命の価値A04
それは企業側としては、限りなくグレーゾーンに等しい。
料金を受け取った以上、乗客を目的地に送り届ける義務が発生する。しかし乗客に肩入れするべきでもないのだ。ところがだからと言って途中で降ろすわけにもいかない。ゆえにパイロットは適宜対応し、臨機応変な対応を強いられる。マニュアルどおりにはいかない。
「………患者は何人いるのだね?」
「いえ、たったひとりです。というのも、親御さんと生き別れちまった男の子でね。16歳くらいの。だからアンノウンに襲われた時、取り乱しちまって。過呼吸になって倒れたんですよ」
「………ひとりか。シャトルの修理が完了するまでなら、我が艦のカウンセラーに診せよう。それでいいか?」
「ありがとうございます、艦長。それで良くなるといいんですがね」
「回復しなかったとしても、本艦は責任を持てないことを承知してほしい」
「ええ。わかっています。では連れてきます。………ワイリー! トーマスくんを連れてきてくれ」
「はい。へゼルダさん」
ふむ。パイロットがへゼルダで、サブパイロットがワイリーね。
そんでもって、ワイリーに付き添われて降りてきた子というのが、トーマス。
「私はこのグラディオスの艦長、クランドだ。きみ。名前は?」
「トーマス・イエルド、です。よろしくお願いします………」
「ふむ。顔色が優れないな。まぁ無理もあるまい。アンノウンに追われたのは初めてかね? 初めてでなくとも恥じることはない。むしろそれでケロッとしている子供の方がおかしいのだ。気を楽にしたまえ。本艦がきみにしてやれることは少ないだろうが、命の保障はできる。ここにいる間は、我々がきみを守る盾となる。安心したまえ」
クランドは初めて見せる笑顔でトーマスに接していた。
とてもではないが、俺たちと初めて会った時は見せなかった。
だがこれは理由がある。ソータたちはパイロット科の学生だ。その時はまだ一般人だったとはいえ、一般人より専門の知識がある。そんな彼らにクランドは下手に手を抜くことができなかった。
しかしトーマスは違う。パイロット科に通っていた学徒というわけでもなさそうだ。それに軍の関係者でもない。つまりクランドが守るべき一般人として、理想な姿をしているというわけだな。
「よ、よろしくお願いします」
トーマスはクランドの握手に応じ、控えめな笑みを浮かべ、整備士のひとりが案内してメディカルルームに向かう。レイシアのカウンセリングを受けるためだ。
「乗客には窮屈な思いをさせることに違いないが、部屋を貸そう。きみもシャワーも浴びるといい。3日間は長いようで短いものだ。少し休みたまえ」
「申し訳ありませんが、お言葉に甘えさせていただきます。艦長」
「なに。民間人を守るのが我々の使命だ。汚れ、疲れた体で再度の渡航はさせんさ。食事も提供しよう。今晩、あなたの話を聞かせてもらう。いいかね?」
「聴取の件ですね。ではシャトルのレコーダーも提出しましょう」
「元軍属なだけはある。話が早くて助かる」
「命を助けていただいて、休息まで与えてくださったんだ。全面的な協力は惜しみませんさ」
クランドに全面協力を誓うへゼルダ。
その後、シャトルの客10名が降ろされ、空いている部屋に収容され、シャワーと食事を提供される。
とりあえずはこんな感じ。
「………ふぅ」
意識を監視カメラのリンクから切って、自分の体に戻す。
「まぁ、やっぱり、そうだよなぁ。いるよなぁ。あいつ。………どうしてくれようか」
非推し対象であるあの男の顛末は知らない。しかしまともではないだろう。
しかし、であるからといって、それを傍観しているほど俺は優しくはない。
「………やっぱり、釘を刺しておくべきかね。………ん?」
帰投数分ではヒナたちもすぐには突撃はしない。シドウも学習して、監視網を厚くし、脱走を防いでくれているだろう。
その間に対策を講じようと、ハルモニを起動しようとすると、腕の端末に着信が入る。レイシアからだった。
「はい。エースです」
『よかった。起きてたんだね。体調はどう?』
「そこまで無茶なことはしてないので、頭痛とかは無いですよ」
『よかった。じゃ、どうせ監視カメラとかでシャトルの様子を見てたんでしょ? 私の仕事、手伝ってくれない?』
「………はい?」
それは唐突な提案だった。
翌日のこと。
俺はレイシアの仕事を手伝ったけど、その影響なのか、余計なオプションがついて回るようになった。
「なぁなぁ、エースくん。ここに来て長いの?」
「いや………数ヶ月くらいかな」
「へぇ。学生さんだったのに軍人に志願するなんてすごいなぁ。僕、そんな度胸ないし。尊敬するよ」
「度胸というか、その場の勢いみたいなものだよ。ずっとそんな感じだった」
「またまたぁ。その歳で副隊長に抜擢される実力があったってことでしょお? やっぱりエースくんはすごいひとなんだよ。だってさ、そうじゃなきゃ周りがこんな明るくないもん」
食堂で飯を食っていると、呼んでもいないのに客が現れる。
トーマスだ。昨日、レイシアのカウンセリングを受ける際、歳が近い方がいいと言われ、俺も同席させられた。
俺はレイシアの共犯者だ。そして、その事実はすでにクランドとカイドウにバレていて、その上で黙認されているとか。俺は学徒兵でありながら、周りの、特にパイロットの心境を積極的に知って、乱れないよう注意を促せる人物として、レイシアの助手をやらされていたのだ。
しかし結果はレイシアの目論見どおりで、トーマスはどちらかと言えばレイシアより歳が近い俺に心を開き、カウンセリングもうまくいく。で、俺に取り入ろうとしたわけだ。友達になろうと。
たった3日間の滞在。友達になったとしても別れが辛いだけだし、また会えるという保証もないし、民間人と俺たちとでは情報漏洩のリスクもあって通信はできないし。
しかしトーマスはそれでも俺と友達になりたかったようだ。友達がいない空間というのが死ぬほど寂しくてきついらしい。ゆえにシャトルでの長期渡航は、他の10人の客たちとすぐに打ち解けたらしい。コミュニケーション能力がズバ抜けて高い証拠だ。
「お前ぇ、わかってんじゃねぇか!」
「すべて事実だ。お前の観察眼は評価する」
食事をともにしていたハーモンとコウは、トーマスの言葉に何度も首肯して、気を良くしていた。すっかり絆されやがった。
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