撃てよクソ野郎A02
シドウにデーテルとは似て非なる反応の楽しさを見出し、ひとりで愉悦に浸る。
それから廊下を行く同期や後輩や大人たちに見られてギョッとされながら、艦長室へと運んでもらった。
シドウめ。ささやかな仕返しとして、あえて人通りの多い廊下を歩いて俺に羞恥を刻むつもりか。
けど残念。今の俺は案外楽しんでいるんだな。シドウの顔が近くにあって、それなりに厚い胸板にすっぽりと収まって。これが大人の包容力かと実感している。
さて、艦長室に到着するまで、少し考えてみよう。
時期、イベント的に考えて、すでに第9話「撃てよクソ野郎」に入っているはずだ。
今回の会議は連合軍の本部から通達された更新された任務。第1クール終盤に向けての動きであることは間違いない。本編にもあった。なぜそこに俺が組み込まれているのかまでは知らないが。
これから始まる本編は、やっと鬱々しい展開が終わりを告げ、新たな絶望という試練が与えられる。
この試練というのがまた厄介で、梃入れしようにもどこから手をつけるべきか迷ってしまう。できることはすでに始めているが、通用するかどうか。
なにより度重なる原作破壊行為によるツケが、世界が運命を元に戻そうとする斥力というべき問題が、俺に伸し掛かる。
俺が相手にしているのは、なにもアンノウンだけではない。アリスランドのビーツはもちろん、この世界、運命にだって抗おうとしているのだ。
それこそ神の領域。この先の未来を知っている男が、どこまでもがき、足掻き、斥力を跳ね除けて自分だけの道を切り拓けるというのか。
俺は本当に全部救えるのか───
「エース。おい、エース。そろそろ艦長室だ。降ろすから、ここから先は自分で歩け」
「あ、はい。ありがとうございました」
シドウの腕から離れる。再び両足で床を踏み締めた。
「エース。疲れているのではないか?」
「休ませてもらいましたよ。もう大丈夫です」
艦長室はもう目前だ。ふたりで並んで歩く。
とは言っても病み上がりの体だ。シドウが俺の歩調に合わせてくれた。
そういえばだけど、シドウが俺の呼び方を変えてきたな。気付いたのは昨日の見舞いの時だ。
ノギではなくエースになった。隊長と副隊長として、信頼の表れかな。指摘すると拗ねて元に戻してしまいそうだ。今は気付いていないふりをしておくのが正解だろう。
艦長室に到着する。そこには軍服を着たグラディオスの重鎮らが揃っていた。結局、最後に着いたのは俺だったのね。
一応、支給されているが着る機会が少ない軍服に着替えている。シドウが途中で俺の部屋に寄ってくれた。
まだ糊が剥がれていないパリパリのシャツやジャケット。前世では地元の高校に通っていた時を思い出す。シャツにネクタイにブレザーだった。大学はスーツなんて滅多に着ないし。
「遅れてしまってすみません」
「構わない。きみの体調は憂慮する」
俺のせいで会議が遅延してしまったのでは。と不安になり、着席する前に謝罪する。
それを好機と見たのか、デーテルが嫌味を発しようとした瞬間、ゴキゴキと指の鳴る男がする。アーレスだ。そういえば俺が入院していた時、アーレスがデーテルを血祭りに上げたんだっけ。腐っていても上官だ。暴行で厳罰に処されたはずだが、そんな経緯もあり、アーレスは未だデーテルの抑止力となってくれた。
小さくなるデーテル。その様に呆れたクランドは嘆息し、俺を許して、手で着席するよう促す。
「俺、場違いじゃないですかね?」
「艦長が同席を許したんだ。堂々としていればいい」
とは言ってもねぇ。
困惑しながら周囲を見る。俺を見て愉快そうにしているカイドウ。デーテルを黙らせることができて満足していたアーレスが視線に気付いて、笑顔で手を振ってくれた。苦笑しながら会釈する。
ここには俺たちパイロット科、カイドウの整備科、アーレスの砲雷科の他に、メディカルルームで勤務する衛生科、航宙航海科、機関科、船務科、補給科の主任が揃っている。計8つ。まだ半分くらいしか顔と名前が一致しない。後々アーレスに紹介してもらうか。
「では揃ったようなので始めよう。デーテル」
「は、はい」
アーレスに脅されて小さくなっていたデーテルが、クランドに呼ばれて慌てて仕事をする。端末からデータを送信。四角に囲まれたテーブルの中心に設置されたパソコンから、立体投影された図が現れる。
現在の宙域を航行するグラディオスの進路から、黄色い矢印が伸びていた。
「これは1時間前、本部より送られてきた作戦だ」
さらにマップが縮小する。グラディオスが見えなくなって、黄色い矢印は糸のように細くなるがまだ見える。
「こりゃあ………マジか」
カイドウが唸った。
全主任さえ身構えている。
やはり、こうなった。俺は唇を固く結ぶ。
「………地球ですか。艦長」
シドウが尋ねる。
「そうだ。我々はこれより、地球へと進路を向ける」
糸みたいな矢印の終着点は「EARTH」とあった。
「しかし艦長。地球へ向かうにせよ、大分迂回しているように見えますが?」
アーレスが尋ねる。
これがなにを意味しているのか知っているのは、クランドと俺だけだ。
「本部から命じられたのは、地球への帰還ではない。以前取り逃したEタイプを、このポイントで発見したと報告があった、連合艦隊10隻が数時間で壊滅する被害があった。おそらくEタイプだ。レコーダーの記録も特徴が一致している。Eタイプは地球へと進路を向けているらしい。そこで我々も地球へ向かい、Eタイプを今度こそ仕留める。これが主となる作戦概要だ」
Eタイプのアンノウン。それがこの第1クールのラスボスとなる。のちに始まる第2クールでは平然と何体も出現するくらいの敵ではあるが、個体差がある。第1クール以降に出現するEタイプは総じて100メートル級で、内部に収納しておけるアンノウンの数も少ない。
比較するとこれから戦うことになるEタイプが特殊個体なだけだ。
「航宙科。この航路で地球にたどり着くことは可能か?」
「可能です。途中でアンノウンの襲撃を受けることになりましょうが、機関科と連携を密に、艦を維持していくことになりましょう」
「うむ。では航宙航海科は機関科と連携し、いずれ始まるだろう戦いに備えつつ、地球へと進路を修正してほしい」
なるほど。各セクションの代表に可能かどうかを確認を取ることで、連携を促して確実性を上げるのが目的だったのか。
ゆえにクランドは、順番に質問していく。衛生科と補給科も同様に可能と肯定した。特に補給科はペンタリブルで頑張った。艦に必要なものを揃え、レンタルした何台ものトラックで運送しなければならない。それも限られた予算のなかで、だ。いくら戦果を上げた宇宙戦艦とはいえ、予算は無限ではないものな。
各セクションが発注したもの、あるいは軍人ひとりひとりがリクエストしたものを可能な限り購入するのも仕事だ。
ちなみにグラディオスには購買部があり、補給科が運営している。俺も何度もお世話になっている。俺は整備科とパイロット科を兼任しているから、給料だって倍………まではいかなかったけど、同期たちよりかは多くもらっている。一応副隊長だし。出撃の度に手当てがつく。予備パイロットたちや整備士見習いの後輩たちによく奢ってやれるのも、こんな経済状態だからな。
だから俺に先輩をさせてくれる補給科には密かに感謝していた。
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