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命の価値A01

「艦長………艦長。ビーツ艦長」


「………なんだ」


 女の声で目を開けるビーツ・クノ。


 アリスランドの自室で、仮眠していたビーツは、鍛え上げ、そして昔の傷痕と真新しい引っ掻き傷を作った体を起こす。


 不機嫌そうにしながら眠りを妨げた全裸の女を睨んだ。


 その女はアリスランドの副艦長だ。ボブカットにした黒髪。丸眼鏡の下には鋭い双眸。均等の取れた肢体。ビーツが他の支部から引き抜いた有能な士官であり、今となってはビーツの愛人のひとりである。


「本部のオルコット様より、グラディオスの航行路が送られました」


「………ん」


 副艦長が差し出す書類を、不機嫌そうにしながらも受け取る。


 長い腕は、隣で寝ていたオペレーターの胸の間から引き抜かれた。ビーツ好みの体型をしている女で、就寝時は必ず同衾させている。


 他にも布団や枕代わりにしている女がいた。であっても副艦長は平然としている。例え、部屋が愛の営みによる異臭で溢れていても。入室してから冷静に換気をするくらい冷静だ。


「………ほう。やはり地球か。運命には抗えんな。Eタイプと決着をつけに行ったか。………まぁ奴が死んだとしても、私には関係がない。所詮は男だ。女が死ぬようであれば、少しは助けもしたが。………アリスランドの降下予想は?」


「はい。本艦の方が1ヶ月早く地球に降下可能です」


「わかった。航路そのまま。オルコットの豚に適当に礼でも言っておけ」


「承知しました。オルコット様には私が代わりに御礼申し上げます。………それと、もうひとつ。気になることが」


「気になること?」


 ビーツは自分を抱き枕にしていたブロンドの女を跨いでベッドから降りる。副艦長は慣れた様子でクローゼットからビーツの着替えを出し、補助する。


「ビーツ艦長の仰られていたドイツ支部の調査を内密に行ったのですが、他のポイントでなにやら異常が検出されております」


「他のポイントで異常? なんだそれは」


「こちらです」


 副艦長が送ったデータを腕の端末で受信。開くと、ビーツは目を凝らす。


「………なんだこれは」


「不明です。アンノウンでも、人類の兵器でもないなにか。それが去年崩壊したローマ支部で発生しております。今はまだ微弱ではありますが、放置すればいずれ………」


「ローマか。………原作では立ち寄ることはなかった。………あの娘も出る場所でもない。ふむ………わかった。地球に降下し次第、そこを探る。今からガリウスの半分を大気圏内装備に換装させておけ。ジャパン支部にも通達。補給後、すぐにローマ支部跡地へと急行する」


「了解しました」


「ああ、それとな。エマ」


「はい?」


 ビーツは副艦長───エマというふたつ歳が上の女を抱き寄せる。


「起こす時はキスしろつっただろ」


「………勤務中ですので」


「うるせぇ」


 ビーツは強引にエマの唇を塞ぐ。


 数秒のもつれ合い。エマは最初こそ抵抗を示したが、やがて諦めた。


「………あなたはいつもそう。強引なんだから」


 口調は辛辣ではあるが、表情は異なり、そこはかとなく嬉しそうにしていた。


「そこに惚れて、お前もこの艦に乗ったんだろうが。ベッドの上じゃ別人になるくせによぉ」


「うるさいわよビーツ。今晩は覚えてらっしゃい。鳴かせてあげるから」


「それは楽しみだ。精々、俺を楽しませろ。ここにいるっていう実感を刻み込ませろ。それはお前にしかできねぇよ」


「わかっているわ。あなたはそうだものね。私、いいえ、私たちに頼らなければ死んでしまうような、儚い存在だもの。だからかしらね。母性本能とでも言うのかしら? ハーレムを築いてしまったあなたを、許してしまうような堕落した私を作り上げた」


「それが俺だ。俺を愛せ。そうすりゃ愛してやる。………くくく」


「なにがおかしいの?」


「いや、悪い。許せ。思い出し笑いってやつだ。………お楽しみは夜にとっておく。行きな」


「もう」


 エマは拗ねながらビーツによって乱された髪を手櫛で軽く整えて、部屋を出る。


 その後ろ姿を見送ったあと、ビーツは腕の端末に再び目を落とす。


「2時間と11分23秒………昨日よか3分多く眠れたか。まぁマシになった方だろう」


 ぼやきながら連絡先を指定する。


「おい。今日は半分でいい。肉は少なめにすりゃ、なんとか食えそうだ。ケリーに運ばせろ」


『承知しました。艦長』


 連絡先は炊事長で、ビーツの食事を自ら作っている。専属のシェフだ。


「バイタルチェック。………血圧200か。脈拍130。重症だな。相変わらず」


 どこか楽しげにしながら食事が来るのを待つ間、シャワールームに向かう。いつもなら女たちが世話をしてくれるが、今日は不運にもシフトに穴が空いており、湯を堪能できない。代わりに顔を洗って誤魔化した。


「………エース・ノギ。お前もこっち側にいるんだぜ? お前もそろそろ、体の仕組みに気付くはずだ。いや、あいつどこか天然というか、自分のことを大切にしてなさそうだからな………俺とは違って、死にかけてから気付くか」


 エマと接していた時に思い出して笑ってしまったのは、エースのことだ。


 ビーツと違い、グラディオスに乗艦した運のいい男。恵まれた環境。優れた人材。そして美貌を兼ね備えたネームドキャラの女。ビーツが欲しかったものがそこにあるのに、なにも手にしようとしなかった「天破のグラディオス」のファンにあるまじきヘタレな男。


 その男と初めて会った際、偶然にも知ってしまったのだ。


 エースがビーツと同じだということに。


 今となっては、それがもっとも滑稽で、次に会った際にいじり倒せるネタとなる。


「覚悟して望めよ()()()ぃ………お前、どうせファンだからお触り禁止とか甘ったれた逃げに走ってる頃だろうけどよぉ………」


 鏡の前でニタァと笑う。そして壁のラックに所狭しと積載されたサプリメントを掴み出すと、蓋を開けてザラザラと口のなかに流し込み、噛み砕くと水も飲まずに嚥下する。


「それが自分の首を絞めてるって、いつ気付くんだぁ? 俺はそうなる前に気付いて対策を講じたが………どうせお前は気付かないんだろぉ? 死にかけてから対策をやっと講じたとして………く、くく、はは………間に合えばいいなぁ!」


 ビーツの狂気はアリスランドで増すばかりだった。


 だが、それがビーツという存在を保てている要因のひとつであることも、確かなのだ───。


ブクマ、リアクションありがとうございます!

今週もまたいっぱい更新する時がやってきました!

次回は7時頃に更新んします!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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