撃てよクソ野郎B09
「それなら私が行くよ。前もよく行ってたし、エー先輩の大好物も知ってるし」
ヒナがシェリーの独り言に割り込むように答えた。
シェリーは数回またたいて、黙考。
ユリンはふたりを数回見比べて、すべてを理解。
アイリは見るまでもなく理解。退避を開始。
「ちょっ………ちょっとアイリ! 押さないで!」
「男の子でしょ? たまには男の子らしいところを見せてほしいな」
「い、嫌だ! あんなおっかない子たちの殺伐とするだろう会話のなかに入りたくない!」
クスドは以前から他人の顔色を伺い、取り入る技術に秀でていた。よってこれから始まるであろう骨肉の戦いに瞬時にエマージェンシーを発動。アイリと同時にゆっくりと数歩だけ退がるのだが、ふたり同時では露骨すぎて不自然だ。いざとなったらアイリはクスドを盾にすべく、前に押し込みながら逃げる。
けれども幸いなことに、3人はアイリとクスドなど眼中になかった。逃げようがどうでもよかった。
ヒナとシェリーの間で見えない火花が散る。ユリンはいつものように面白半分で参加しているようで、実は蠱惑な笑みの裏では並大抵ならぬ感情を抱えていた。
まさに三つ巴の戦い。駆け引きがすべてを左右する。一瞬でも油断は許されない。
「………私だって好きなものくらい、知ってるし」
「けど大勢で押しかけたら迷惑だよ。メディカルルームだって広いわけじゃないんだから」
「じゃあ、代表で誰かひとりがあとでお見舞いに行く………ということでいいんじゃなぁい?」
またもやバチバチと火花が散る。
押しては引く。引いたら押す。果てのない泥試合。脱する方法は、勝者1名が決まるかどうか。
「エー先輩はジャンクフードが好きだって言ってたし、あとでなにか買って作ってあげようかしらねぇ」
先手を打ったのは、珍しくもユリンだった。
彼女はどちらかと言えば、他人の喧嘩であっても燃料を撒き散らす。煽るのが天才的にうまかった。しかし今のそれは、明らかにヒナとシェリーへの牽制だった。「私だって好物くらい知っている。お前たちだけが一番というわけではない」という意味合いだ。
「怪我人に食べさせられるものじゃないじゃん。ここはちゃんと消化にいいものを作ってもって行かないと」
意外なことにシェリーは料理ができる。
ちなみに彼女たちの部屋には調理器具がない。そうなると炊事兵に許可を取らなければならないのだが、
「キッチンを使わせてもらえると思えないし、食材だって自由に使えるとは思えないんだけどなぁ」
控えめな苦笑をするヒナ。
彼女に反論することができず、シェリーはしばらく考えたのだが、結局代案は出なかった。
「じゃあヒナは、なにを持っていくつもりなのぉ? 食事以外でエー先輩の大好きなものってあったかしら?」
ユリンが尋ねる。
するとヒナは、至って当然という表情をして胸を張る。
「簡単だよ。おっぱい」
最強であった。
パイロットスーツ越しでもわかる輪郭。
ヒナはどうしてもシェリーとユリンと比べると身長が低いが、胸だけに関しては誰も寄せ付けない戦力を有していたのだ。
シェリーは真顔で、ユリンは口だけで笑い、ペタペタと自分の胸を撫でてみる。それなりにサイズはあったが、しかしヒナのと比べると、その差はなにをしようが覆せる自信はなかった。
同時に、ヒナはたったひとつだけ、結果としては間違えてしまう。
ライバルたちとの差を明確化するためとはいえ、身切りをするならともかく、被害は拡散してしまったのだ。主にここにいないエースへ。周囲にはかつての同級生がいたのに堂々と叫んでしまった。
ザワ、ザワザワッ………と空気が鳴る。誰かの囁く声だった。それが複数、そこらで聞こえるようになる。
「エー先輩はオイルエステが大好物だよ。私のおっぱいを近づけたら、赤ちゃんみたいに喜ぶの」
「ま、まさか………赤ちゃんプレイ………っ!?」
「ひとは見かけによらないのねぇ………え、ていうかオイルエステで赤ちゃんプレイって、どういうことぉ?」
エースの印象被害がより最悪なものとなっていく。本人が不在ということもあり、歯止めが効かなくなる。
「エース先輩は赤ちゃんプレイでオイルエステをさせる変態なんだ………」
「信じられない………」
「お、おい嘘だろ。あのふたりってそういう関係だったのか?」
「マジかよワルステッドォ………!」
「俺ガチでヒナのこと狙ってたのに」
「エース先輩って鬼畜なのね」
「いくら後輩だからって、そんなことさせるひとじゃないって思ってたのに」
「ヤバすぎだろエース先輩………」
ヒナの盛大なカミングアウトのせいで、予備パイロットたちに「エースは鬼畜である」という印象を与えてしまう。
なんとか予備パイロットたちの輪に紛れたアイリとクスドは、一応元凶がレイシアだと知っているのだが、予備パイロットたちはレイシアが純粋で清廉な白衣の天使であると妄想をしているため、言っても信じないだろうと諦めていた。
翌日、午後に解放された俺は食堂に向かうのだけど、途中で出会った何人かにヒソヒソとされた。
食堂に入ると予備パイロットたちがいて、汚物を見るような目を向けてくれやがる。話しかけてもろくな反応はない。
昨日、かなりショッキングな光景を見せてしまったせいかな。と反省したが、廊下ですれ違った整備士見習いの同級生らが、ニヤニヤしながら声をかけてきたことで、真相を知ることになる。
「おい、おいエース。エース。お前、見かけによらず、案外特殊な性癖してるんだなぁ」
「は? 特殊な性癖って………別にそんなアブノーマルな趣味はしてないつもりだけど?」
「またまたぁ、昨日の夜、予備パイロットたちが噂してたの聞いたんだよ。お前、ワルステッドにオイルエステさせて、そこから赤ちゃんプレイまで興じたんだって? やるねぇ。あのデカい胸に甘えたくなっちまったか」
「………は?」
「なんか、ワルステッドが叫んでたらしいぜ? ハンガーじゃその話題でもちきりよ。で? 実際どうだったよ? ワルステッドをいただいたんだろ? 抱き心地とかさ、教えてくれよ。へへ………」
下卑た笑い方をしてくれる、不愉快な野郎だ。
決して嫌な奴ではないのだが、そういう出会いも機会もないのでは、健全な精神をしている男子たちは下ネタに飢えて仕方ないのだろう。
けれど、これは冤罪だ。
俺のなかでプツーンと、なにかが切れた。
「知りたいか?」
「うんうん! じゃあ、ワルステッドの胸ってどんくらいのサイズなん? キスはしたか? もう当然ヤッてるんjだろ?」
「端末に詳細を送るよ。………楽しんでくれや」
「うへへぇ。お前も悪い奴だねぇ。ま、悪いようにはしねぇよ。横流しとかはしねぇ………なんだこりゃぁあああああああああ!?」
腕の端末を開いた男の悲鳴が炸裂する。問われる前に逃げた。
どうせ、俺が行為中の撮影なんかをしてたとか、勝手な妄想をしていたのだろうな。
事実無根。名誉毀損。よって罰を与えた。
脳内チップで豚と豚の激しい絡み合い、もといキッスの映像を作成。無限ループするよう設定。ウィルスがごとく送信。開いた途端に大量の増殖をさせる。「ムギー! ピギー!」と豚の鳴き声が大音量で流れ続け、見たくもない映像を強制的に開かせ続ける。
ひとつのタブを消せば、ふたつ増える仕組みにもしておいた。これが無限ループ。男は盛大に慌て、通りかかった大人たちに不審がられる。いい気味だ。けれど端末を壊してはいない。5分後に停止させるよう設定しておいた。あれ? 10分後だっけ? どっちでもいいか。
それよりも今はやることが───
「ふ、はは………ははは………ついに俺の都合も考えずに来やがったかクソッタレアンノウンどもめ!」
毎度毎度、飽きずにこうなるんだからな。
ヒナを強制召喚しようとすると、艦内にアンノウンの存在を検知したレッドアラートが鳴り響き、俺は壊れたように笑い続けた。
ブクマ、リアクションありがとうございます!
ここで一部、訂正させていただきます。
これまでドックと書いていたガリウスの格納庫兼製造ラインですが、ハンガーが正しい表現だったようで。以後、ハンガーと記載するとともに、これまで書いてきた………もう何話あるかも思い出すだけで怖いのですが、すべてに目を通してハンガーとするよう修正していきます………
誤字報告ありがとうございます。大変ありがたいです。そして、もし機会がありましたならば、ドックなのにドッグと書いてしまっている部分を発見したら「ハンガー」と報告していただけると大変ありがたいです。
そして、この作品を投稿してから約1ヶ月半が経過しましたが、なんと10万PVを突破しておりました!
ありがとうございます! これからもより精進していく所存です!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!




