終焉の譜A02
「失礼しちゃうなぁ。これまで起動実験続きだったし、外装だって2日前に取り付けてから実験したの、隊長だって見てるはずでしょ? シミュレーションにも限界があるし、これが初めてに決まってるじゃないですか!」
されども、いかにエースパイロットの風格があれど、タキオンの性能にナンバーズが追いつけるのかと言えば、やはり微妙なラインだろう。
この時、シドウの七号機には以前の愛機、第六世代ガリウスFに取り付けていた外装と推進器を外し、七号機に強引に取り付けていた。シドウの七号機のジャケットは地上で作る。ゆえに今はガリウスG七号機Sカスタムとして、俺の模擬戦の相手をしてくれていた。
ほぼネイキッド状態ではあるが、素体に多くの推進器を用いることで機動性を向上させ、ソータのような変態的な反転を可能にしたのだ。
ただし、タキオンの性能をそれで上回れるはずがない。
ペイント弾を3点連射するライフルではあるが、その間隔を縫うように左右に移動しながら距離を詰めるタキオン。シドウからすれば、そのマニューバこそソータのそれだろう。ソータの瞬間的な判断力は人間離れしていて、例え銃を撃つ相手だろうと平然と間断を狙うように接近する。
またシドウもプロとして、弾切れを配慮した撃ち方をするが、どうしてもそれが隙となる。ゆえにマガジンひとつ使い果たす覚悟で途中からフルオートに切り替えるも、タキオンはローリングして回避。
『同じ人間とは思えない………!』
ソータのマニューバもパターンとしてインプットしている。同じ動きを再現すると、シドウの驚愕ともとれる賞賛を受けた。
ヘビィガンを発砲する。シドウは危うく回避。
その回避運動でフルオートが止まる。一気に加速して距離を詰めた。
『くそっ!』
タキオンの右腕から出現したヒートナイフが出現する。ただし熱はあれど鉄を溶断するほどではない。精々、装甲に傷を付ける程度。俺たちの機体は今、特殊な水溶性のトップコートを吹きかけていて、熱で色が変わる仕組みとなっている。ヒートナイフを滑らせればヒットしたと判別できる。
シドウの判断は早い。悪態つきながらも近接戦に切り替えた。バックパックのハードポイントに接続したアームが動いて、左手にロングソードを持たせるポジションまで運んだ。それをスライドして抜き取りながら、シドウの剣戟。ヒートナイフを防ぐ。
「これを防ぎますか」
『舐めるなよ副隊長。いかに脳内チップがあろうと、パイロットとしての経験で言えば俺は100倍以上はある。スペックの差など、パイロットの技量でどうにかするさ。必ず覆す!』
「いいですね、それ。そういう熱いスピリットは大好きだ」
カイドウの教えを忠実に守るシドウ。早くも後継機に乗り換え、さらに技量を増した甲斐あって、ガリウスGを手足のように操っている。
だが手足のように操るだけでは足りない。こっちはマニュピレータを狂いなく操れる。ヒートナイフで殴り付けるような攻撃の途中で、七号機の腕を負荷をかけることなく掴んで背負い投げた。
安定した姿勢制御で、すぐに体勢を整えると距離を取ろうと飛翔する七号機。しかしメインカメラだけではタキオンの姿を失う。
『後ろだと!?』
「これがタキオンですよ」
索敵のためのレーダーには、七号機に張り付く敵の気配があっただろう。
そのとおり。背負い投げてから加速し、シドウが距離を取るだろうと予測して、ピタリと張り付いたまま七号機と並走するように飛ぶ。
脳内チップの未来予想が働いて、七号機の背部にあるメインスラスターやサブスラスターの動きを寸分の狂いなくコピーし続けた。
『だが背後にいるということは!』
「おっ」
シドウめ。やっぱりやる。
メインスラスターをフルスロットルにすると、タキオンのメインカメラが閃光で包まれる。目眩しだ。シドウがまだガリウスFに搭乗していた頃、模擬戦でコウの四号機に背部に張り付かれた際、同じ手段で逃れたのを覚えていた。
だが、それは読めていた。
すでに比較的光を浴びなかったサブカメラに切り替えているし、今の俺に肉体の眼球から得られる視覚的情報は必要ない。
『やはり化け物だなお前は!』
目眩しをしても離れないタキオンに、シドウはゾッとしているだろう。
これでもかと加速しているのに、両機の距離は開くことはないのだから。
「じゃ、そろそろ決着といきましょうか。背面を緑色で染められる覚悟はできましたかぁ?」
『ッ………させるかぁ!』
ローリングして対峙する七号機とタキオン。反転した勢いに任せて、刃引きしたロングソードを振るう。
『なっ………』
「曲芸飛行のお返しです」
初撃を交わしたシドウのマニューバを真似てみる。前後を入れ替え、間髪入れず上下を入れ替える。頭上をロングソードが通過した。そのまま飛行。
「なるほど。背中の傷はパイロットの恥ですか。では顔や胸を塗りつぶしましょうかね。操縦が大変だぁ」
『その掃除、お前もさせてやる!』
七号機はライフルを。タキオンは左腕のヘビィガンの銃口を突きつける。
距離にして1メートルもない。シドウは準エースパイロットとしての沽券と、隊長の立場にかけて、至近距離での撃ち合いでドローに持ち込むつもりだ。
それでいい。シドウは登場するパイロットのなかでも上位だ。例えタキオンに勝ることはないとしても、敗北を受け入れず足掻けるだけ足掻く。それでこそ隊長だ。
俺も敗北するつもりはない。シドウがその選択をするなら、どれだけペイント弾を着弾させたかに勝負を切り替えてやる。
ハンガーに戻ってともに自機にブラシがけしながら、笑い合えればそれでいい。
「勝負ですよ隊長───ッ!?」
『お、おい! エースッ!?』
おかしいな。と疑問に思った時にはタキオンは失速していた。七号機が追い抜く。宇宙空間では無限ともいえる慣性が働き、止まることはないが、タキオンの機能は停止に近い状態になっていた。
『シドウ隊長! エース副隊長の意識レベル低下! バイタルは安定していますが、模擬戦を中心し、ともにグラディオスへ帰投してください!』
『了解した。………なにがあった?』
『お待ちください。───整備長からの報告です。エース副隊長の脳内チップの処理限界を突破し、タキオンのリミッターが働いたと予想できます。そのため、緊急で機能停止。しかしパイロットの生命維持装置は働いています。焦る必要はありませんので、着実な着艦を』
ヘルメットのスピーカーからふたりの声が聞こえる。
俺は今、なにが起きてどうなったのか、判別ができない。
覚えているのは、シドウとの模擬戦で充足感を得られたあと、女からすれば馬鹿らしく見えるような、男同士のプライドのぶつかり合いを興じようと、ヘビィガンのトリガーを引こうとしたところくらいか。
あれでピンと張り詰めていた緊張の糸が、プツンと切れたような感覚があった。俺のなかでなにかが切れた途端、体が動かなくなった。
おかしい。飯は食った。寝た。ヒナたちに毎晩襲われた。三大欲求は満たしたのに。
なんでこうなったのか、原因が思いつかなかった。
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またしても遅れてしまいました。気づいたらこんな時間でした。風邪って嫌ですねぇ。
申し訳ないのですが明日も2回更新となります。ご了承ください。
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