撃てよクソ野郎A05
ヒナに自室まで連行されて、落ち着いて───いられるはずもなく、脳内チップを駆使して食事をするために強引に体を動かした。
やれスプーンとフォークを持てだの、やれ食べろだの。やれ斜め下だけ見ろだの、やれ斜め上は絶対に見るなだの。
だってさ。酷いんだぜ?
ヒナの積極的な生殺し方法!
「うわぁ、なんか暑いねぇ。この部屋」
とか言いながらシャツを脱ぎ始めた。なんとその下はインナーキャミソールだった。
もうね、馬鹿じゃないのと叫びたくなったよ。
俺をなんだと思ってるんだろうね。この子。
どうせペンタリブルに立ち寄ったその日に高速で買い揃えたんだろうね。それまで下着なんてまともに揃えられるはずがなかっただろうし。きっと女子たちは血眼になって俺と合流するまでの数十分で買い漁ったのだろうさ。
すごいとしか言いようがないね。
ヒナといえば、レイシア曰く「自分の顔くらいあるおっぱい」で、ファンを虜にしたくらいだから。
そんな子が薄手になって、しかも「男の子ってこういうのが好きなんでしょ? わかってるんだよ?」とか言いたげな表情でインナーキャミソールを胸の下に食い込ませ、袋を作り上げおった! なんの袋かって? 健全な紳士なら言わずともわかれよ馬鹿野郎っ! 俺は大好きだよ馬鹿野郎!
煩悩をブチ殺そうにも限度というものがある。意識しないようにすると逆に意識してしまい、普段なら考えもしないことも考えてしまう。
滅多に帰ることが少なくなってしまった部屋に充満した匂い。異性特有の甘い香りだ。フェロモンとでも言うのかな。吸い込まないようにする方が無理だ。
視線だって抗えない。脳内チップにどんなプロンプトを入力したところで、チラチラと視線が持ち上がる。
イカれた姿をしてやがる。とその度に思う。インナーキャミソールの下はもちろん下着で、細い肩紐の他にも余計な紐がどうしても見えてしまうし。
で、ヒナ自身は俺がチラ見していることに気付いていて、目が合うと「ムフゥ」と得意げに笑うのだ。兎口に似た笑顔がとても可愛い。
それがどうしても下半身にダメージを与える。お預け、あるいは放置プレイにされた期間が入退院を繰り返したせいで長くなってしまい、俺の思考を侵食する。
食事を終えれば《軽運動の時間です》とレイシアにインプットされた指示を出すハルモニ。なんとか黙らせる。
なにが軽運動だ。絶対に軽めじゃ済まない。
プレートはヒナが食堂に寄って返してくれるという。小さなテーブルの上に放置して、ヒナに誘われるがまま、俺はベッドに座り、あの日の続きをするようにヒナが前に座る。
ああ、本当に続きだ。
ヒナがまた俺の腕を掴み、自分の腹の前に持っていく。
ただ、以前とは違って、俺の右腕はない。満足に抱きしめることはできない。
欠損した腕の先に被せられたラバー製のカバーの腕から、左手で覆う形。つまり腕の周囲が狭くなるから、ヒナがどうしてもより俺に接近しなければならない。
ヒナはクテンと俺の顔の近くに頭を置いて、リラックスしていた。
「そういえばね」
「う、うん」
「ペンタリブルにいた時なんだけど、家族と連絡が取れたの」
「え、そうなのか? よかったな」
「うん。サフラビオロスから避難したみんな、無事に別のコロニーに収容されて無事だって。みんなの家族もそうだよ。安心したけど………まだ一方的に連絡するしかないから。私が軍人になったってペンタリブル支部の施設で電報を送ってもらったけど、みんなびっくりするだろうなぁ」
それは喜べることだった。
原作ではヒナは第6話でDタイプに殺される。よって別のコロニーからペンタリブルに電報が届いても、訃報しか送れることはない。
ヒナの家族が悲しみに暮れるのは考えたくもない。会ったこともないけど。
「エー先輩の家族も収容されてるよ。きっと」
「あー。そういえは言い忘れてたな。俺、家族いないんだ」
「えっ」
「みんな死んじまった。事故でさ」
エース・ノギの記憶を辿る。俺はここでは天涯孤独だ。ゆえにフットワークも広い。今だけはその設定が都合がよかった。
もし家族がいたとしても、エース・ノギに転生し、前世の人格が覚醒したのはつい最近だ。会ったところでなにを伝えればいいのかわからない。
「………ごめん。知らなくて、私だけ喜んじゃって………」
「いいさ。今さら、気にしてない」
前世での家族のことも割り切れる。お世辞にも家族仲が良い方とは言えなかったし。
ヒナが今にも泣きそうになりながら、俺の手を握る。
とても温かい手をしていた。だから、今はそれでいい。
俺はどんな顔をしているだろうか。少しだけ笑えているといいのだが。
「で、でもねっ」
「うん?」
「今はひとりでも、家族………増やすことはできるから!」
「………そ、ソウダネ」
「私がエー先輩の家族になるから! だから………ねぇ、言ってよ。もうここまでして「嫌だ」なんて言わせない。エー先輩が言ってくれたら、なんでもするから。ひとりにしないから!」
ヒナは泣きながら訴える。
こんな顔を見るのは初めてだ。
もはや男女交際の告白を通り越してプロポーズだ。
前世では女っ気のないむさい生活を興じていたが、転生してからは人生薔薇色に染まりつつある。そりゃあ、前世では決して出さなかった本気を常時フルスロットで稼働すれば、異性だって振り向いてくれるかもしれない。前世に足りなかったものをありありと示してくれているようなものだ。
「だから………ね? エー先輩。もう正直になっていいんだよ?」
ぐぅ、ぎぎ………と食いしばった歯が鳴る。
できるものなら、そうしたい。
三代欲求がひとつに従って、獣に成り下がるのも有りだろう。
そうしてヒナと関係を深めて、いずれ───いや。今はそんな雑念に塗れている場合ではない。
俺はいつだって本気だ。本気で取り組んでいるなら、ヒナひとりに集中していてはいけない。
ビーツと同じになりたくない。性欲に負けていられるか。
「ヒナ。聞いてほしいことがある」
「なぁに?」
「ビーツのことだ。俺はあいつと共通している部分が多いってことを知った。で、辟易してる。俺はあいつと同じになりたくないんだ。やってくれたよ。ビーツに嫌悪感を持たされちまった」
「え、えっと………なんの話し?」
いきなり話題を変えられて、脈絡もなければ混乱もする。
そこで俺は、部屋のモニターに脳内チップで干渉した。
「これ、見てくれ。AIイラスト生成みたいなもので、事実をかなりマイルドにした感じだけどさ。奴がアリスランドでやってることの一端を知ることができる」
ビーツが送ってきたイメージは、すでにある程度はクランドに報告しているが、あまりの内容の過激さから子供たちには伏せることにした。
けど俺は、あえてヒナには教えることにした。
「な、なに………これ………あのビーツってひとに、女のひとたちが擦り寄ってる?」
オペレーションルームの玉座に君臨したビーツに、女性を模した肌色の人形を侍らせた。のっぺらぼう、髪もない。女性だとわかるのは体型ゆえだ。
「ビーツは艦長代理になって、艦の女どもを侍らせてハーレムを作りやがった。それ以外にも共通している部分が多いからかな。俺にも対抗意識ってわけじゃないけど、女性を道具みたく扱いたくないっていうか………こういう行為をすることに抵抗感を持つようになっちまったんだ」
「………女の子に触るの、怖い?」
「こうして触れ合うのは怖くない。でもその先に進むのに、抵抗感があるんだ。………俺が俺を許せなくなりそうで。だから、ごめんなヒナ。勇気出して来てくれたのに………ごめん」
俺は本心を告げた。
進みたい。けど怖くて進めない。
それが今の俺であると。
「………わかった。そういうことなら、いいよ。私こそごめんね。先輩のこと、わかってなかったんだ」
「いや、ちゃんとわかってたよ。体は正直だ。心がついて行けていないだけなんだ。ヒナとこうして一緒にいるの、すごく落ち着く。こういう時間、結構好きなんだよな。ヒナ。ちゃんと俺、お前もこと見てるからアムゥ!?」
怖いって告げたのに。触れ合うのは嫌ではないと言った途端にこれだよ。
ブチューと優しさで口を蹂躙された。
「うん。チュウは嫌でもないし心が拒否していないっと」
「ヒナさん? そのメモ、なに?」
「エー先輩ができそうなことをまとめるの。心配しなくていいよエー先輩。できることから始めようよ。私も協力する。ほら、じゃあ今日はもう寝ちゃおうね。添い寝がどれだけ耐えられるのか調べるから」
「おう、わっ!?」
こわぁい。ヒナが怖ぁい。
右手がないから抵抗だってまともにできるはずがないのに。
ヒナは俺に覆いかぶさると、俺の顔を抱き寄せてベッドにごろーんとダイブ。
俺の言い訳に対する報復として用意された、究極の生殺し!
ヒナに抱き枕にされましたとさ。しかも俺の顔をしっかりとホールドしてる。足まで絡められて、もう逃げられない。
顔に密着する幸せな感触。薄着だもん。反応するなって方が、無理。こっちはまともに動けないのに。
息苦しくも呼吸だけは確保。すると、ダイレクトで吸い込んでしまうヒナの香りにクラクラする。けれど、なぜだろうか、感触と温もりに不思議とリラックスして、いつの間にか寝てしまっていた。
翌日早朝、目を覚ますとヒナが寝ていて、枕元にはあれから書き足したであろうメモ帳があった。
耳元で囁くと反応あり。下半身の反応良好。パターン3の睡眠学習にいこう。レイシアさんのレクチャーは半分ほど進んでいる───あのイカれたカウンセラーが元凶と知り、怒りと呆れを覚えた。
次回は15時頃を予定しております!
書き溜めたストックは今日の分はあるのですが明日はほぼありません。これから書き溜めるので、私に力をください! ブクマ、評価、リアクション、感想、様々なガソリンをお待ちしております!
作者からのお願いです。
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