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命の価値B06

「なら、あなたからの全面協力が得られるのかな?」


「それは早計だ。私の思考はきみを信用しただけであって、全面的にいえば信頼に足る人物であるとは解答を出してはいない」


「信用ではなく、信頼か。もしかして、信頼を勝ち取るとなにかいいことがあるんですかね?」


「それこそきみに、全面協力を約束しよう」


「それは俺に利点があるんですか?」


「タキオンがきみのものとなる」


「操縦しているのは俺です。これは俺が使います」


「それはどうだろうか。………きみもわかっているのではないのかね? すべてを知る特異点であるきみならば。タキオンを得て戦果を挙げることがすべてではないことくらい。そう、そのとおり。タキオンは通過点に過ぎない。きみが言ったではないか。イレイザーなる新たなオリジナルガリウスも登場する。………で、あるならば?」


「………俺が、それを答えたところで意味があるとは思えません」


「それも解答のひとつだ。しかし模範というにも程遠い。きみはそれで満足できるのかね?」


「………」


 今度は俺が閉口させられた。


 すると、ケイスマンの姿を模した記憶の結晶体は、初めて表情らしいものを浮かべる。「どうだ、出し抜いてやったぞ」とでも言いたげな、得意気になったような。


「………きみにひとつ、助言を授けよう」


「それが俺の利点ですか?」


「いいから聞くといい。きみはこれまで、多くの命を救い、アンノウンを撃破した。その功績は大きい。誰にでもできるわけではない。よって、きみは誰かを導くのではなく、きみ自身を独立させるんだ。きみは道半ばで倒れていい存在ではないと確信した。よって、タキオンを()()しよう。きみの命令には従うが、もし独立できぬと判断した場合、その権限を取り上げる。相応しい乗り手と判断しない限り、きみのインターフェースならび脳内チップからのシグナルは一切受け付けない」


 勝手を言いやがる。


 口調こそ違うが、それがケイスマンの意思なのだとすれば、俺は………従うしかないのか。


「人間が人間たる所以を知れ。いかに特異点たるきみとて、無事では済まないはずだ。………すでにビーツなる特異点は、その所以を見出していることだろう。心まで呑まれたその時、きみは………きみでなくなる。アンノウンを退ける者は機械ではなく、人間でなければならないのだから」


「おっ………ちょ、ちょっと! 待ってください! そりゃどういう意味ですか!?」


「いずれ、嫌でもわかる時が来る。いや………嫌とも思えなくなるかもしれない。その時は最後だ。これは一種の賭けに等しい。タキオンを託すに相応しい者か見定めさせてもらう。きみはきみで、自由にやってみるといい。だが結果の判定に憂慮はしない」


 勝手なことを述べ続けるケイスマンが踵を返した時。景色がボヤける。


 果てしなく続いていた大自然が崩れ去ろうとしていた。


 歪み続ける大地の向こうに、ケイスマンが消える。地面の感触がなくなり、やがて崩壊に巻き込まれ、大声で叫びながらどこまでも落下して───






『実験中止! レイライトリアクター強制停止! 電源そのまま………』


「待ってください! 俺は無事です!」


『エ、エース!? 無事だったのか!?』


「すみません。なんとか………」


 落下に巻き込まれたと思えば、俺の意識はタキオンのコクピットに戻っていた。


 激しく呼吸をする。動悸が激しく、大きく息を吸って整える。


 腕の端末を見た。脳内チップで起動。画面に表示されている日付と時刻。


「………3秒も経ってなかったのか」


『どうしたエース!? 3秒ってなんだ?』


「意識が飛んでた時間です。それより起動実験を継続してください。俺なら、もう大丈夫です」


『け、けどよぉ』


「緊張してたんですよ。それにおやっさん、嘘つきましたね? 結構痛かったですよ?」


『マジかぁ………悪いなぁ。神経接続型ってのはどうも未知数でよ。調節しようにも前例がねぇから、そこはどうにもな』


「それは、仕方ないですね。でももう大丈夫です。慣れましたし、我慢できない痛みじゃなかった。今は痛くないですし、一瞬くらいなら大丈夫そうです。びっくりして気絶してただけですね、こりゃ」


『すまねぇ。で、でもな。今回の接続で色々わかったからな。次は痛みを緩和できるよう調節してやっから。………クランドの承認も降りた。パイロットが継続可能なら、実験を継続するぞ。まずは───』


 カイドウの指示に従って、リストアップされた項目をクリアしていく。簡単なものばかりだ。初回だものな。腕を意識しろだの、足を意識しろだの。指を開けだのピースしてみろだの。クレーンに懸架されている、ハーモンが初期にお釈迦にしたライフルだったものを持てだの。


 俺の体の一部となったタキオンは、今のところ従順に従ってくれている。


《ハルモニ》


《イェス。メカニック・エース》


《俺が寝てた3秒の間に、タキオンとなんらかのやり取りがあったはずだ。記録されているか?》


《検索します。………ノー。そのような情報は検知できませんでした》


 ハルモニは嘘をつかない。


 俺が見たケイスマンは、夢だったのか?


 それとも───






 翌日のこと。


 先日の起動実験での3秒だけの意識暗転について、整備士たちが解明しようとシステムをチェックする。俺は大事をとって、またメディカルルーム送りとなった。ハンガーに突撃したパイロットたちに、嫌がる俺を無理矢理押しつけて、ハーモンとコウに担ぎ上げられながら追い出される。


 その間に全員から賞賛を受けた。俺としては、初めての自分専用機を手にした興奮はあったが、思考がそれどころではなかった。ケイスマンの言動が、どうも棘のように心に突き刺さったまま、抜けずにいたからだ。


 精密検査のためまた入院して、翌朝には問題無しと結果が出て晴れて退院。またアーレスのところに行って、3時間みっちりとトレーニングをして、午後にはタキオンの分析のためのミーティングに参加した。


「お前もタフだねぇ。普通、ぶっ倒れてるぜ?」


「え、なにがですか?」


「アーレスの野郎のマジキチブートキャンプ受けて、プルプルしながらミーティングルームに現れたにしちゃ、もうケロッとしてやがる。回復が早いんだよ」


「みんなより若いから、回復も早いんじゃないですかね?」


「ほざけクソガキ」


 軽口の応酬で、整備士たちも笑う。


 しかし、そんな打ち明けるには絶好のタイミングだったのに、俺はなぜか、カイドウたちにケイスマンと変な空間で出会い、会話したことを話せなかった。


 メディカルルームにいた時、記憶を探るも、会話以外が思い出せない。脳内チップにもそんなデータが保存されていない。ケイスマンの擬似人格がそうさせたのか。


 自分を独立させる。人間が人間たる所以を知る。アンノウンを倒すのは人間でなければならない。


 最後のひとつはわかる。ケイスマンならそう言いそう。


 けれど生前のケイスマンは哲学的な物言いはしたが、禅問答など好まなかった。


 いったい、この謎々で、俺は自分のなにを知ればいいのか。


 その全容も具体も、まったく知れずのままだった。


たくさんのリアクションありがとうございます!

お陰様でリアクション総数があと少しで600件に届きそうです!

さて、今週も頑張って書き続けます! エースにはいつも以上の試練を与えます。


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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