命の価値B07
俺は俺だ。
推し活の申し子。グラディオスで唯一の転生者。これってもう、独立してるって意味じゃね?
俺が俺たる所以も、推し活以外ありえない。
俺は俺のためにやってるんだ。誰にもなにも縛られず、趣味全開でやってるに過ぎない。
ああ、ほら。今だって脳裏にソータとアイリが仲睦まじくしながら、おててニギニギしながら歩いているところを想像するだけで、涎を垂らしそう。あとでまた、なにかを装ってロッカーに詰め込みたい。喧嘩とかしないかな。監視カメラを設置して、仲直りの瞬間を見て、キスして、激しく抱き合って、服を脱がせてウヘヘヘェ。いいぞソータもっとやれぇ。
「おいエース。辛いなら退室していいんだぞ? てか、休めよお前。どうせ昼飯も食ってねぇだろ。飯休憩行って来い」
あ、やべ。自分の世界に浸り過ぎて、変な顔になってたみたい。カイドウに呆れられた。
「すみません。タキオンについて自分なりに考えていたことがあって」
「ほう………じゃ、聞かせてもらおうかぃ」
「では───」
神経接続で見たことではなく、感じたことをまとめていたのですべて話す。
パイロット目線と整備士目線でまとめておいた。ミーティングルームに集まった整備科の重鎮らは「ふーむ」と唸りながら、明確化された課題を見つけて改善策を練る。
会議は3時間にも及んだ。
「お、もうこんな時間か。今日はこれで終わりとする。飯にしねぇと食堂閉まっちまう。行くぞ」
「はい」
「さーて、飯だ飯だぁ」
「はぁ、今日も疲れた………おい、エース。なにしてんだ。飯行くぞ」
カイドウを中心に整備士たちがミーティングルームを去ろうとする。しかし立ちあがろうとしない俺を怪訝そうにしたひとりが見かねて、声をかけた。
「あー。なんか食欲なくて。今日は購買部でなんか買って済ませます。俺はもうちょっと情報をまとめてからここを出ますよ」
「そうかぁ? あんま煮詰めるなよ?」
「はい。お疲れ様です」
カイドウたちがミーティングルームを出ていく。最後のひとりになった俺は、頭のなかで情報をまとめつつ、自分の状態を軽く調べた。
「マジで腹が減らねえな………まぁいいか」
最近はずっとこうだ。
腹が減るという感覚はある。だが、それが苦痛にならなくなった。
痛みに慣れるように、空腹のせいで発生する気怠さや、それを通り越した時に発生する吐き気も、まったく感じない。
グラディオスはペンタリブルに入港して、物資を大量に購入したこともあって、補給科が運営する購買部の品揃えがよくなった。士官室には宇宙食専用の調理器具がある。熱湯を注ぐだけだが、購買部でチューブを購入すれば部屋での食事もできる。あとはカップ麺とかもある。重力発生区画ゆえ、落ち着いて食事ができるのが魅力だな。
けど今は、それさえも億劫になってくる。
「部屋にストックしてるエネルギーバーで済ませばいいかぁ」
高カロリーの補給食が、最近ではもっぱら主食になりつつある。水分が少ないそれをモソモソと食べて、水で潤いを取り戻せば終了。実に効率的。
「部屋に戻ってもすることないしなぁ………よし、仕事しよ」
『メカニック・エース。昨晩の睡眠時間が極端に減っています。睡眠をとることを推奨します』
「横になっても眠たくならねぇからいいんだよ。なんか、寝なくても体調いいしなぁ」
ハルモニを黙らせて、ハンガーへ足を運ぶ。
どうせ部屋に戻ったら、ヒナたちから襲撃を受けるのだ。凄絶な生殺し。あれに魅力を感じないはずがない。煩悩を振り払い、人手が薄くなったハンガーでタキオンと、新造ジャケットの件で夜勤の整備士たちと打ち合わせをした。
「あ、あの。エー先輩」
「おう。どうしたクスド」
「最近、調子とか………どうですか?」
「すこぶる絶好調。アーレスさんの訓練も笑って耐えられるようになったしな。あの特殊部隊顔負けのブートキャンプはすげぇよ。お前も受けてみ? 疲れを感じなくなるぜ? すっげぇおすすめ」
「そ、そうですか………」
タキオンの起動実験から何日が経過しただろう。多分、5日くらいか。
相変わらず俺の生活ルーティンは崩れない。
朝からアーレス鬼軍曹が奏でる罵詈雑言をバックミュージックに体を鍛え、昼はタキオンの実験。それが終わるとパイロットたちの演習に参加。シミュレーションであれば参戦。それが終わればタキオンの外部装甲の製造に立ち会ったり、ミーティングに参加したり。
とにかく、毎日が暇がなく、充実していた。
最高の日々だった。休んでる時間がない。
ただ、推し活に裂ける時間も極端に短くなったけど。それだけが唯一の不満かな。でもすべてはタキオンのためだ。俺の不満がどうこうとは言っていられない。これが終われば推し活だって始められる。
「エー先輩。最近、寝てる?」
「あの、すごい顔してますよ? ハイになってるだけなんじゃ?」
推し活の対象であるソータとアイリに挟まれる。
今日はアーレスの猛特訓を受けてから、ハンガーに移動していたところをクスドとソータとアイリに捕まった。
「寝てるっちゃ、寝てるよ。でも寝付きがいい方じゃないな。はは、仕事をしてるうちに眠くなるだろってパソコン開いたはいいけど、そのまま朝になってたんだよなぁ」
「いや、それってほぼ徹夜じゃないですか! あ、あり得ないですよ!」
「アーレスさんの訓練って、特殊部隊と同じ奴なんだよね?」
「それでタキオンの起動実験もして………疲れないはずがないですって!」
心配性な子たちめ。
俺を止めるために正面に立って、腕まで掴まれた。
「んー、でもなぁ。本当に疲れないんだよ。ほら、いいから通してくれっ………あ?」
「エー先輩ッ!?」
「ひ、ひっ!?」
クスドの肩に手を置こうとした弾みで、力加減がうまくいかず、左手を壁にぶつけた。ペキッと嫌な音がする。
恐る恐る見ると………人差し指と中指が、本来曲がるはずのない方に曲がっていた。
「あ、あらぁ………ごめんなアイリ。お前、こういうの苦手だっけ?」
「い、いやいや! ちょっとエー先輩! リアクションおかしいって! 左手の指折れたのに、なんで痛がらないのさ!?」
「え? あ、なんか………確かに、痛くない………い、いやでもな。そんなに心配することはないと思うんだ。ほ、ほら。本当は折れてなかったかもしれないだろ? な?」
「折れてないなんてことあるもんか! いいから見せて! クスド、ペン持ってたら貸して! 指が折れたら添え木とかして縛れって、なにかに書いてあった気がする………え、嘘でしょ?」
まさか骨折するとは思っていなかった。
そして、俺でさえも予期していなかったことが起きる。
ソータたちに心配かけたくないからと、適当に誤魔化して、あとでレイシアにぶっ殺される覚悟でブンブンと手を振ると、指が元の位置に戻っていたのだ。
折れてからも、そこまで痛みがなかった。軽く動かすと多少の握り辛さはあったが、問題なく曲がる。とてもついさっき骨が折れたとは思えない。
いったいどうなってんだ。
いや、もしかしたらすべて気のせいだったのかもしれない。
じゃあ、まぁいいかな。
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