命の価値A02
熾烈な戦いというのは時として、時と場所を選ばず、そして延々と続くことがあるのだ。
知ってたかい? 前世のお父さん。息子はアニメの世界に転生して、今日も元気でやってるよぃ。
けどね、聞いて驚かないでね?
………周りはもっと元気です。
「エー先輩。はい、あーん」
「お水ですよ」
「エネルギーバーも食べてくださいなぁ」
「なんかこの流れ、見たことあるなぁ!! デジャブにもほどがあるぞ!? こらユリン! わざわざ再現するために胸元に入れ直すんじゃないよ!」
第9話以降、ヒナとシェリーとユリンは本気を出してきた。
3ヶ月以内で俺を落とすんだと。なんてこった。
俺はハーレム系ライトノベル主人公なんて目指していないというのに!
だってさ………本編では、ヒナが第6話で死んで「ヒナショック」を引き起こし、第2クール中盤でシェリーも死んでヒナショックの再来たる「シェリーショック」がSNS上で巻き起こり、終盤でユリンが生死不明となった。
でも彼女たちには、とある共通点がある。
なんと、全員が「天破のグラディオス」の主人公であるソータに気があったということだ。
ヒナは淡い恋心。シェリーは視線で追いかけた。ユリンは狂愛だった。
それが紛れもない正史ルートだったはずなのに、おそらく度重なるという表現も生温くなるような魔改造っぷりを発揮した、俺の原作破壊行為による意識変化………とも考えられるんだよなぁ。
ユリンが特にそう。
原作ではソータを追い詰めて壊れていく様を見て愉悦していた。
ところが今回、俺という異物が多大なリスクにより生死の狭間を彷徨うくらいのトラブルがあったものの、好き勝手暴れた結果、狂愛は幾分かマイルドになって矛先を俺に変えた。
俺は………責任を取らなければならない。
そうするべきなのだと、理解してきた。
俺のためだけではない。俺の生きる活力たる、推し活のためだ。
主人公のソータと、ヒロインのアイリをなにがなんでも幸せにしてゴールインさせる。それが最終的な目的であるなら、本編ではソータへ淡い、あるいは歪んだ恋を向ける3人を引き受けてしまった方が、ソータがアイリに猛アタックしやすいし、アイリだって余計な勘違いをしないで済むものな。
けれども………そこには大きな支障が出る。
だって俺、前世では彼女いなかった歴=年齢だぞ。異性との関わり方なんてやっと学んだくらいだし、なにが正解なのかわからないし、異性は怖くないよって言われても怖いし。
そしてなにより───そんな不純な動機で、3人の恋慕を受け止めてしまっていいのか。という悩みだ。
俺だって人間。健全な男の子。女の子に対する憧れは人並みにあり、彼女を作れたとしたらなにをしたいか? という疑問に、憧れと興味を全力で乗せて接したいという願望はある。
そんな俺がソータとアイリにかまけて「ふたりの邪魔をさせたくないから、とりあえず3人と付き合っちゃおう」などという、もし俺が相手に言われたら傷付きそうな心で、異性と交際はしたくはない。
「エー先輩。ご飯食べたら休もうね」
「お昼寝の時間だって」
「エー先輩ったら、まーた無茶して脳内チップを焦がしかけたんだから。脳細胞が死滅しておバカさんになっても知らないわよぉ」
3人の天使が誘惑する。昼寝と称してなにをするやら。
あの日───3人が俺の同意なく争奪戦を目的とした停戦協定を結んだ時。
数時間に渡る監禁と、生殺し拷問を耐え抜いた俺は、精魂尽き果てて解放された。説得にレイシアまで出動したんだもんな。俺が所持を許されている高性能AIの上位互換のハルモニを所有しているだけあって、ユリンのブロックを通過して扉を開き、雪崩れ込もうとする男たちを手で制し、今度は自分でロックをかけた。
疲れ果てた俺の無様な姿と、もつれ合おうとしているヒナとシェリーとユリンを興味深そうに観察しながら、3人の事情を聞いた。
で、ひとしきり笑って「そりゃいいね。是非やったげて! 私が許す!」なんてイカれた判定を下して終了。
俺の人権は無いようで、辛うじて残っている。
一応、人間扱いされるもんな。だから毎日、暇を見つけた3人が強襲しに来るんだ。
「はい。ごちそうさまでしたっと。じゃ、皆さんお先でーす」
俺に左手でアーンをしながら、右手で食事をするヒナ。シェリーとユリンもそう。俺の両手を後ろで拘束しているから抵抗もできない。
食堂にはソータたちがいた。視線で「助けて」と訴えたが、罪悪感のある瞳で「ごめん」と返された。
「チッ!!」
食堂で舌打ちが連鎖する。整備士や同級生たち、後輩たちだ。
そりゃあ、毎日のように女子たちから言い寄られるのを公衆の面前でやらかせば、気持ちいいはずもないものな。
「ハァ………」
ヒナがやらかした「後輩に赤ちゃんプレイ風オイルエステをさせた鬼畜」事件の噂はすぐに薄まった。今では「催眠術で3人を惚れるほうマインドコントロールした外道」なんて噂が流れている。もっと極悪なものになった。
けれど………あの事件で、ひとつだけ変わったことがある。
それは───
「おい! ゴミ捨て済んでねぇじゃねぇか新入り!」
「ハァ。副艦長は野菜の皮剥きもできねぇのかよ!」
「水のタンク確認しとけっつっただろうが! なにやってんだデーテル!」
「やる気あんのかテメェ!」
「ハッ。さすが、監視カメラを操作して、年下の女を襲おうとしたロリコン様だなぁ! マジで使えねぇわこいつ」
デーテルの処遇である。
シェリーがオペレーションルームにも、ハンガーにも、なんなら他のセクションにも聞こえる通信で叫んでしまったからな。「デーテルに襲われた」って。
俺が助けたから恩があるって言いたかったのだろうが、オペレーションルームでは別の場所で被弾したバカがひとり。
その後、調査の結果、デーテルのやらかしが発覚。誰かが証拠写真を送ってしまったからかもしれない。誰だろうね。怖いね。
結果としてデーテルは異例の降格処分となった。本編にはそんな流れはない。
数ヶ月に渡る、各セクションでの研修と奉仕活動。しかも立場は俺たち学徒兵よりも下ときたものだ。
今日は食堂で勤務していた。まともに調理補助なんてできないし、野菜の皮を剥かせれば、分厚くて過食部がほんの少ししかなくなる。掃除、ゴミ捨て、チェックもできない。そりゃあ、怒られる。デーテルってただでさえも敵が多いし。炊事兵は狂喜しながらデーテルを迎え入れたと思う。
そしてそんな状態に陥ることになったデーテルは自業自得だし同情のしようがないのも確かで、さらに宇宙戦艦のなかでは逃げ場がないし退艦できないし任務中では辞職もできない。
「お、覚えていろよ貴様らぁ………!」
とはいえ、怨嗟を込められる時点で案外元気そうだしなぁ。放置しても問題はないだろう。
むしろ、これで今後の一部が、やりやすくなったとも言える。
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