撃てよクソ野郎B10
「レイシア」
『却下』
「助けてくれ」
『それは私の仕事じゃないでしょ? エースくんに頼みなよ』
「奴がいつまで経っても来ない! メディカルルームにもいないというではないか! いつものようにミーティングに音声のみの参加をする気配もない! 奴がいない状態で、どうやってこの連中を御せというんだ!?」
『安心していいよ。エースくんは自室にいるみたい。そこからリモートで出撃するんじゃない? そんな情けない声出すと、ソータくんたちが不安がるよ?』
「しかし………もう、俺の手には負えん!」
『ハァ。仕方ないなぁ。………ちょっと待ってて。こっちからエースくんに連絡取ってみるから』
「っ………頼む」
ハンガーの一角で、シドウはついにレイシアに泣きついた。
情けない声という自覚はある。整備士の往来が少ない場所に移動してまで、レイシアに救援要請をするほどだ。こんなことは初めてだった。
すべて、ミチザネ小隊の中核を担っていた、中心的で、いつも身勝手をして、呼んでもいないのにミーティングにリモート参加するようなお節介に足がついて動いているような男がいないせいだ。
『連絡取ったよ』
「返答は?」
『今はあいつらに会いたくない。だそうだよ?』
「馬鹿な………じゃあ、なにか? 今度はあいつらがエースをそこまで怒らせたというのか!?」
シドウの背筋に氷塊が滑り落ちたような悪寒が走る。
初めてのケースが更新されてばかりだ。
『それってほら、例の噂の件じゃない? シドウもしっかりしないとダメだよ?』
「今、痛感している………」
『作戦概要はハルモニを通して知ってるみたいだし、ガンビッドでも出撃はするみたい。副隊長の任まで放棄はしないから安心してください。だってさ。シドウの方でも、原因を解明して、誤解を解くように動くべきだね。私も協力するから。ほら、今は戦闘でしょ。頑張ってね。お茶淹れて待ってるから』
もはや、仕事に行きたくないと渋る夫を宥める妻の様相である。
シドウは舌打ちしたあと、ハンガーで整列し、しかしいつもみたく雑談をしようとしない、特に3人の女子を厄介そうにしながら、丹田に力を込めて歩み寄る。
「戦闘前に貴様らに問う。………いや、お前ら本当にエースになにをした? 奴がここまで露骨にミーティングをボイコットするなど異常だぞ!? よし、全員目を閉じろ。短時間で済ませる。エースを怒らせたと自覚を持っている者は挙手せよ………おい! 俺は挙手しろと命じたはずだ! 悪いと思っている奴を指差すんじゃない!」
男子たちは特に動かないのだが、女子たちの反応は早い。目を閉じず、互いを指差しているのだから。綺麗なトライアングルが完成していた。
「ハァ………とにかく、あとで必ず、必ずっ! エースに謝罪しに行くように。おい。目を逸らすな。メンタルがやられたエースがどんな暴挙に出たのか、その前科の数々を忘れたわけではあるまいな!? ったく………戦闘には参加すると言っている。作戦行動中の私語は控えるべきなのだが、今回は特例で許す。接触する機会があれば、謝れ。とにかく謝れ。聞いているのかワルステッドォッ!」
「………サー」
「ああ、もうっ………なんでエースがいないと、お前たちはこう………著しくポンコツになるんだ!?」
シドウの苦労は絶えない。
父親であるカイドウは、息子が悩み足掻きながら部下を説教する様を、どこか愉快げに見ていた。
「………で? 実際のところ、どうなんだ? エース」
『冤罪ですよ。暴走した女子がやらかしたせいで、俺はグラディオスの恥晒しになってます。部屋に引きこもったままでいたいくらいです』
「そりゃいいや。お前が大人しくしてくれりゃ、こっちの手が省けるってもんだぜ」
『………おやっさん? 豚さん同士のキス映像を、延々と見続けたいですか? 今の俺ならおやっさんの端末にウィルスを仕掛けることも容易なんですよ?』
「残念だったな。こっちにゃ上位互換のハルモニがいる。お前が作ったウィルスなんぞ弾くぜ。………俺も脅迫するたぁ、さてはお前、かなり重症だな?」
『ははは。まともなメンタルって、なんなんですかね?』
「マジでヤベェかもな………」
アイリのドローンカメラに合わせて、エースのガンビッドの射出作業をしていたカイドウも、先程のシドウと同じ悪寒を背筋に走らせたのだった。
この状態に陥ったエースがなにを仕出かすかまったく予想ができない。
ゆえに整備士たちは一丸となり、エースのメンタルを削らないよう、カイドウがパワハラをすれば謝らせたり、全員で慰めていた。
それがたった一晩でパイロットたちの暴走で水の泡となりそうになる。内心ではいつエースが暴走するのかとハラハラしていた。
「おいエース。自暴自棄になんなよ? 頼むから。俺にできるこたぁ………なんだ? 整備士見習いのガキどもに釘刺すくらいしかできないが、これ以上の被害が出ないようにしてやるから。お前、脳内チップがある分、見えないところで動いてそうだから怖いんだよ」
カイドウは切実な願いとして懇願した。そうするしかなかった。
整備士だけでなく、艦内に口の端にのぼる「赤ちゃんプレイ風オイルエステ」なる意味不明かつ根拠のない猥雑に、エースが懊悩していることは察しているし同情もしている。どうせヒナ辺りが暴走したのだろうとは思っていた。
エースはそれだけの信頼を勝ち取った。決して空疎な男ではないことを知っている。
『残念ながらリクエストにお応えするだけの改造プランはひとつもありませんね』
「なにが残念だコラ。お前、まーだ飽き足らずどこかいじろうってのかよ!」
『はは。必要があれば』
ヘルメットのなかで、猪首をより縮めるカイドウ。
その様をカメラ越しで見ていたエースは、ガンビッドとの4機同時接続を開始する。発進シークエンスに移行。ガンビッド4期が互いに接続された状態でカタパルトまで移動する。
『おやっさん。昨日のうちに提出したレポート、読んでくれました?』
「ああ。ざっとだが目を通した。………マジなのかよお前」
『マジです。あのレポートを採用してくれるなら、全機関節周りの改修をしなければなりませんが、きっと時間はできます。まだ間に合いますよ。それからタキオンにも同様の改修を。………アリスランドとガチでやるその前までに』
「いくら胸糞悪い連中たって、同軍同士でやり合おうだなんてなぁ………いや、ビーツの野郎が横槍入れてくるなら、考えられなくもねぇのか」
『はい。必ずどこかで仕掛けてきます。………よし。アイリが出た。俺も行きます』
「おう。まぁ、気張れや」
カイドウがガンビッドから離れる。隔壁の向こうにあるカタパルトに搭載され、ガンビッドは宇宙空間に射出された。
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