どうせみんな死ぬB10
「あれ、なにをしているんです?」
クスドが尋ねた。
「エースが言うには、アリスランドの艦長代理、ビーツがガリウスやドローンカメラに侵入してる可能性があるんだと」
「なんだと?」
「俺も信じられなかったがよ。………どうやら、ビーツもエース同様、脳内チップを、それも2枚も入れてるイカれた野郎だってほざいてたしよ。実際、奴はドローンカメラに侵入して、微弱ながら放電したらしい。それに引火した塵や、特殊な金属粉がパンパンと破裂してたんだとよ。エースも応戦して俺らを守り、最終的には空調を動かして塵を撤去。事なきを得たってわけだ」
「なるほどねぇ。じゃ、ガリウスにも入れるってわけね。ふざけてるのかしらね。ブチ殺してやろうかしら」
「やめな、って言いてぇとこだが、そこは俺も全面的に肯定すんぜ。どうせあの野郎、近いうちに俺らに仕掛けてくんぞ。エースが言うにゃ、本部とも繋がりがあるとか。ドンパチをおっ始めるのは構わねえが、テメェらパイロットにゃ人間とやり合えって命令するようなもんだ。覚悟だけはしといてくれ」
軍人は化け物と戦うだけが仕事ではない。旧来、国家で抱える軍とは、自国防衛のために組織された武力組織である。相手は他国。人間同士で戦っていた。
それは理解できる。ただ、カイドウが言う覚悟を簡単に行えるとは思えない。それがシドウの見解だ。
ところが、エースが特に可愛がっていたソータは躊躇いもなく首肯したのだ。
「わかりました。できるだけ、やってみます」
「………最悪、殺し合うってことになんだぞ? わかってんのか?」
「銃を持った人間同士だったら、そうなんでしょうね。昼にも見ました。けどガリウスに乗っているパイロット同士なら違う。コクピットを外して、手足を切り取って推進器も奪って、ダルマにしてやればいいんでしょ? 俺ならできます」
悲観的な意見ではなかった。かといって自信過剰でもない。ソータは本気でやろうとしている。
カイドウとシドウは目を丸くしたあと、微笑を湛えた。ソータならやれるだろうと。
「達磨さんにしたあと、命乞いをさせてあげるわぁ」
「ユリン。戦闘宙域で投降した相手を脅すのはよくないよ。せめて、捕虜にしてからじゃないと」
「あら言うじゃない。いいわねぇ、そういうのも好きよぉ」
クスドも珍しく容赦のないことを述べた。ユリンの妖しい笑みもすごみを増す。
誰もがアリスランドとことを構えることに異論を唱えない。機体での対人戦に、プレッシャーではなく報復の機会を見出して期待しているのだ。それも相手を殺すことなく、捕虜にしたあとまで考えている。
クランドも微笑を浮かべた。ほんのわずかな時間ではあったが。
盤石になりつつあるのだ。グラディオスは。あの時、人員補填のためにパイロットを差し出さなくてよかったと内心で呟いた。
「んで、お前らよ。エースがこれから復帰するわけだが………まぁ、ここだけの話、エースから提案を持ちかけられてな」
「エー先輩から? ………そっか。私、もうお役目御免ですか」
アイリは整備士でいながら、エースの代行としてドローンカメラのパイロットをしている。あれから何度もソータと訓練し、3機までなら同時操縦の精度も上がったところなのだ。
しかし、エースが復帰したなら、その役目を返さなければならない。
「いや、そうじゃねぇ。お前はこのままドローンカメラを任せるってよ」
「え、じゃあエー先輩はなにを?」
「本格的にパイロットになりてぇんだと。ただの整備士見習いだったくせによぅ………相変わらず発想がぶっ飛んでるぜ。そのためにプロトタイプガリウスGを改修する。アイリ。お前はこれから八号機でドローンカメラを操縦しろ。んで、七号機は………シドウ。いよいよお前もナンバーズのパイロットだ。あのガリウスFも限界だ。乗り換えの時だぜ」
いよいよ本編に準じる動きとなる。
アイリは本編では右腕を失い、しかし卓越した空間認識能力を評価され、義手を取り付けて八号機に搭乗。シドウは第1クール終盤ではあったが七号機に乗り換える。
期日を早めたのはエースの意思によるものだ。そうする必要があるからと。
「エースの野郎………どう見るよ」
「どう、とは?」
「ビーツと、なにか因縁があるみたいだぜ?」
「………ふむ。だが、彼の言動からして面識があったとは考えにくい」
「そこなんだよなぁ」
本編でグラディオスとアリスランドが敵対したように、エースとビーツは対立している。互いにクランドとカイドウでは理解に及べないなにかの事情を抱え、感情をぶつけ合って見えた。
「1億以上………なんの数字だか、わかるか?」
「レイライトリアクターの回転数、か?」
「いや、そうじゃねぇ。エースの奴の脳内チップの通信回数さ。ドッグに入ってから、ぶっ倒れるまで。ある程度のリハビリと、使い方を理解してたとはいえだ。常人だったら思考に混乱が生じてらぁ。精神だって無事じゃ済まねえ。だがあいつは平然としてた。ビーツはそれ以上。………異常だぜ。あいつら」
ハルモニによるエースの脳内チップ使用の履歴を見たのだろう。
具体はうまく理解できないものの、カイドウが異常だと言ったのだ。
それがエースにとってなんら変わりのない普通なことであったとしても、想定外なことであったのだ。
カイドウは、すでにエースの末路が見えていた。
「お前らも色々と努力してることは知ってる。エースを守ろうってな。だが、ここから先………あいつが本当に心が安らぐことはねぇかもしれない。それが地獄だ。覚悟しろよ。俺らがエースをその道に戻しちまったんだ。もう、エースにいつなにがあっても不思議じゃねぇ。もちろんエースも隠そうとする。あいつは自分を誤魔化すことが得意だからな。だがきっとなんらかの予兆はある。敵がアンノウンだけでなく、アリスランドの人間も増えやがった。あいつが壊れねぇよう、俺らも見張っておくがよ。お前らも今まで以上に見張っておけや。………倒れてからじゃ、遅ぇかもしれねぇからな」
カイドウの手元には、エースがハルモニに託したメモがあった。
そのなかに地獄の象徴たるガリウス、タキオンについてもあった。
グラディオスで最初に製造されるオリジナルガリウス。
本編ではソータのイレイザーだが、奇しくも運命はねじ曲がり、アリスランドにもあるタキオンが、グラディオスにも君臨することになる未来は、近かった。
アリスランドは翌日も、その翌日もペンタリブルの港に鎮座していた。
いつまでペンタリブルにいるのかはわからない。
グラディオスの艦外カメラではアリスランドの動きを注意深く見張っている。出入りしているのは男だけだ。朝早く大勢で出て、午前中に帰ってくる。専用の搬入口から手配したトラックを使って補給物資を運搬しているようだ。
グラディオスもまた初日から補給の運搬を進めていて、進捗は9割に達する。あと少しで完了するのだが、連合軍に申請して専用の業者から物資を買取し、それも運び込まなければならず、完了は翌日、つまり4日間を要した。
その間にも両艦の間でコンタクトを取った。クランドとビーツによるものだ。見えざる攻防を短時間で済ませたらしい。
内容は、アーレスがペンタリブルで俺たちを襲った男たちを捕獲したので、アリスランドへの返還についてだ。
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