撃てよクソ野郎A09
第9話「撃てよクソ野郎」は、暗雲に思考を支配されていたソータが、ある程度は回復し、ハーモンと和解する話しだ。
それでいて、相変わらずユリンの精神攻撃を兼ねたマインドコントロールも順調に進み、ソータが回復しているように見せかけて蝕んでいくのだ。
そんな洗脳と調教を行った元凶であるユリンが、俺の目の前にいる。
これで緊張するなと言う方が無理がある。
繰り返す原作破壊行為によってかユリンの洗脳はソータに向けられずに済んでいる。
今回、ユリンがソータに洗脳を仕掛けられていない原因は、なによりソータのメンタルがそこまで削られていないことが要因となるだろう。原作では弱って心の防壁が薄くなった部分を突かれて侵入を許してしまった。
比較すると現在のソータは、ひとりでいる時間が極端に短い。
ミチザネ隊として共に行動する人員が増え、連携を覚えると仲間意識が芽生え、誰かと会話をする機会も増える。隊だけではなく、整備士たちとも機体の整備具合の他に冗談を言い合っている。
なにより暇さえあれば、俺が入院している時は面会に来てくれた。アイリと共に。このアイリと共にというのが大きい。異性関係でこじれそうになったふたりだが、俺のお節介の押し売りみたいな梃入れの甲斐あって、いつも一緒なのだ。ゆえにユリンが入り込める余地がない。
そしてそれらの条件は、半分以上がユリンにも合致していた。ユリンもひとりで過ごす時間が少なく、ソータに構っている時間と余裕がない。
とてもいいことだ。
ユリンの狂愛がソータに矛先を向けることがない。
これでソータはもちろん、ユリンも歪むことはないと安心した途端、あろうことかユリンの矛先は俺に向いた───とはまだ判別ができないが、俺がひとりでいる時に出会ってしまった。ユリンは俺を待っている様子だった。
きっとなにかがある。と俺は密かに警戒する。
「少し………お時間いいかしら? エース先輩」
「ああ。いいよ」
「ではレクリエーションルームに行きましょう? あまり誰にも聞かれたくない内容なので」
「………わかった」
現時刻で考えれば、まだ昼飯前で、レクリエーションルームは解放されているが利用者は少ない。まだ大半が勤務している時間だ。パイロットはある程度スケジュールの自由幅が利くようで、ユリンは早めに休憩を取ったというところ。
今日のスケジュールを脳内で読み込む。実機演習は午後からで、午前は身体能力向上のため筋トレをしていたのか。
ハルモニにレクリエーションルームの使用人数を尋ねたところ、まだ利用者はいないという。構わずユリンと入る。一応、ヒナに勘違いされたくないし、レイシアにユリンとレクリエーションルームでカウンセリングっぽいことを開始するとメッセージを送っておいた。これが証拠になる………かはわからないけど、なにもしないよりかはマシだ。
「で、話って?」
「あら。少しお話ししません?」
「いいけど………そうだな。ユリン。なんか好きな食べ物とかあるか?」
「定番ですね。そうですねぇ………ヌードルが好きです。ハンバーガーと、フライドチキンとフライドポテト。ドリンクにはコークも欠かせません」
「お、おう。意外だな。随分とジャンキーな」
「あらそうですか? ………いえ。そうかもしれませんね。みんな、隠さずに私の好物を話すと、揃って珍しいって言うんですよ」
「うまいもんな。コークを欠かせないとは、わかってんなぁ。ジャンクフードのこってりした脂を洗い流す清涼感がたまらないよな」
「あら。同意してくれたひとは初めてです。まったくもってそのとおりですね。未だかつて、コークに合わない食事というのをしたことがないんですよ」
なんだか、すごい事実を知ってしまった気がした。
あの核弾頭みたいな破滅的狂愛主義者の食生活が、偏っていただなんて。いやそれは俺の偏見だ。きっと今まで、さっきの俺のように驚いた末、高級フレンチ料理が好きなのだろうと述べた奴も多そう。
けど辛うじて軌道修正して同意を示すのが、今の質問の解答に対する正解だったんだな。ユリンの笑顔が珍しく演技っぽさが抜けた。
「コーク以外も好きな炭酸飲料はあるけどさ、あえて言いたいね。コークを飲まないならジャンクフードは食うなって」
炭酸飲料が苦手なひと、ごめんなさい。
でもこうでも言わないと、核弾頭姫に敵対視されそうで怖いんです!
偏見を持っているわけではないんです! 炭酸飲料が苦手なひとも、どうぞお好きにジャンクフードをお楽しみください! 許してください!
「あら嬉しい。そこまで言ってくれるひとに初めて会いました。じゃあ、乾杯しましょ」
「ああ、いいね。俺が奢るよ」
「いえいえ。ここは私が」
「後輩に出させる先輩がいるかってんだ。いいから、ほら」
ペンタリブルに寄ったグラディオスの補給科は、艦内で運営している購買部の他に、自動販売機というか、有料のドリンクサーバーを設置してくれた。無重力区画ゆえチューブタイプであるけど、なんと炭酸飲料が飲めるのだ。これには感動したね。宇宙食に炭酸飲料があるのかは知らないけど、とても久しぶりに飲んだ気がする。
腕の端末からペイすると、ドリンクサーバーからニュッと赤いラベルのチューブが伸びる。ユリンに手渡して乾杯。ストローを刺して飲み込んだ。コークの炭酸が口のなかで弾けて踊る。
「ん、ん、んっ。くぅ!」
ユリンは嬉しそうな顔をする。本当にコークが好きなんだな。
「エース先輩! 購買部でフライドチキンやフライドポテトを販売するよう、掛け合ってもらえませんか!?」
「うぉ………い、いいなそれ。クランド艦長に言ってみようか」
「是非ともお願いします! コークはおいしいけど、洗い流す脂が無いのとあるのとでは、美味しさの増減も激しいです。ね? そう思うでしょう!?」
「ポテトチップも脂が多いけど………うーん。確かに、熱々のチキンやポテトの脂の方がうまいもんな。無性に恋しくなる」
「でしょう!? 流石ですエース先輩! まさかエース先輩と、こんな話ができるなんて!」
それは俺も思う。
だってさっきから、ユリンが別人に思えてならないんだ。「誰こいつ?」って頭が混乱してる。
お嬢様っぽくて上品で戦闘能力と操縦技術が高いユリンが、まさかこんな俗っぽい会話で興奮気味に雄弁するなんて思いもしなかった。
ついさっきまで「エース先輩。コース料理では食器は外側から使うのが常識なんですよ?」なんてお嬢様チックに語りそうだったユリンが「チキンとポテトとラーメンとハンバーガーと組み合わせるコーラ最高ォッ!」と半狂乱で叫ぶなんてさ。誰が想像するんだよ。
「ユリンがこんな顔して笑うところ、初めて見たよ」
「緊張していたからかもしれません。毎日訓練して、実戦で戦って、いつ死ぬかもわからない日々で、心が安らぐ時なんてなかったですし」
面白い冗談のように思える。いつもリラックスして見えたのに。
「エース先輩に相談したいことがあります」
飲み終えたチューブを握るユリン。
本編ではユリンの心境を吐露するシーンなんてなかったから、これはこれで新鮮だ。
ソータに狂った偏愛を向けようとしていた怪女が、いったい俺になにを語るというのだろうか。
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お陰様で元気もらえました! 一気に3話くらいは書けそうです。でもあと5話………実はもうちょっと元気が足りません。引き続きブクマ、評価、リアクション、感想などの応援をお待ちしております! 何卒宜しくお願いします!
次回の更新は7時頃を予定しております!
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