撃てよクソ野郎B08
シミュレーションによる仮想空間での模擬戦は1時間で終わった。
いや、1時間もかかった。予想以上にパイロットたちがしぶとかった。何回落としても這い上がる。ゾンビみたく。
途中から楽しさとかが消えて、俺も真剣に取り組んだ。そうする必要があった。
ソータがまた実力を上げた。覚醒の予兆をシミュレーションでも出すなんて、とても器用な奴だと感心する一方、なんとユリンにも同じ反応があったのだ。
ソータとユリンを中心に襲い掛かる6機。これまでは全員が敵という条件で喧嘩させたが、俺という共通の相手が出現した途端、無言で連携を取り始めるんだもんな。喧嘩をするほど仲がいいって、あのことなのかもしれない。
1時間が経過して、体力も精神力も半減したところで、シミュレーションは強制終了することになる。
実行したのはクスドではない。駆けつけたレイシアとカイドウだった。
「こ、ここっ、この大馬鹿野郎がぁああっ!!」
「はーい、お馬鹿さん。上向いてねぇ。カプセルを血だらけにしちゃってまぁ、ほーんと馬鹿だねぇ。死にたいのかなー?」
相変わらず辛辣だった。
けど、意識を体に戻してみると自分の様相に対して、カイドウとレイシアがここまで怒る理由がわかった。
「う、わ………」
なんだこりゃあ! と叫べるものなら叫んでみたかった。
けれど肉体に意識が戻ってとはいえ、倦怠感と全身麻酔に侵されたような具合では、うまく声を出すことができない。
騒ぎを聞きつけたソータたちがカプセルから出て息を呑む。
真っ白だったノーマルスーツが鼻血で赤く染まっていて、ヒナたちは過剰な反応を示した。
「ハルモニに感謝するんだな。ヘルメットのバイザーを外さなきゃ、お前は鼻血で溺れ死んでたところだぜ」
『え、マジですか。けどこんなに体に負担がかかるなんて』
声が出せない代わりに、右腕の端末を介して機械音声で応答する。
「インターフェースもできてねぇのに、脳内チップだけで機体を制御するなんざ、まともな奴の所業じゃねぇんだよ! ったく………ハルモニがバイタル状態を俺とレイシアに送ってなきゃ、死んでたぜ。お前。あんだけ無茶するんじゃねぇって言われてただろうが!」
『………すみません』
「ったく、お前の無茶は今に始まったことじゃねぇけどよぉ。何回寿命縮ませれば気が済むんだぁ? ええ? おい。まともじゃねぇよお前」
まともじゃない、か。
そりゃ、そうかもしれないかな。
こうして機械に頼らなきゃ、もうガリウスに乗れないし、日常生活にも支障が出るレベルだ。
俺はハーモンとコウに助け起こされ、鼻血を流しながら担がれる。ヒナたちが今にも駆け寄ろうとしていたが、レイシアが止めた。
『全員に言っておく。俺とペアを組みたければ、さっきのタキオンを上回ってみな。ちなみに今日の装備は最低限で、本来ならオプションパーツも付く。仮想の敵としてシミュレーションに上げておくから、挑戦してみな?』
腕の端末からソータらを挑発する。
「しかし、エー先輩が毎度こうなるようでは、パイロットなどできるはずがないだろう」
コウが言う。
『それは違うね。インターフェースさえ装着すれば、俺だってちゃんと戦えるさ。今回は脳内チップ頼りだったからキャパオーバーしたんだよ』
「馬鹿野郎が。実際にインターフェースつけて実機に搭乗したとしても、こんなヒョロガリがタキオンのGに耐えられるか。鍛えてから生意気ほざけやクソガキ」
カイドウのド正論パンチ。効果は抜群。
実際には問題は山積みだ。インターフェースがあればタキオンに乗れて、脳内チップは補助として活用するから、さっきより長く戦える。けれど俺の筋肉は衰えまくっているから、本気を出せばただでは済まない。
体力、筋力、精神力が最終的にものを言う仕事だ。これまでのように精神力でねじ伏せるようなスタンスではいられない。
メディカルルームに連行され、回復処置を受ける。レイシアとカイドウの説教付き。しまいには「下手すりゃ脳内チップがイカれて、2個目ぶち込むことになるぞ」と脅された。
エースが去った数分後。途中で待機していたストレッチャーに乗せたところで仕事を終えたハーモンとコウが帰ってきた。そしてソータとともに、無言でシミュレーションを続行。今度は個人戦だ。あんな挑発を受けたのでは、パイロットとしてのプライドが許さない。まずは素体のままのタキオンを上回るべく、努力することにしたのだ。
しかし女子勢は体力が続かず、その場での適当な休憩をしてからシミュレーションに挑むことになった。
クスドがドリンクを運んで差し出す。予備パイロットの立場ではあるが、エースの言いつけを守るクスドは、参謀を志し、彼女らのマネジメントに徹することにしたのだ。
「………クスド」
「なに? シェリー」
「あんた、どこまでエー先輩のこと知ってるの?」
ドリンクで体内の冷却を済ませたシェリーは、眼力が復活し、鋭い双眸でクスドを見上げた。
「みんなと同じくらいだと思う。エー先輩、あれで自分のことは多くを語らないからね。だから自分で予想するしかないよ」
「ふーん。じゃあ、さっきの鼻血のことも?」
「脳内チップを多用することで、体が過負荷に耐えられなかったんだ。前にもそういうことがあった。………それだけタキオンっていう機体と、エー先輩がすごいってことだ。みんな1時間もよく耐えたじゃないか」
クスドは見ていることしかできなかった。されども、見ているだけでも多くを学べた。
「でも、無限回復と弾数無限じゃね………私は18回落とされた」
「私は11回。ユリンちゃんは?」
「6回よぉ」
特殊な頭脳と特殊な機体が組み合わさった時、全員が体験したことのない敗北を実感することになった。
ただ、誰も間違えてはいない。撃墜数が単純にパイロットとしての技能を表しているのではないことを。
シェリーは遠距離での狙撃を徹底しているゆえに回避が遅れる。いつもならアイリが接近を知らせてフォローするのだが、今回に限ってはアイリも敵だ。それも中途半端な操縦と予想できない乱射のせいで、後衛にいるシェリーがよく狙われる。集中が阻害された瞬間に、エースのヘビィガンで落とされた。
ヒナはオールラウンダーとして果敢にタキオンに挑んだものの、どうしても及ばなかった。
ユリンはパピヨンジャケットを装着している分、ふたりより性能が増した。ただ、弱点を補うことができず落とされた。
普通ではない。アークが駆るタキオンを目撃した時も震撼したが、エースのタキオンも同様だった。侮ったのが失敗だった。すべてが崩れ落ちたのだ。
ゆえに男子たちは崩れ落ちたものを補修せんと躍起にシミュレーションに励んでいる。
しかし、それと比較して、女子たちの心境はどうか。
側から見ていたアイリは、ヒナたち3人の様子がおかしいことにすぐ気付いた。
「あとでお見舞い、行こうかな」
発端となったのはシェリーのこの一言である。
それが新たな戦いの幕を開けたのだ。
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