どうせみんな死ぬB11
ふたりの男たちの所属はすでに判明している。ゆえにアリスランドへジャブを放つ好機となった。クランドが牽制しないはずがない。
俺はペンタリブルの市街で脳にダメージを負うことを覚悟して、男たちの端末にハッキング。本当の所属を割り出した。
アリスランドである。やはりあの6人はアリスランドの所属で、ビーツの手先だった。
ビーツは転生者だ。天破のグラディオスを視聴し、転生してからは推し活の延長で救済ifルートを選択した俺とは違い、我欲と利己で満たす酒池肉林のハーレムifルートを選ぶタイプ。
同じファンであったとしても、乗艦先が異なったり、環境が異なっただけでこうも差が出るのかと驚いたが───きっと、そうではない。
ビーツがもし俺の代わりにグラディオスに乗ることになったとしても、推し活なんてしない。救済ifルートは辛うじて選ぶだろうが、死んだり負傷するネームドキャラクターの代わりに、スタッフロールで名を与えられることのないモブキャラクターを犠牲に差し出すだろう。そして男を排し、女を呼び込み、ハーレムを作るに違いない。
これは転生先がエースやビーツだから、というわけではない。転生前、つまり前世で、そいつがどんな性格だったのかで決まるのだ。
さて、そんなふたりの男だが、なんとビーツはしらを切った。知らぬ存ぜぬを押し通すつもりだ。
一応、男たちの尋問は済んでいる。間違っても拷問はしていない。俺が抽出した情報から、彼らがアリスランドのクルーであると判明していると告げ、罪を認めさせようとしたのだ。
だがふたりは頑なにアリスランドの所属を否定していた。
ただひとつ、気になる反応があった。両者が知らぬ存ぜぬを一貫するので、とりあえずアリスランドに返還しまおうとしたのだ。ビーツのことはもちろん気に入らないが、だかからといってずっとここで歪みあっても仕方ない。もしかしたらあえて捕まって、時間を伸ばしているのかもしれない。面倒になるくらいならアリスランドに帰した方がまだマシだ。
ところが彼らは「アリスランドだけはやめてくれ」と懇願したらしい。
ペンタリブルの懲罰ならいくらでも受けると言って聞かなかった。
アリスランドも彼らを知らないと言った以上、返還するわけにもいかず、ペンタリブル支部にいる襲撃犯の仲間だと言って突き出した。
これで問題が解決する………と思いきや、そうではない。
第8話の最後のシーンが残っている。奇しくも4日目。自由時間を与えられて市街に出たソータは「どうせみんな死ぬ」と呟きながら、ペンタリブルで一番高い建造物の屋上で、まともな目ではない虚な表情をしながら地上を見下ろすのだ。
視聴者は誰もが「やめてくれ」と懇願した。俺もそう。ソータは一歩、また一歩と手すりまで接近しながら、グラディオスのこと、ヒナや、最後にアイリを思い出しながら───足を止める。端末に入った通信だ。
内容は敵襲ゆえに戻れとシドウの通達。ソータはフラフラしながらグラディオスに戻り、遅刻を叱られながらも出撃。
他を寄せ付けない、覚醒の予兆を表しながら単騎で敵を粉砕。ネガティブなイメージが脳と精神を侵食した結果、ストレスで様々なものを失いながらソータを変えていく。
そして終盤。ひとりでベッドの上に座っていたアイリを見て、無言で接近。互いに無言ではあったが、椅子に腰を下ろしたソータが頭をアイリの膝の上に乗せ、寝てしまう。
そんなソータを、やっとアイリは微笑を浮かべながら「お疲れ様」と言って、指で撫でる。
そのラストが、まだソータとアイリの関係が薄氷ではあったが終わっていないことを示唆して、俺を安心させたがもどかしくなった。
───で、今はどうかって?
「クゥ」
「スー」
子猫ちゃんたちが、俺の両膝を枕にして眠ってらっしゃる。
ソータとアイリだ。ふたりとも夜遅くまでシミュレーションで頑張っていたとか。
アリスランドを警戒しなければならないんだ。安易に艦外に出ることはできない。短い自由時間は初日で満喫したと言って、パイロットは努力し、クスドも様々な取り組みを始めた。
俺はといえば、プロトタイプガリウスGの改修プランを、脳内チップを介してリモートでドッグと繋げて、メディカルルームから参加していた。
24時間、治療ポッドのなかで漬けられて、やっと全快になったから外出しようとした途端にこれだ。「じゃ、元気になったんで仕事行ってきまーす」と久々の二足歩行で移動しようとしたら、カウンセラーとはいえ軍人であるレイシアが「させませーん」と足払いを放つ。信じられないくらいエグい角度から飛んできた。
運動神経はいいし軍人だから鍛えてる。医者だから体力もなければ務まらない。そんなひとの足払いだぜ? 反応できても体がすぐに動くはずない───と思いきや、脳内チップが敵襲を感知、反射と同時に跳躍を成功させ、普通じゃない跳躍力で天井に頭をぶつけて落下。予想以上の高さまでジャンプさせた足の筋繊維も酷い。ベッドに拘束されてしまったんだな。
しかし拘束されたからと言って、仕事をしない俺ではない。ハルモニと脳内チップを併用して、意識の半分をドッグに接続。これが超便利。
お陰でメディカルルームで俺の意識は半ば微睡んでいるも同然だが、眠っているソータとアイリを堪能するくらいはできる。
ドッグにいるカイドウ率いる整備士と連携。イメージをハルモニによって正確に図面にして伝える。一方でレイシアに「なにその気持ち悪い笑い方」と称された本体。どっちも俺で、まさにヘヴン。
「そういえばヒナちゃんは? エースくんがこんな笑い方してたんじゃ、きっといつか刺されるよ?」
それは悪夢。でもあり得そうで怖い。気を付けないと。
「ハーモンたちと、シミュレーションで頑張ってます。今日こそユリンを、倒すって」
「へぇ。頑張ってるねぇ。………エースくん。退院したら、ちゃんとヒナちゃんを構ってあげなよ? 買い出しはできたけど、キロ単位でストックが消し飛んだらどうなるか、わかってるよね?」
「う………」
整備士兼パイロットに戻った俺は、リハビリで声帯機能も取り戻した。長期間喋らなかった影響で、筋肉が衰えて滑舌が絶望的に回らなくなってたけど、面会に来てくれる全員との肉声による会話で、平常と変わらぬまでの滑舌を取り戻した。
特に嫌味を言いに来たデーテルとの舌戦は面白かった。饒舌になるんだもんな。とどめはレイシアが刺したけど。シドウと交際していることを打ち明かした。デーテルは絶望して去った。
「大変なのは、ここからだよ。エースくん、みんなに囲まれてるから気付いてないんだろうけどさ、ヒナちゃん以外にも注意しなきゃいけないのがふたりいるんだからね?」
「え、それってどういう───来た」
俺とレイシアの会話を中断するアラートが鳴り響く。「敵襲か!」と叫んだソータとアイリがガバッと起きた。
「なんだか久しぶりに安眠できた。エー先輩の膝って安眠枕なの? じゃ、行ってくるね」
「うまく寝付けなくなったら使わせてもらおうかな。エー先輩。私も行きます」
遠慮のない後輩たちだ。俺の最推しのふたりが、活気溢れる表情でメディカルルームから飛び出した。
ソータは俺が色々と画策し、アイリの負傷を請け負ったことで不安定にこそなったが、本編のような陰りはない。アイリも然り。俺の膝で眠ることでふたりが回復できるなら、いつでも貸してやりたくなった。
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