要因があるからだと考えられます」
「別の要因とは?」
「わかりません。ただ、これまでの戦闘から類推するに───グラディオスが唯一撃ち漏らし、本部よりの任務から推測できるとおり、Eタイプかと」
「ふむ………」
クランドは俺の話しを聞くようになった。作戦指揮についてもだ。
これでは整備士兼パイロット兼アドバイサーだ。給料を3倍にしてもらわないと割に合わない。
オペレーションルームでは固唾を呑んでモニターを睨むオペレーターがいた。
索敵システムと望遠カメラが、いつ前方160キロメートル先にいるアンノウンBタイプが転進し、こちらに攻撃を仕掛けてくるかもわからない。
それに俺の指摘どおり、悪夢の代名詞たるEタイプが近くの宙域にいるとすればだ。これで緊張しない方がおかしい。
本編でもそうだった。ことの重大さを理解しているオペレーターが汗を宙に浮かべて、随時レーダーに映る敵影の挙動を告げている。
第11話「終焉の譜」では、前半から試練の始まりとされている。
もうすでに第11話に入っているはずだ。もう試練は始まっているも同然。本編は始まっている。油断はできない。
原作破壊行為によるツケも鑑みなければならない。こちらは少ない手数ではあるが、対応に不正解はない。例え、今ここで戦闘が始まったとしても、本編どおりなら切り抜けられるはずだ。
「エース・ノギ。きみはEタイプをどう思う?」
「前回の戦闘記録から推測するに………やはり敵も、敵を運搬する、それこそ艦載機を射出するような母艦のような役割をしていると」
「そうだな。前回の戦いではそうだった。Eタイプは体内でB、あるいはCタイプを量産して射出していた」
アンノウンは熱がすべてだ。動力源であり、熱をワープに使い、熱から質量を得る。
第2話で俺がやった掟破りは、出現する前のアンノウンのワープホールに、スラスターを密着させて過剰な熱を与えてやったことにより、得られる質量をキャンセルしたことにある。
今、あれと同じことをやれと言われたら難しい。あの時は装甲の薄いプロトタイプだったとはいえ、タキオンもそう装甲は厚くない。全身に推進器を搭載したような機体だ。キャンセル行為1回につき、サブスラスターひとつを失うのは命取りだ。
だからこそ、主砲が必要とされるのだ。
レイライトブラスターこそ、出現を無条件でキャンセルさせられる有力手段だからだ。
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熱が下がり始めましたが本調子とは言えません。有休も今日で終わり。明日から勤務しますので死にかけるでしょう。2回更新に戻れるのは木曜日からかもしれません。申し訳ありません。
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