どうせみんな死ぬB08
全員が息を呑む。
シドウにしがみ付いていたレイシアがハッとして、カイドウとヒナと同時に駆け出した。
「エースくん!」
「エース!」
「エー先輩っ」
床に座りながら、今にも倒れそうだった俺を支えた。
先程から呼吸が浅く、ままならない。目の奥がチカチカする。頭が熱い。
過負荷をかけ過ぎた。しかし倒れてはいられない。
ビーツを前に、なんだか弱味を見せたくなかった。意地でも座り続ける。
「が、ふ」
なんだか呼吸が困難だなと思えば、鼻血がボタボタと流れていた。飲み込もうとしたのか口からも侵入して、唾液とともに唇からも溢れた。またジャケットを盛大に汚してしまう。
「1個か」
「………ぁ?」
「ここのことさ。オツムの違いもあるだろうが、お前は1個。だが俺は2個入れている。お前は最近なのだろうが、俺は去年だ。経験の差もあるだろうが、そもそもの処理能力は比較もできないだろうな。お前はノートパソコンのスペックで、スーパーコンピューターたる俺と同じことをやったんだ。ダメージがないはずがない」
「ぇ、めぇ………!」
「はは、無理をするな。死ぬぞ?」
ビーツは頭を指で小突きながら笑う。
1個と2個。それがなにを意味するかは明白だ。
脳内チップ。
今の現象は、やはりビーツにも俺と同じものを脳に入れているという意味だ。それも2個。
スーパーコンピューターか。言い得て妙だな。それでいて誇張している様子もない。当然という風態でいる。
なるほど。だからか。
ペンタリブルの街中で感じていた不快感の正体だ。あの男たちに接触されてからずっと俺に付き纏っていた。
もうすでに侵入されてたってっことかよ。だからノートパソコンのスペックと評価した。間違っちゃいない。
「ハルモニ! 今のはなんだ!? 分析して答えろ!」
『イェス。マスター・カイドウ。分析はすでにメカニック・エースが完了させています。先程の現象はアリスランドのキャプテン・ビーツが巻き起こしたトラッキング現象に近しい現象です』
「トラッキング現象………!」
『イェス。キャプテン・ビーツは外部から持ち込んだ塵をあえて舞い上がらせたあと、ドローンカメラに侵入、起動し微弱な放電を行います。塵に引火した結果、炸裂したと考えられます。またその塵もただの埃ではありません。なんらかの要因で小規模の爆発を起こすなにかが混じっている模様。そして、メカニック・エースはプロトタイプガリウスGのレイライトリアクターを起動し、同じく放電。マスター・カイドウ含める全員を、小規模の爆発で相殺し防衛しました。ただし、すでにメカニック・エースのキャパは尽きています。このままでは脳細胞にダメージを負う可能性があります。今すぐ意識を停止させることを推奨します』
「ば、馬鹿やろっ………!」
カイドウは腕の端末から俺の脳内チップの操作を試みる。これまでは専用のコンソールで無線操作していたが、改良を重ねてカイドウたち重鎮らの端末で可能としていた。
だが、
「お、おいエース! 弾くな! 死にてぇのか馬鹿野郎っ!」
外部からの一切の操作を弾いた。
「死に、ません………あ゛っ」
「エー先輩、声が………」
「艦長が、クルーに戻して………俺も、操作できるように………っ」
「わかったから。もう喋らないで!」
このなかではレイシアだけが俺の感情を理解している。イカれてはいるけど、カウンセラーだもんな。俺とビーツの関係を独自のプロファイリングで察したか。
「そうか、お前はヒナが欲しかったのか」
ビーツが侮蔑する視線を突き付ける。されどもそこには、嫉妬や憧憬の念が見えた。
《ヒナの死を回避し、アイリの負傷を請け負うことで献身を示したか。無駄なことを》
「ア゛ッ!?」
脳内から直接ビーツの声が響く。ダメージを負った脳が割れるかと思うほど痛み、ビクンと体が跳ねた。ヒナだけでなくシェリーも駆け寄って、俺を抱きしめて支える。
《シェリーも終盤になれば人気を博したな。死ぬ運命にあるが………お前はシェリーの死も回避するつもりか? その、ボロ雑巾と大差ない体で?》
《うっ、せぇ………俺の勝手だろ》
《ああ、そうだな。お前の自由だ。どこで死のうが好きにしろ。だが早々に死んでくれるなよ? お前はもう、俺のオモチャだ。同じ転生者だろうが、俺はお前などに同郷ゆえの情けなどかけん。だが、そうだな………ひとつ教えておいてやろう。お前という邪魔者が消えた瞬間、即刻グラディオスを取り込んでやる。俺はお前とは違う。アリスランドの現状を、参考までに教えてやろう………》
「ッ………!?」
頭のなかに映像が流れる。
監視カメラの録画だろうか。
まずドッグ。ガリウスがある。しかし………Fではない。そして、Gでもない。
第八世代ガリウスHだ。目を見張る。驚愕。驚嘆。CG加工などではない。そしてその奥にある漆黒のガリウス───タキオン。もう製造していたというのか!?
なぜ? どうやって? ビーツはメカニックだが、オリジナルガリウスを製造できる手腕を、すでに有していたというのか?
ドッグには男がいた。女はいない。整備士たちだ。無言。無表情。機会的。閉鎖空間で労働を強いられた奴隷の風態。感情を欠如した目をして黙々と作業をしている。
廊下───男しかいない。
より奥へと進むと、やっと女の姿を発見した。
だが妙だ。女たちは誰もが若く、そして肌の露出が多い。軍服に違法な改造をしている。乱れまくった風紀。
奥へ行けば行くほど、そんな女が多くなる。
そして、オペレーションルームへ。
指揮を執る艦長の椅子に鎮座するビーツ。不敵な笑顔。
異様な光景だった。周囲にいるのは全員女で、しかも………
《お、お前っ………お前ぇええええええ!》
《おっと。刺激が強過ぎたかな? これが転生者の、王者としての姿だ。わかったか愚民?》
オペレーターは全員、全裸だった。
それだけではない。オペレーターではない女までいる。総じて全裸で、王座に君臨するビーツの全身に纏わり付き、奉仕している。手はもちろん胸や下半身を使い、愛おしいなにかを扱う愛撫。恍惚とするビーツ。
《間違ってる………お前は間違ってる!》
《軟弱な発想だな。お前とて劣化しているとはいえ、顛末を知る転生者だ。やろうと思えば可能にできたはずだぞ? なら、なぜやらん? その証左に、ヒナやシェリーはよく懐いているじゃないか。もう味わったのだろう? ………うん? なんだその顔は。いや、お前まさか………ふ、ふは、はははははは! 情けない奴! なんだお前、まだ誰も抱いていないのか? この期に及んで、貞操を守っているというのか? これは傑作だ! ハーレムを望まない転生者などいるはずがないというのに、なにを後生大事に童貞を守っているというんだ! だからお前は俺に勝てないんだよ! 転生者としても、男としても! わかるかね、チェリーくん!》
《うるせぇ………俺がやってるのは、推し活だ! 見返りなんぞ求めちゃいねぇ! こいつらが今度こそ笑顔になれるなら、それでいい!》
《軟弱な童貞の発想だな。なんだ、女が怖いのか? 躾けてしまえば、なんていうこともないぞ? 推し活なんぞ笑わせてくれる。せっかく転生者となったんだ。楽しめよ》
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申し訳ありません。色々とトラブル続きで、本日はこれで終わりとさせていただきます。
明日以降、お詫びとしてどこかで3話更新をするかもしれません。
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