撃てよクソ野郎B02
唖然としていたユリンに、ハーモンが脱いだ靴を投げた。いや、対面側にいたコウに投げたのだが、コウはシドウごと横に避け、豪速球みたいな速度で迫るそれの射線上にユリンがいた。右手は届かない。ゆえに俺はユリンを庇って顔面で受けた。
珍しくユリンが叫ぶ。
俺の名を聞いた全員がピタッと停止し振り返る。
俺はゾッとしたね。怖くないって言ったの、取り消す。訂正する。
ユリンが豹変した。会敵時は不敵な笑みしか浮かべていなかったのに、顔を真っ赤にして激昂している。
「あなたたち………エー先輩にこんなことして、ただで済むと思っているんじゃないでしょうねぇ?」
ブチギレたユリンは、確かに俺を愛称の方で呼んでくれた。
でも喜んでいる場合ではない。
俺が止める間もなく、スルリと横を抜けたユリンが、拘束されている5人に襲い掛かった。
「この、どうしようもない肉達磨め」
「は、離せおっさん! 迎撃間に合わ、げぇええええええっ!?」
唖然としていたアーレスの肥大化した筋肉を前に、そこまで大きく動けないハーモンは磔も同然だ。辛うじて靴を脱いで投げることはできたが、俊敏性に富んだユリンの回避は間に合わず、抜き手を鳩尾に食らって痙攣して落ちた。
「次。筋肉達磨その2」
「ま、待て。靴を投げたのはハーモンだブゥエッ!?」
「連帯責任よぉ」
シドウの回避が間に合わず、無重力区画にいるような軽やかな跳躍と回転から成す回転脚。しかもつま先ではなく踵で。ハンマーで顔を横殴りにしたようなものだ。下手したら死ぬ。
「次。吊り目と無気力とふわふわ。誰から死にたいのぉ?」
「や、やめろユリン! 誰も殺すんじゃない!」
「止めないでエー先輩。エー先輩が怒らないから、私が怒ってあげてるんじゃない。私の拳と蹴りは、謂わばエー先輩の拳と蹴りだわぁ」
「俺は暴力はやめろっていつも言ってんだろうが!」
「関係ないわぁ」
ヤベェな。ユリンの凶悪な方の面が表に出ている。こうなったら片手しかない俺だけじゃ止められない。
思い切ってダイブしてみた。スルーされる。けど、無力化したハーモンを部下に軽々とパスしたアーレスが間に合って、ユリンの腕を掴んだ。
「や、やめるんだ! 仲間割れはよくない!」
「離してくださる? アーレスさん。それともあなたも沈む? また部下の前で床とキスさせて差し上げましょうか?」
「わ、わかった。私を殴りたまえ。それで気が済むなら───」
「いや殴っちゃダメでしょう!? 正気になってくださいアーレスさん! シドウ隊長! ユリンの足を掴んで拘束してください!」
アーレスめ。すっかり躾られやがって。
俺がレイライトブラスターの事件後、覚醒してから謝罪に訪れた際、アーレスとカイドウは傷だらけだった。そういう約束をしていたとレイシアも言っていた。クランドは筋を通したと言っていた。
なにがあったのか、見なくてもわかる。
俺をリンチしたカイドウとアーレスを、ハーモンとコウとユリンがボコボコにしたのだ。部下の見ている前で、俺がそうされたように、ふたりの公約のもと刑を執行した。
しかし筋骨隆々にして、無防備だったとはいえヒグマみたいな体躯をしているアーレスを倒すとは。やはりユリンは恐ろしいな。怖すぎる。ペンタリブルでビーツと邂逅した時、アークを倒そうとする前に止められてよかった。あのままじゃアークはユリンによって殺されていたかもしれない。原作ではアリスランドでどこか通じ合っていたのに、殺し合うのは忍びない。
で、再びアーレスを殴り倒そうとするユリンの腰に抱きつき、シドウに足を掴ませ、叱咤によって目を覚ましたアーレスが腕を押さえ込んで、やっとユリンが停止した。男3人でホールドしないと止められないとか、この女ヤバすぎる。
横を見た。白目を剥いているハーモンとコウ。反対側には挑発を受けてキレているシェリー。無表情のソータとヒナ。
5人の乱闘でも面倒だったのに、6人に増えた。
こりゃあ面倒だ。
実は、前もってこの話で誰かが喧嘩をするだろうとは予想していた。
原作ではハーモンがソータを挑発して、ストレスとマインドコントロールで我慢できなくなったソータが、泣きながら一方的にハーモンを殴り倒すのだ。ハーモンも途中から応戦して、殴り合いの喧嘩に勃発。
それで、
「これはなんの騒ぎだ!?」
騒ぎを聞きつけたクランドが、レイシアとともに登場と。これは原作どおり。
でも今回は原作破壊行為のツケとして、パイロット全員だよ。6人の乱闘。ひとりは終盤からだけど、その暴れようから厳罰は免れない。
「見てのとおり、エキサイトしたガキどもの喧嘩だ。俺らもよくやったじゃねぇか」
「茶化すなカイドウ。艦内での私闘は禁じられているのは承知の上だろう。例え子供であっても、軍人であるからには規律を重んじ、従わなければならない! ハーモン・デクスターとコウ・ギグスを起こせ! 私自ら軍人のなんたるかを教導する! シドウ少尉、エース副隊長、アイリ・ナカダも連帯責任だ。この問題を起こした者全員、艦長室まで出頭せよッ!」
あーあ。と俺は項垂れる。
誰かと誰かが喧嘩すれば、副隊長として管理不行き届きの罰を頂戴し、説教会にも参加するつもりだったけどさ。
誰かと誰かじゃなくて、6人全員だもんなぁ。説教も長くなりそう。疲れるだろうなぁ。
《ハルモニ。クスドにメッセージ送信。面倒なことになった。パイロット6人が喧嘩。乱闘。怪我人は出たけど重傷者はいない。どうせ艦長にパイロットたちを聴取しろとか言われるんだから、協力してくれ。って》
《イェス。メカニック・エース》
げんなりしながら罪人の列に並ぶ。顔をビンタされたり、肩を後ろに背中を押されて覚醒したハーモンとコウは互いを睨みながら列に参加する。
すると………ああ。面倒なのがひとり。
「ついに貴様も降格の時かな? あの時銃殺刑になっておけば楽だったのになぁ。ゴキブ───ハニャッ!?」
ハニャッって………マジで言う奴いたんだな。
クランドと参上したデーテルも馬鹿だねぇ。いくら俺の立場が危うくなったところで、デーテル自身が優位に立っているわけではないし、ここには天敵もいる。そう、アーレスだ。
「が、んが、ひ」
「ご機嫌ようデーテル副艦長。少しお仕事のことでご相談が。砲雷科までお越しくださいますね? なに、ご足労はおかけしません。このままお運びしますゆえ」
「ひ、にゃ、ぎ」
「賛同いただきありがとうございます」
アーレスに片手で頭を掴まれたデーテルは、プラーンと吊り下げられる。そしてそのまま、砲雷科まで連れ去られた。冬眠に必要なエネルギーを蓄えるために巣に持ち帰る熊みたいだ。
4回目です!
ここまではいいんです。次辺りが勝負です。
次回は15時に更新します! 皆様、どうか私に力を!
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