終焉の譜A01
『索敵システム異常無し。周囲に敵影無し。サーモグラフィーを使用。反応ありません。では、これより演習を開始します。パイロットに1名新人がいます。シドウ隊長は新人をガイド。想定外のトラブルがあっても冷静に対処してください』
『了解した。なに。やることはいつもと変わらん。どうせ無事に帰るさ。新入りだろうが、規格外な奴だからな』
オペレーターとシドウの会話がヘルメットに内蔵されたスピーカーを通して耳に入ってくる。
タキオンのシステムが完成した日から外部装甲と推進器などが取り付けられた。
俺が指定した色は、ナンバーズにはない、プロトタイプガリウスを踏襲した灰色。
原作ではソータの後継機は白。アークのタキオンは黒だった。俺はその中間を選んだ。
カタパルトまでクレーンで運ばれるタキオン。1番と呼ばれる右側にはすでにシドウの七号機が載せられ、発艦した。
『シドウ隊長のガリウスG七号機発艦を確認。エース副隊長。タキオン、いつでもどうぞ』
2番と呼ばれる左のカタパルトに載せられた俺にタイミングを譲渡される。肩に設置されたハードポイントにクレーンが接続され、それが外されると脚がカタパルトに接続。
いつかの───そう、第6話の無断出撃以来かな。こうして機体に実際に乗ってカタパルトで待機するのは。
これが俺の初めてとなる発進シークエンスだ。
オペレーターがカタパルトの状態を読み上げるだけで胸が高鳴る。
ロボットアニメをこよなく愛するファンとしては、たまらないシチュエーションだ。
「了解。エース・ノギ、タキオン! ブラストオフッ!」
スキージャンプの要領でタキオンを屈伸させ、カタパルトの射出に従って加速する。
あの時はろくに意識して鍛えてなかった体だったから、殺人的な加速に悲鳴を上げたが、アーレス鬼軍曹の猛特訓を泣きそうになりながら耐えた甲斐あって、たった1週間で整備士たちに腕相撲で負けない筋肉と体力を得た。その結果「くうっ」と呻く程度で、耐え抜いてみせた。
『ゲロを吐かなかっただけ、大した成長ぶりだ。褒めてやろう』
先発したシドウは、ある程度グラディオスから離れたポイントで待っていた。
タキオンが現着すると、俺たちは対面して並ぶ。
「ははは。なら、これからもっと驚かせて差し上げますぅ」
ソータの気持ちがちょっと理解できた。シドウを驚かせ、狼狽させてやりたくなり、ハイテンションだったからか、普段なら口走らないことを述べてしまう。
『いや………それは、やめろ。割と心臓に悪いから』
シドウにとって、俺の負傷が負い目になっているようで、俺が本気を出そうとするだけでこれだ。口調が大人しくなってしまう。俺としては、もうちょっと挑発を続けてくれてもよかったのに。
「冗談です………と言いたいところですけど、割と本気です。そういう意気込みをしてます」
『そ、そうか。………いや、そうだな。そうでなくてはならないか。特にそのタキオンとかいう機体は、じゃじゃ馬と聞いた。並の覚悟では乗りこなせないか』
「はい。ですので今日は、胸を借ります」
『わかった。存分に、全力でかかって来い!』
「行きます」
対峙するタキオンとガリウス七号機。灰色とオレンジ色の機体が、宇宙空間でレイライトリアクターの回転数を上げる。
『艦長より正式な模擬戦の許可が出ました。シドウ隊長、エース副隊長。予定どおり模擬戦の様子はドローンカメラで艦内に放送されています。グラディオスのパイロットリーダーとして、正々堂々、相応しい戦いを望みます。それでは、試合を開始してください』
発艦をアシストしてくれたオペレーターが通信越しに述べた。
これまで俺は、艦内でこの声を聞いた。でもこれからは、艦の外で聞く機会が増えるだろう。
喜びと興奮を噛み締め、そして消す。
それは荒れ狂っていた大海の水面のようだった心を、波紋無き湖のように沈静化させる、俺の独特のルーティンだった。
スッ───と意識を機体に浸透させた。
プロトタイプガリウスには無かった感覚だ。
操縦桿を握ることも、スロットルレバーを前後させることも、様々な機器を操ることも、ペダルを押すこともない。モーションパターンはこれまでのガリウスGのナンバーズが学習したことをインプットしてある。
タキオンの最大の特徴は、操縦する必要がないことだ。
神経接続型ガリウスとして、すべて俺の意識で行う。ただし、しばらくはシステムに俺の思考が追いつけないため、ハルモニを間に挟んでオートマチック化した。前世で言う自動車だな。オートマチック車とマニュアル車の違いだ。いずれ限定解除して、マニュアル化すれば、俺は完全にタキオンを手中に置くことになる。
ただ、オートマチック化してあるとはいえ、プロトタイプガリウスとは違い、動作のひとつひとつが洗練されている気がする。
レイライトリアクターの回転数上昇。各部コンデンサーへのエネルギー供給完了。ペイント弾装填良し。脳内チップがオールグリーンを告げた次の瞬間、ヴッ───と強く唸ったタキオンは、猛烈な加速を開始する。
「ぐっ」
『ぬっ!?』
シドウは驚いたことだろう。初動もなく、初速からトップスピードに達したタキオンが、突然メインカメラが捉える視界から消えたとあれば。
俺は歯を食いしばって耐える。
猛烈な加速に体が持って行かれないよう、ベルトがミチミチと音を立てて俺の体に食い込んだ。スロットルレバーを掴む。ペダルも踏む。最早、それらは飾りだ。掴んで、踏んでグリップを作り出すための。
七号機を背後から襲う。
左腕のヘビィガンから緑色のペイント弾が発砲された。しかし、シドウはとんでもないマニューバで回避。まるで曲芸だ。姿勢制御のサブスラスターだけで上下を反転。蜻蛉返りする。
『凄まじいな。タキオンの加速力は!』
反転しつつも発砲。オレンジ色のペイント弾が迫るも、タキオンに掠ることはない。すでに俺は後退を選んで命令を叩き込んだ。
タキオンの瞬発力とでもいうのか。神経接続型の特徴として、操縦することがないので操縦桿を操作する時間、つまりロスタイムがない。コンマ1秒の隙をも消せる。
目的地まで寸分違わず退がると、急制動からの加速。タキオンの猛烈な加速に四肢はちゃんと付いてきた。
『おい! お前、本当に実際の操縦が初めてなんだろうな!? なんだこの獣のような反応速度は! まるでレビンスを相手にしているようだ!』
後退した途端に接近を許したシドウは、声こそ狼狽しているが操縦は繊細かつ的確だった。タキオンの再加速に合わせて後退と迎撃をしている。
これがシドウ・ミチザネ。
実際に戦ってわかる。
このひとは強い。並のパイロットではない。若年ながら、すでに往年の風格がある。ソータがいなければ、確実にエースパイロットを名乗るに相応しい乗り手だ。
ブクマ、評価、リアクションありがとうございます!
申し訳ありません。熱のせいで寝込んでおりました。気付いたら12時超えてたんです………。
次回は19時に更新します。
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!




