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命の価値A05

「なぁなぁ、ハーモンくん。エースくんって、やっぱりこう………なんか、すごいところあるんでしょ?」


「ありまくりだぜ。でなけりゃ、俺たちがこうして膝突き合わせて飯を食うなんて絶対にあり得なかったしな」


「まったくだ。こうしているだけでも奇跡に思える。特に俺とハーモンは、サフラビオロスでは喧嘩ばかりしていたからな。目が合えば殴り合いだ」


「今は全然、それがないしよ。殴り合いたいとも思わねえ。むしろこいつの動きを考えて、戦闘中の連携すらイメージするようになっちまった」


「気が合うな。俺もだ。これを奇跡と言うほか、例えようがない。友情とかいうものを俺は感じ始めている」


「おおっ。男の友情! いいねぇ。僕、そういうのなかったから憧れるわぁ。ねぇねぇ、戦いってっさ、やっぱきつい? ふたりともパイロットなんでしょ? どんな機体に乗ってるの?」


「俺は三号機───」


()()()()


「───な、なんすか?」


 すっかり気を良くしたハーモンを、強めた語調で黙らせる。


「民間人相手に、ペラペラと機密情報を与えてんじゃねぇよ」


「うっ、す、すんません。………で、でもよぉ。エー先輩、トーマスにちょっと厳しすぎねぇっすか?」


「それは同意する。初見のクランド艦長を思わせる対応だ。俺はよくないと思うが」


 一丁前に反論するようになっちまって、こいつら。


 でも、肝心なところが、まだなにもわかっちゃいねぇ。


「トーマス。お前、昨日の内に誓約書書かされただろ? 何枚だ?」


「え、誓約書? あ、ああ。書いたよ。みんなで。艦長に説明を受けてさ。10枚くらいあったかな」


「10枚で済んでよかったな。………この前、俺の後輩………徴兵に対して立候補しなかった連中なんだけどな。とあるコロニーで降ろされて、連合軍の施設に送られて、同じような誓約書を書かされたはずだ。何枚だと思う?」


「え、えっと………20枚とか?」


「100枚は軽く超えてるはずだ」


「ひゃく!? え、えっ!? なんで!?」


「連中は数ヶ月は艦にいた。もちろん、移動は制限されてたから多くを知るはずがない。精々、毎日どのくらいの洗濯物があったくらいか。掃除とかもかな。でも、ここは最新鋭艦なんだぜ? そこに数ヶ月乗ってたら当然だ。その秘密を口外しないって誓わされる。………今、お前がハーモンから余計な情報を聞いたとしよう? するとだ。お前、すぐに連合軍に捕まって500枚以上の誓約書を書かされてたかもな。お前の渡航歴にはちゃんとグラディオスに収容されたって記録されるし。副隊長の俺が、それを見逃すはずがないだろ。………厳しく突き放すような口調をしたせいで気分を害したなら謝るよ。でも、これはお前を守るためなんだ。わかってくれるな?」


「………う、うん。僕が軽率だったよ。ごめんね。ありがとう」


「いや、わかってくれたならいいんだ。艦に関さないことなら喋ってもいいんだとよ。趣味とかさ。それくらいなら俺だって、いくらでも話してやるから」


「うん。ありがとうな」


 トーマスは物分かりがいい。そして心が広い。俺の言葉をすぐに理解した。


 けど問題は、それすらわかっていなかったふたりだ。


「ハーモン。コウ。わかったな?」


「………う、うす。軽率だった。すんません」


「俺もまだまだだったわけだ。注意する。すまない」


 頭を下げるハーモンとコウ。


 こうして素直になっただけ、評価はできるということだ。


 しかし、ハーモンとコウが口が軽いというわけではない。今のはトーマスのコミュニケーション能力の一部だ。巧みな話術がトーマスの武器である。


 話し相手の特徴を見抜き、合わせることができる他。なにが好きでなにが嫌いなのか、すぐに見抜けるのだ。


 ある意味で特殊能力。生き抜くために努力して習得したのだろう。


 さもなくば───


「ね、ねぇねぇエースくん? さっきから気になってるんだけど、あの子たち………」


「気にしなくていい。こっちから手を出さない限り、噛み付かないよ」


「いや噛み付くってよりも………なんでだろうねぇ。ぶっ殺すぞって目をしてるんだけどぉ?」


 俺たちのテーブルを捕食者がじっと監視していた。言わずと知れたヒナ、シェリー、ユリンである。


 昨日のカウンセリングから、ずっとトーマスにべったりだったからな。あの3人が俺に寄り付く時間がなく、禁断症状一歩手前みたいな、まともじゃない目付きをして睨んでいる。


 ハーモンとコウはもう慣れていて、構おうともしなかった。


「どうしたの? あの子たち」


「そうだな………俺に怒ってるんだよ。一昨日かな。ちょっと喧嘩しちゃってさ。まだ許してもらえてないんだ」


 まさか3人の女子から言い寄られて困ってる、だなんて言えない。言えば舌打ち爆撃されるかもしれない。いかに知り合って2日目のトーマスでも、そんなことをされたら傷付く。


「へぇ、難儀してるんだねぇ。わかった。ちょっと待ってて。僕が話ししてみる」


「え、あ、おい。待て! 接近するのはまずい!」


 なにを考えたのか、トーマスは立ち上がると血に飢えた獣に自ら接近した。


 あくまで彼女たちのターゲットはトーマスなのだ。せっかく俺に怒っていると説明したのに、これでは意味がない。俺が止める前にトーマスは自分から磔にされに行き、そして───


「あはは。へぇ、すごいなエースくんは」


「でしょお! エー先輩って、とってもすごいんだよ!」


「エー先輩の魅力を先に語るなんて、やるじゃないあなた。命拾いしたわねぇ」


「少しでもトチ狂ったことほざけば、スラスターで煮沸消毒するところだった」


 おかしいんだよなぁ。


 トーマスはたった3分で猛獣を飼い慣らしやがった。磔にはされなかったのだ。


 ハーモンとコウの時と同じだ。やはり話術の才能がある奴は違う。


 けど、トーマスのお陰で食堂に溢れていた殺気が和らいだのも確かだ。


 これには助かった。感謝しなければならない。






「………なんだと?」


 その日の夜のことだった。


 部屋から抜け出したひとりが、誰にも見られぬよう細心の注意を払いながらも通路を進み、ある程度まで歩いた先にあるメンテナンス用のハッチを開く。


 先日の夜に隠しておいたものが、なかったのだ。


「どこに………ん?」


 脱走者がハッチの裏から内部を探ると、一枚のメモが落ちているのを発見する。拾い上げると、そこに記載されていた内容に舌打ちした。


5回目です!

次回は19時頃に更新します!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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