命の価値B05
ケイスマンは目を伏せていた。
俺の目の前にいるが、俺を見ようとしていない。
「きみの名前を教えてくれるか?」
「………エース・ノギ。去年はあなたにお世話になりました」
「エース・ノギ………ああ。記憶にあった。私が世話を焼いたひとりだ。成績でいえば目立つところはなかったが、なかなかどうして見どころがあると、私は記憶した」
さっきから口調が変だ。
だが、先程の発言を鑑みれば、ある程度の仮説は立てられる。
「ケイスマン教授。今のあなたは、コンピューターに自分の人格と記憶をコピーした存在。さらにそこに高性能AIを足して思考能力を与え、俺との対話に備えた。そんなところですかね?」
「ふむ………大体はそれで合っている。認識としては間違いではない。………意外だな。私が記憶した私が知るエース・ノギとは、そこまで優れた洞察力をしていた、か………」
「それはどうでもいいことです。それで? なんで今、あなたが出てくるんです? 俺と会って、なにがしたいんですかね? もしかして、あなたに選ばれた俺はハッピーだから、なにか特別な力を与えてくれる演出ですか?」
「………なにを言いたいのかは、私にはわからない。私が記憶した私でも理解できないだろう。だがきみの質問に答えることができる。私がきみに会ったのは偶然かもしれない。限りなく低い確率だ。きみは選ばれた。そして自分でも選んだ。私と会うことのできる正しい手順を選んだ。よって、私はきみの言葉に答え、そして私を保存した私の、本当の意思を伝えることができるだろう」
わたしわたしと、うるせぇな。
頭がより混乱しそうだが、私的したところで修正は望めそうにないだろう。こちらで処理するしかない。
「俺がなにかを求めたとして、与えてくれるというシチュエーションはあるんですかね?」
「物理的なものは与えられない。当然だ。今の私は私を保存した私のコピーであり私自身でもあり、それが私の───」
「ストップ。もういいです。わかりました」
自分語りで一人称が多すぎる。止めるしかない。
「正しい手順というのは?」
「用意するものは3つ。ひとつ、脳内チップ。ひとつ、インターフェース。そして肝心なのは、私がプロトタイプと称して正体を隠蔽した、きみの乗る機体。それらが揃うことで、きみの頭に、こうして語りかけることが適った」
「………なんでそれをする必要が?」
「きみが、この機体について正しい認識を得るために。私自身が語る必要があった。ここは………グラディオスだろう。やはりアンノウンの強襲は免れず、記憶と思考をレイライトリアクターのなかに封じたとあっては、私の生命活動は終えてしまったのだろう。だが、それがすべて悲観するべき要点ではない。ここに私がいて、きみがいる。そこにすべての意味があるのだから」
「………」
もちろん、こんな会話が本編にあるはずがない。そもそもケイスマンの全体図なんて公開されてもいない。
………で、あるからには隠しイベントというわけか。
製作者側も想定していなかった、この世界の変化。存在してしまった、この世界に息づく人間の、アンノウンへの抵抗。
そして、この時点で察知した、ひとつの真実がある。
アニメ本編では、ケイスマンが述べた3つの条件は叶うことがなかったのだ。
ソータたちを収容したグラディオスは、13機のガリウスG、つまりナンバーズしか得られなかった。プロトタイプガリウスGなど、そこになかった。本編では大破したサフラビオロスと運命を共にしたのだろう。
偶然にもすべて手にしてしまった俺にしか見られないシークレットなイベントだったというわけだ。これを製作陣が知ったら驚くだろうなぁ。知る由もないけど。
「エース・ノギ。グラディオスに収容されてから、きみのことを見ていた。だがやはり、きみ自身の口から名を述べてもらったとしても………私を作った私が知るエース・ノギとは別人のように思える。もし真実を知っているなら教えてほしい。きみは………何者だ?」
ケイスマンはそこで初めて、俺を見た。
ケイスマンの記憶と、高性能AIの思考を組み合わせた最高の人格か。
すぐに俺がエース・ノギではないと知られてしまう。
それを告げるべきか、かなり迷った。
「………教える前に、ひとつ。この会話は外部にも共有されていますか?」
「いいや。外部には漏れていない。そしてどのような記憶媒体にも記録されないようにできている。記憶されるのは私と、きみだけだ」
「………あなたは真実を知って、失望するかもしれません。そうしたら、この機体が動かなくなるようにするんですか?」
「難しいが、やれないこともないだろう。内側からの崩壊を促すことはできる。だが、私は知っている。きみはこれまで、利己的な動きをした回数は両の手の指で足りるだろう。功績の多くは、誰かのためだった。きみが何者かは関係ない。誰かのために、人類のために動き続けようとするきみの、なにかが知りたかっただけなのかもしれない」
「そうですか。なら、聞いてください。俺のすべてを───」
俺はかなりの時間をかけて、俺のすべてを話した。こんなことは初めてだった。
誰にも打ち明けたことがない、俺だけの秘密。
前世のこと。この世界のこと。
すべてを知っていること。推し活のこと。ガリウスGの発展のこと。
オリジナルガリウスのこと。
アンノウンのこと。
そして、ビーツのこと。
何十分も経過していた。腕に端末がないから正確な時間はわからないが、喋り続けた。
ケイスマンは黙っていた。無表情を一貫している。怒るでも、落胆するでも、失望もしていない。
「───というのが、俺の知っているすべてです」
「………なるほど。わからん」
「は?」
「理解できない」
「………はぁ」
「きみの言うとおり、思考は高性能AIに託しているようなものだ。しかし、そうであっても………現実とは思えない」
まぁ、そうだろうな。
俺の言動はつまるところ「この世界は俺の前世の世界の人間が作り出した、空想の、アニメのことで、ここにいる人物もそのひとたちが作ったんですよ」ということ。
ソータたちに話したところで「へー、そうなんだ。すげぇ納得」なんて言わないもんな。
みんな生きてるんだ。空想でも、架空の世界でもない。ここにある現実に、必死に立ち向かっている。
俺が告げた真実は、この世界に生きる人間すべてに喧嘩を売るような文言だ。信じる方がおかしい。
例えば、俺がいた前世で、いきなり「この世界って架空の存在なんですよ」なんて語る奴がいても、嘲笑していただろうから。立場が違えば、全員口を揃えて否定する。それが当然なのだ。
「………だが、信じられる要点ならある」
「え」
「きみは、私を作った私が遺したデータを参考に、私でも考えなかった兵器を作った。私が設計したタキオンを知っていた。誰が死ぬのか、タイミングをすべて把握して阻止した。それだけは信用に値する」
それは人間の感情ではなく、機械が導き出した解答なのだろう。
客観的な思考をすれば、俺への信用は得られたということだ。
ブクマ、評価、リアクションありがとうございます!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!




