撃てよクソ野郎A07
「がっはっはぁ! 面白ぇ設計データじゃねぇか。このバカタレェェエエエエエエ!!」
「おげぇええええ!?」
ドッグで馬鹿の悲鳴が炸裂した。
誰が馬鹿だって? もちろん俺さっ。
「なんだぁこの設計データはよぉ! 面白ぇが却下だ却下ぁ!」
「ゲホッ。でもおやっさん」
「考えてみろや。んな余裕が、この艦にあるってかぁ? ほれ、お前の先輩どもの愉快そうな顔でも拝んでろや。丑三つ時に五寸釘でお前を打ち殺してぇって、愛のある殺意を込めてやがるぜぇ?」
「うっ………」
カイドウの言うとおり、俺の設計データを見た先輩たちが、満面の笑みを浮かべながら俺に中指を立てる。つまり「死ねよ」と。
朝食を流動食がごとく流し込み、颯爽とドッグを訪れた俺へ「まーた過労死しに来やがったか、このクソボケェ」と、愛のある挨拶をくれたカイドウ。
構わず設計データをドッグの一角にあるデスクに積まれたパソコンに送る。モニターを拡大化して、朝礼後に全員に拝んでもらったらこれだ。
カイドウに猛烈なボディブローをプレゼントされ、先輩の整備士たちにはファックサインをもらった。
「けどおやっさん。ハルモニの計算だと、これで勝率が80パーセントになるんですって」
「机上の空論だろ、んなもん。状況ってのは刻一刻と変わってくらぁ。現段階の情報をデータとしてそのままぶち込んで、予想論でものを語ったところでよぅ。………その80パーセントなんざ、その時になりゃ30パーセントまで低下してるかもしれねぇんだぜ? そんなもんで、俺らを動かそうだなんて甘いんだよクソボケ」
舌打ちするカイドウ。ビームシールドの設計でもこんな酷評をもらったっけなぁ。
でも言っていることは正しい。机上の空論でしかないのは、俺が一番よく知っている。
また最初からやり直しだ。とガクリと肩を落とすと、なぜか───周囲が慌て始めた。
「お、おやっさん。まずいですよ!」
「殴りたくなるのはわかるけど、本当に殴るのはやり過ぎですって」
「ほら、謝って! すぐ謝って!」
「この状態になったエースは、なにをするかわからないですよ!?」
………うん? 先輩たちは、なにをそんなに焦っているんだ?
まるでひとを取扱注意の危険物かなにかみたいに言いやがって。
床に座り込んだ状態で、顔を上げてみる。カイドウたちはギクッとしながら後退る。なにこれ面白ぇ。
「あ、あー。まぁ、なんだ。お前はまだ整備士としちゃ見習いだ。パイロットになってるとは言えな? そんな奴が作ったにしちゃ、うん。まぁよくできてる方だろ。よくやったじゃねぇかエース! なぁ、お前らもそう思うだろ?」
「うんうん」
「うんうん」
「思います思います」
「よくやったわねエースくん」
「頑張ったなー」
「エライワー」
………なんだこの茶番は。
子供が自慢したことを、褒めるというよりも可愛がる大人たちという構図。
全員を訝しみながら、視線を横へ。俺が描いた設計データへ移す。
「お、おうっ。あれな! 変形機構なんざ考えたこともなかったぜ! 実現したら稼働部位増えそうで忙し、じゃなくて、かっこいいんだろうなぁ!」
カイドウは本音を晒しそうになってからベタ褒めに移行。
なんだか読めてきたぞ。
ならこっちだって考えがある。
目をなるべく開いて、瞬きせずにいると涙が出て潤んでくる。それを利用した。
「あ、あ゛ぁ! おやっさんまずいです!」
「泣いたエースがなにするかわかんないっすよ!」
「あああ飴! ガム、チョコ………お菓子どこかになかった!?」
「わ、悪いエース! 痛かったな! 殴ってマジで悪かったって反省してる! 許せ! 許してくれ!」
なんだかみんなの反応が面白くて、泣き真似をしてみたら効果絶大。カイドウを中心に、全員が慌てふためく。
でも、反撃し過ぎるとあとが怖いしな。これくらいでいいだろう。
「あはは。冗談ですよ。みんな、なにをそんなに焦ってるんですか?」
「て、テメェ………また俺らを欺こうとしやがったのかぁ!?」
「ボディブローのお返しです。コンプライアンス大事。オーケー?」
「チッ!!」
カイドウが不機嫌な舌打ちをする。
けどやり返しの対象がカイドウだけと知って、先輩整備士たちは安堵してその場から離れていく。俺のお守りをカイドウに押しつけて自分の仕事に戻っていく。
「実際、実現したら大変なことになるのは、俺でもわかります。可変機構を取り入れたガリウスはまだ無い。13機しかないガリウスGを、変にいじってお釈迦にするのはまずいし。摩耗するパーツが多くなって、下手すりゃ全取っ替えもあり得る。現場は手前が増えて大変だし、整備箇所が増えれば今以上に仕事が増えて人員をどこかに割けなくなる。戦闘中に故障するかもしれない。パイロットだって危ない」
「最初からわかってて、持ってきたのか?」
「そうなります。おやっさんの意見が聞きたくて。予想どおりの結果でしたけど………でもビームシールドの時よりかは悲観してませんよ。まったく。みんな過保護なんだから」
「お前が暴走したらなに仕出かすか、予想できねぇからたち悪いんだよ。でもまぁ、今回は暴走せずに真っ先に俺のところに持ってきたのは評価してやらぁ。………ダミーデータなんざ仕込んでないだろうなぁ?」
「してませんって。はは。前科がある分、疑われちゃうか」
「お前を心配してんだよ。ここの連中は。俺もだが。………もう二度と、真っ黒になったお前を見たくねぇ」
「すみません」
誰もが負い目になってるのか。俺が死にかけたあの事件を。
俺はカイドウに助けられて立ち上がると、デスクにある椅子のひとつに座らされる。カイドウは対面に座ると、ペンタリブルで購入したというチューブ型のドリンク製造機に湯を機械で注入し、インスタントコーヒーを淹れてくれた。ひとつを差し出してくれる。憧れの宇宙食も、もう慣れたもんだ。インスタントコーヒーも案外うまい。
「ふぅ………お前がこうやって、なんか持って来る時ゃ、必ずなにかが動く時だって、俺らも学習済みよぉ。………ビーツか?」
ストローでホットコーヒーを啜るという妙な飲み方だが、宇宙空間だし、ドッグは無重力空間だ。マグカップに注いだ液体を、重力発生区画と同様に飲むことは難しい。
カイドウは一口飲むと、俺も飲む。
相変わらず視線も勘も鋭い男だ。
「………そうですね。そうなります」
「お前、あいつと知り合いなのか?」
「俺は面識がないんですけど、あっちは知ってるみたいです。それで、俺の行動に不満を持ってるらしくて」
エース・ノギを知っているわけではない。前世の、小此木瑛亮の方をビーツは知っている。
しかし前世では友達が少なかったし、なにより誰かに恨まれるようなことをした覚えもない。
大学生時代は食堂の片隅で、陽キャたちの会話をバックミュージックに、カードゲームや携帯ゲームに興じる陰キャ集団のなかにいるひとりだった。あのなかで誰かに恨まれていた………とは考えにくい。それなりに仲が良かったし。
バイト仲間も違う。先輩にはこき使われたし怒られたけど恨まれちゃいない、と思う。
困ったことに、まったく予想ができなかった。
「難儀してんなぁ、お前」
「だから、一刻も早く………俺の機体も必要なんです」
俺とカイドウは、ドッグの片隅でオーバーホール中の機体を見上げた。
ペンタリブルを出てから、ついに計画が始まったのだ。
俺が乗っていたプロトタイプガリウスGから不要なパーツを外し、オリジナルガリウス、タキオンとしてリバイブさせる時が。
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