終焉の譜A05
デスゲームは突然に。
前世で、そんなタイトルのライトノベルを読んだ気がする。
だってそうだろ?
結局入院することはなく、その日は帰っていいと言われたので、ヒナたちが不在のうちにメディカルルームから足早に去ったら、このザマだ。
「エー先輩。出てきてください。頭撃ち抜きますよー?」
この声はシェリーだ。以前、廃材でライフルを作った前科があるだけ、冗談に聞こえない。
ノックはコンコンという音のはずなのにな。なんでドカドカと殴る音なんだろうな?
「さてはドアを破壊されたいのかしらぁ? いいわよぉ。エー先輩の姿をみんなに見てもらいましょうか」
ドアを破壊する勢いで殴るのはユリンだな。彼女の攻撃力なら仕方ない。
「エー先輩。お願い、開けて。私たち、怒ってないの。ただエー先輩と、ちょぉっとお話したいだけなの。さっきの通信のことだよ。どうしてあんな狂ったことを命じたのか。その理由が知りたいの。ね? 開けて? 正直に言ってくれればご褒美あげるから。私のおっぱい好きだよね?」
うん。だいちゅき───違うね。そういうことじゃないんだね。
俺の部屋の前に再集結した悪魔みたいな女神たるヒナ、シェリー、ユリンは、激怒していた。「走れメロス」の比じゃないくらい。メロスは激怒した? はは。だからなんだよ。彼女たちの怒りはそれ以上だ。
もちろん、自覚はある。俺が彼女たちを激怒させた。目にすれば即死するくらいの形相をしているかもしれない。
でもね。怖すぎるからドアを開けることはできないの。
脳内チップを駆使してドアのロックシステムだけは死守する。どうせ、ユリンがドアを蹴りながら片手でハッキングしているだろうから。
発端は1時間ほど前まで遡る。
端的に言えば、俺は苦渋の決断を迫られた。
それはつまり、俺を死守するためであり、そして艦内の風紀を守るためである。
内容は以下の通りだ。「部屋の外ではキスはもちろん極端な密着は禁止。更衣室に勘違いを装って侵入禁止。昼の勤務中はイチャつき禁止」という、至極まっとうで、当然と言えば当然な行為。
しかしヒナ、シェリー、ユリンはこれらを守らない。
部屋なら、まだいいよ。けど最近は食堂でも奉仕を受けるから困っていた。主に周囲の反応。
最近ね、同級生や下級生の男子の視線が痛いの。話しかけても露骨に舌打ちされるの。
俺だって人間なの。そういうの傷付くんだよなぁ。
未だクランドとカイドウが動かないのが謎だ。いい加減、俺に説教をするスタンスであの3人に強気で釘を刺してほしい───あ、それができないのか。黒幕がいるから。彼らは彼女と敵対することを恐れている。
すべて愛娘を甘やかした結果だろうに。
それともなにか? 俺が第3話から開始した原作破壊行為のツケってか?
なにそれ。いよいよ笑えないんだけど。
「エーせんぱぁい。私ねぇ、Jプランパターン2を試してみたいんだぁ。なに言ってるかわからないだろうけど、先輩が大好きなもので先輩を可愛がってあげる行為なんだってぇ。男子って、なんでそういうのが好きなんだろうねぇ?」
ぐぅ………好きなものは好きなんだから、仕方ないだろうが。そこに理由なんていらねぇんだよ。
葛藤は続く。もし、脳内チップの制御を手放せばひと時の楽園を手にするかもしれない。代償は、また周囲からの露骨な嫌がらせ。
天秤が大いに揺らぐ。
と、その時だった。
「こらー。なに騒いでんのぉ?」
これだけ士官室のドアをぶっ叩けば、さすがに通報される。俺はそれを待っていた。クランドが召喚されればいい。それが最高のはず………だったのに、召喚されたのはまさかの黒幕であり元凶である、メディカルルームの白衣の天使とか呼ばれている極悪な悪魔であるレイシアだった。
「あ、レイシアさん。聞いてくださいよ。エー先輩ったら、引き籠っちゃって」
「引き籠ったぁ? あー………あのねぇ。あなたたち。この前レクチャーしたばかりでしょ? パイロットとはいえエースくんは新人だし、体力だってこのなかで一番少ない上に3人を同時に相手してるんだから干からびるって。トラウマを植え付けてどうするの?」
声でわかる。レイシアは呆れていた。
面白いことをほざく女だ。自分でそうなるよう仕込んだくせに。
レイシアの罪状は述べれば長くなる。
なにもかもがおかしかった。原作よりもぶっ壊れている。まさかこんなひとだったとは思いもしなかった。あくまで俺もメディカルルームの白衣の天使だと思ってたのに、裏切られるとは。
ヒナたちの常識をいうネジを外して溶鉱炉に投げ込んだ女だ。お陰でヒナたち3人の常識や概念というものはすっかり狂ってしまっていた。
なんていうか、俺よりも先に脳内チップで正常化させるべき人物だよな。ヒナたちだけではない。なんならレイシアもだ。強すぎる薬や洗脳で盲目的になっている。
「んで? なんでこうなったわけ?」
「これ。エー先輩から送られてきたのよぉ」
「んー? なになに?」
ハッキングを中断したユリンが、レイシアの端末に俺が送ったメッセージを送信する。肉眼で目視せずとも監視カメラ越しに見えた。
「………ふーん。エースくんなりに考えたわけだ」
「で、でもっ。こんなのあんまりです! エー先輩が私たちを求めてくれないなんて!」
「ハァ………うーん。仕方ないなぁ。こういうのは私も責任の一端があるだろうから、呼ばれたんだろうしねぇ。なんか艦長たち、今は動けないらしいし。………まずは冷静になって考えてみようか」
おや、おかしいぞ?
なぜかレイシアが、3人を説教し始めた。
「例えば、エースくんをヒナちゃんたちが、おいしくペロリしていない時に限るよ? 仮にハンガーとかで。そこで他の誰かにあからさまに見せつけるようにエースくんにキスをしました。どう思う? ………聞くまでもないか。シェリーちゃん。その顔、誰にも見せない方がいいよ? 視線だけで誰か殺せちゃうから」
なんて恐ろしい質問だろう。
そんな質問をするものだから───ほら見たことか。シェリーの顔に般若が宿る。
「鬱陶しくて殺したくなるわねぇ………冗談抜きで。そんなメスは、あってはならないの」
監視カメラに背を向けているけど、ユリンの豹変ぶりといったらもう………ね。彼女の長い紫色の髪がゆらりと持ち上がるようだった。ここは重力発生区画だから目の、いや感覚の錯覚なのだろうけど。
まるで幽鬼を思わせる殺気をほとばしらせるユリンに、レイシアは大袈裟に首肯した。
「そう、それ。艦内は恋愛の自由だけどさ。だからって、みんな平等に異性と付き合えるわけじゃないの。異性とちょっとした機会で仲良くなって交際するチャンスって、そう無いんだよねぇ。だからね、みんなエースくんを羨んじゃったんだね。エースくん、同性相手からかなり目の仇にされてるから。仕方ないけどね。こんな可愛い女の子が3人も同時に迫ってるんだもん。ちょっと前の私だったら、エースくんの脳内チップにハッキングしかけて、1時間おきに踊り狂わせるようなプログラムを仕掛けてたかもしれない。つまり、風紀を乱しちゃいけないの。エースくん、かなりまともに戻ったよね。みんなのお陰で。だからその次に求める、交友関係も必然的なんだよねぇ。みんな、そろそろエースくんのことわかってあげないと。エースくんはそう言いたかったんじゃないかな。嫌われちゃう前に、区別は付けておくべきだよ」
お、おお………な、なんてまともな………っ。
イカれたカウンセラーが、まともな説教をしてやがる!
こりゃなんの奇跡だ!?
申し訳ありません。大幅な遅刻です。
それと、体調がよろしくないため本日はこの1回で終わらせていただきます。なお、明日も1回とさせていただきます。明後日………治っていれば2回を復活させていただきます。
作者からのお願いです。
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