撃てよクソ野郎C01
シドウside
間違いなく過去最悪な戦闘のひとつだった。
俺が手塩にかけて育てあげたガキどもは、日々のなかで成長し、立派なパイロットになった───と満足していたら、これだ。
たったひとりの元整備士、準パイロット、俺の隊の副隊長が仕事を半分ほどボイコットしやがった。
以前なら然程気にはしなかったし、懲罰を与えれば済む話しだ。
だが今となっては、それが重大な問題を引き起こしてしまうのだと、グラディオスに帰投しながら痛感した。
「パイロットは集合! 整列!」
全員がハンガーに戻り、専属の整備士たちに報告と引き継ぎを済ませた頃合いを見て、俺はガキどもに招集をかける。
いつもなら親父率いる整備士たちの邪魔にならないところに誘導するのだが、今回は邪魔になろうが関係ない。ガンビッドの前に集めた。
「これでわかっただろう? クランド艦長の仰るとおり、戦闘に私情を持ち込めば全員が危機に陥るのだ! 反省しろ馬鹿ども!」
「はーい………」
効果はあった。半分ほど。気落ちしたレビンスが、虫の音のような返事をするくらいだ。他にもデクスターとギグスが、疲れた面持ちをしながら首肯する。返答はなかったが、まぁいい。
それより問題はこっちだ。
「おいエース。全員集めたぞ。言いたいことがあるなら言え。お前も例外ではない。私情を持ち込んでくれるな。頼むから」
俺が他人にここまで取り入ろうとして、懇願する時が来るとはな。我ながら笑えてくる。
しかし背に腹はかえられぬ。隊の風紀と連携に支障が出ないよう、舵を取り、指針を出して導いてやる。それが俺がこいつらと同じ歳の頃に教官から学んだ、上官としての理想的な姿だ。
俺の部下は、本来なら全員が精神的に成熟している大人のはずだった。忍耐に優れ、私情を持ち込まず、風紀を重んじて軍規を尊重する。それができる大人のはずだったのだ。
それがなんの間違いか、初めて持った部下たちは全員が未成年だった。副隊長に添えた男もそうだ。
彼らは子供であるがゆえ、精神が未熟で、しかしその反面で成長が早い。そしてその分だけ自信が崩れた時のリカバリーが難しい。
エースもそうだった。そうであるとわかっていたはずなのに、つい忘れてしまった。
なにもかも忘れてしまっていたのだ。
俺はエースを恐れた。初めて臨時のパイロットとして任務に参加させる旨を伝えたその時から。具体も底も見えない。大人のような子供であったとわかっていたはずなのに。
俺はエースを誰よりも一人前として扱い、そばに置き、そして負担をかけ過ぎた。
今回の暴動は、その反動だ。猛省しなければならない。
「おいエース。聞いているのか? 説教でもなんでもいいから、やれ。でないとこいつら、今にも死にそうな顔をして怖───ではなくて、隊として機能しなくなるぞ!」
無事に全機が帰投し、安心したところまではいい。
問題は一列に並んだ女たちが、共通した表情でブツブツとなにかを唱えていて、誰の言葉も届いていないことだ。
「エー先輩がナデナデしてくれない………」
「エー先輩に嫌われた………」
「他人のふり………ふ、んふふ、ぁはは………」
さっきまで銃口を互いに突きつけていた連中とは思えない落胆ぶりだ。
瞳孔の開いた瞳からはハイライトが消えて、呪文のように同じことを繰り返し口にしている姿に狂気を覚える。
「おいっ、エース!」
なんで俺の部下たちは問題児だらけなのだと嘆きたくなり、八つ当たり同然に5番のガンビッドのカメラをガンと拳で叩く。そこでやっと反応があった。俺の上半身ほどはある巨大なカメラレンズが、瞳のようにギョロッと動き、俺を注視した。まるで人間の眼球のような動きに、ついギョッとしてしまう。
『聞いてますよ、シドウ隊長。まぁ言いたいことは全部言いましたし。俺のターンは無しでいいです』
俺の右腕の端末からエースの声が発せられた。ガンビッドにはスピーカーがないからだ。
「そうか。ならいい。ではお前たち。エースに嫌われたくはないのだろう? 喧嘩両成敗ということで、即刻謝罪しろ」
「………ごめんなさいエー先ぱ」
「誰がノギに謝れと言った。最初に謝って互いを許し、和解すべきはお前らだろうが。エースは仲違いをしたお前たちを見て喜ぶと思うか? いいや、そんなはずはない。エースはいつも、お前たちのために本気で努力してきたんだろうが。なら、今度はお前たちが応えるべきだ」
『さすが隊長。いいこと言いますねぇ』
「………茶化すな。馬鹿者め」
本当に世話の焼ける連中だ。エースも含めて。
しかし、これはこれで、実はかなり安心さえしていたのも事実だった。
俺はエースに依存していたのだ。奴を副隊長に添えて、しばらくしてから自覚した。
俺が子供なんぞに、未来を担うべき人材に依存した果てにある意味で媚びへつらう。とんだお笑い種だ。
けれども最初は「なんなんだこいつは」と警戒していたエースが台頭し、パイロットだけでなく俺含めて中核を担っていると知った時。初めてエースの、それこそ末端の部分であろうが、理解ができた。こいつは化け続ける。ある意味で化け物と変わらないでもあるが、そんなことはどうでもいい。そうであったとしても、信頼できた。その信頼に基づいて心を委ねてみると、どれだけ苦戦を強いられるであろう戦いも勝てる気がして、そして心地よかったのだ。
エースが隣にいるだけで、失いかけていた自信が戻りつつあった。
「………ごめん。ハーモン、コウ。ふたりは別に、弱いわけじゃない。ただ、エー先輩の隣を………ちょっとだけ、独占していたかっただけなんだ」
「ああ。わかるぜ、それ。俺もそんなところだ。そのせいで不愉快にさせちまった。悪かった」
「俺も謝罪する。エー先輩に言われたことを少しも守っていなかった。俺の悪い癖が出た。直すことを努力すると約束する」
ほう。と感心した。
パイロットのなかでも特に我が強く、自尊して周りが見えなくなる傾向にあったデクスターとギグスが素直に謝罪するとは思わなかった。レビンスもちゃんと思ったことを言えている。そして思いは同じであったのだと知り、微笑まで浮かべていた。
レイシア曰く、男とは本来単純な生き物らしいが、本当にそのとおりなのだろう。そして俺もそのひとりと。
だだ問題の3人はといえば、だ。
絶対に譲らなさそうだし、またもや銃口を、無ければ拳まで向けようとするのではないかと考えた矢先。
「………そっか。ふたりとも同じだったんだ」
「ヒナには先を越されたけど、まぁそこは長い付き合いだったってことで我慢するしかないか」
「けれども。この戦いは終わったわけじゃないじゃなぁい?」
ワルステッドとダルシャナが、せっかく謝罪をする空気を作ったというのに、エフナールが壊そうとする。
見ていられなくなり、声をかけようとするも───なぜか3人は、同時に首肯したのだ。
「なら勝負だね。負けないけど」
「私だって負けない。絶対に勝つ」
「じゃ、誰が一番なのか………エー先輩に決めてもらいましょうかぁ! というわけでシドウ隊長。私たちはこれで失礼するわぁ」
ユリンを先頭に、女たちはハンガーを去る。
あまりのことに俺たちは無言でいた。止める暇もなかった。
『………なんで………なんで止めてくれないんですかシドウ隊長! え、まさか俺を殺したいと!? 本当の敵ってシドウ隊長だったんですか!?』
「ち、違うっ! なにを言っているんだ貴様はぁ!」
『だってそうでしょ!? ヒナたちを止めないってことは、あいつら今からここに来るってことですよね? え、どうしろと? あいつらの怖さシドウ隊長だって知ってるでしょ? グラディオスで逃げ場なんてあると思います? せめて足止めくらいしてくださいよ! クソッ………あ、頭が………急に運動すると頭痛がするったらもう………』
エースは逃げようとしていたが、どこまで、いやいつまで逃げられるのだろうか。
仕方ない。と俺はレビンスたちを連れて、エースの救出作戦を決行するのだった。
本当に、ともにいて飽きないやつだな。エース・ノギとは。
『うわ来たぁあ! 足早すぎ………あっ、あいつら着替えずに走ってるのかよチクショォオオオ!』
とりあえず、エースには強く生きてほしいと願っておくか。
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