撃てよクソ野郎A10
「みんな、私を見てこう言うんです。ユリンはお嬢様みたいだって。そりゃあ、私だって女の端くれとして、身だしなみに気をつけていますし。口調は癖というか、個性というか。いつの間にかこんな感じになってました」
「そういえば、俺が初めてユリンと話をした時も、そんな感じに思ってたよ。上級生に絡まれてたな」
「あら。覚えててくださったの? 嬉しい」
ニタァと笑うユリン。とても怖い。背筋がゾッとする。ヒナやシェリーとはまた違う迫力があるからな。
「けど私、お嬢様どころか………結構貧乏です」
「え?」
「両親は他界してます。一人暮らしなんです。エース先輩と同じですね」
「そう、だったのか」
誰も頼れるひとがいなくて、この気品ある佇まいと美貌を保てていたのか。ユリンは努力家ということだ。学生時代は制服にまったく乱れがなかったし。
「様々な支援制度を利用したから、バイトをせずに済みました。常に成績を上位にすることで学費免除の枠を勝ち取る努力もしましたし」
操縦技術がトップクラスなのは、ソータとヒナと違って、努力で勝ち取った。すごい執念だ。その上で座学もトップだったもんな。
「2週間に1回、思い切り食べるジャンクフードパーティがささやかなご褒美でした。安くて量があっておいしい。とてもお得でした」
「はは。それは俺も同じだ」
エース・ノギも支援制度を使っていたが、成績はトップではなかった。どうしてもバイトをする必要があった。
そう思うと、前世はバイトをしたが両親の仕送りに頼っていたと思い出し、どこか恥ずかしくなる。
「やがては連合軍に入る予定でした。勉強しながらお給料をもらえるってお得ですよね。免許なんてタダで取れますし。教官がハラスメントだらけだったら………地獄に落とすつもりでしたけどねぇ」
おっと………最後のはよろしくない。ユリン・エフナールという怪物が、チラリと顔を覗かせた。本当に地獄に叩き落とす目をしていた。怖い怖い。
「実際、サフラビオロスを脱して、グラディオスに保護されて、志願して。手間が省けました。お陰で最新鋭機のパイロット。お給料なんて、考えていた以上ですもの。ペンタリブルでは学生時代に我慢していた買い物ができて、とても満足してます」
ペンタリブルのコロニーで食べ歩きをしていた際、ユリンは最後尾にいてよく見えなかったけど、実はハーモンと同じくらい食べていたのを思い出す。特にジャンクフードの類はひとつも欠かさなかったし、常にコーラが握られていた。短時間ではあったけど、ユリンも堪能していたのだろう。
「けど………最近、ちょっと………悩みが」
「悩み? 腹回り………あ、ごめん。なんでもないよ。続けてどうぞ?」
「これでも体型維持には気を付けているんです。ほら、余計なお肉なんてないでしょう?」
「ちょっ!?」
怪女のお戯れが発動する。
なにを考えたか、ペロンと上着をインナーシャツごと捲って素肌を晒すユリン。
さすがに胸元まではいかなかったが、そこには無駄のない引き締まった腹があった。鍛えられ、細くも強靭な筋肉。なるほど。このしなやかさがハーモンやコウであっても勝てない理由───じゃない! なに呑気に見ているんだ俺は。
ユリンは捕食者の表情から、少しだけ少女らしい顔をして、目を逸らして腹を晒すので、急ぎ手を掴んで服を離させる。しかし無重力区画だ。ピラピラと裾が踊って、隙間から白い肌が見えてしまう。
「あ、あのなユリン。女の子が安易に野郎なんかに肌を見せちゃいけません」
「エース先輩が疑うからでしょう?」
「ああ、そうだな。悪かったって。………それで、悩みがあるんだろ? 聞くから。もう邪魔しないから。早速腹を見せようとするんじゃないよっ!」
「んふふ。可愛い先輩だこと」
こいつぅっ。こっちが似非紳士ぶってるのをいいことに、やりたい放題だ。
一回クールダウンしよう。少しだけユリンと離れたくて、宇宙空間が一望できる巨大なガラスの前まで跳躍する。すると怪女はニタニタしながら追いかけてきた。
「ひとつだけ、私の内面について悩みがあります」
「内面、ね」
ガラスに手を突いて勢いを止める。ユリンもそうして、隣に並んだ。
「最近、それをはっきりと自覚したんです。小さい頃からその症状はあったんですけど、最近は特に酷くて。………私、強い男のひとが好きなんだと思います。でも、そのひとが………ええと、なんて言うか。逆境のなかにいて、それを跳ね除けようと努力するのが、もっと好きで………引かないでくださいね?」
「う、うん。わかった」
………わかってる。正直、この悩みを打ち明けられてよかったとも思えるし、よくないとも思える。
ユリンのなかで成長する怪女の一面のこと以外の悩みだったら、適当に聞いて、適当な答えを出してしまったかもしれない。でも逆に、俺はこの問題に対する模範解答を知らない。
本編で、ユリンは───裏切ることになる。
俺が何度もユリンをヤベェ女だと称したのはこれが理由だ。アリスランド側についてしまう。ソータをさらに追い詰めるために。そしてアイリと戦い、本音をぶちまける。その果てにアイリに負ける。生きているのか死んでいるのかはわからない。ユリンは大破した二号機ごと海に沈んでしまった。
アイリの答えをそのまま述べるわけにはいかない。それはアイリの言葉で、答えだ。俺の言葉ではない解答など、到底彼女に届くはずがない。アイリに負けたユリンは悔しそうにしていたが、沈む間際に一瞬だけ晴れ晴れとした笑みを浮かべた。アイリの言葉が届いた証拠だ。なら俺も、俺なりの言葉を選ばなければならない。
「エース先輩以外に、この悩みを打ち明けたひとはいません。誰かに否定されるのが怖くて。私のなかにもうひとりの私がいて、男のひとを壊せって囁くのを………気のせいだなんて言われるのが、嫌で」
切実な悩みだ。
ユリンはレイシアのカウンセリングに参加したことがある。しかし、彼女が言うようにレイシアにこの悩みを打ち明けておらず、クラウドのファイルに随時更新される結果には一度も載っていなかった。
「信じるよ。二重人格ってわけじゃなくて、今のユリンも、囁きかけるユリンも同じ。両方自分。そういうことだな?」
「………はい。でも我慢はできるんです。すごく苛々するけど、戦闘で解消したり、あとは最近でいえば、あのアークという子と戦った時、勝てると確信した時はスッキリして………でもこのままじゃいけない。完全に制御できるようになりたい。私、強くなりたいんです」
………そうか。
だから操縦技術で勝てないソータを、別の方法で追い詰めて、自分が優位に立とうとしたのか。
グラディオスを裏切ってアリスランドの側についたのも同じ理由かもしれない。
「わかった。その制御方法を一緒に探そう。きっと見つかるよ」
ユリンに裏切ってほしくないからな。それに、こう真剣に頼まれたのでは、無碍にはできない。
ユリンの悩みを共に解決に向かわせることも、俺の推し活のひとつとも考えられる。
もうユリンは怖くない。ちゃんと人間で、悩める少女だった。
今日、この瞬間。ユリンも俺の推しの対象となり───ピピピッと腕の端末に着信が入る。
「あ、ごめんな。アイリからか。珍しい。………出ていいか?」
「どうぞ」
アイリから着信は珍しい。多分、音声通話であれば俺の部屋でソータと致したいという願望など告げないだろう。誰かに聞かれるかもしれないし。ならメッセージかなにかで伝えるはず。
残念に思いながら、アイリの通信に応答する。
「はい、こちらみんな大好きエース副隊長ですよ───」
『大変ですエー先輩っ! は、早く来てください! やめ、やめてソータ! みんなも!』
ブツンと通信が切られる。一方的だった。
切羽詰まるアイリの声。その他に聞こえるソータたちの怒号。
あー………嫌な予感がする。
2回目です!
PVの伸びが、半端ないことになっております! これはかつてないくらいの数字になるのではないかと期待しております!
現在のストックは2。あと4話を書かなければなりません! そして明日の更新の分も書かないといけません!
計、約2万文字! すごい………ことになりそうで、今さらですが焦っております。
ですのでどうか、皆様私に力をください! ブクマ、評価、リアクション、感想など思いつく限りのガソリンをください! 指の関節がカチコチになってきました! しかし応援さえあれば、そんなの関係なく書き連ねられることでしょう! 何卒宜しくお願いします!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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