どうせみんな死ぬB07
その会議は絶対に有り得ない。行ってなどいない。
されどグラディオス最高責任者の決定だ。誰よりも発言権が高く、重んじられる人物の保証を得た。
その瞬間、エースたちは叫び、レイシアは複雑そうな面持ちをしながら、支えてくれているシドウに抱き着いた。
《キャプテン・クランドの決定を受諾。以後、使用者をグラディオスクルーと認定。以前のアカウントをリロード───お帰りなさい。メカニック・エース。あなたに以前と変わらぬ権限を譲渡します》
脳内チップを介してハルモニが告げる。心のなかでグッと拳を握った。
戻ってきたんだ。グラディオスに。俺はもう一度、このメンバーで戦える。
しかし次の瞬間だった。
「………茶番だな」
空気が一変する。
雰囲気ではない。空気そのものだ。
ビーツは羽織っていた艦長に与えられるコートを肩から外すと、癇癪を起こしたように床に叩きつける。
まるで思い通りにならなかったから駄々をこねるガキのようだ。と整備士の誰かが言った。
すると、控えていたアークがそのコートを拾い、バサバサと何回か振って、ビーツに返し、そのまま背後に移動してしまった。
「これは酷い。………最悪な改悪としか思えない。エース・ノギ。お前は………たったひとりに依存しなければ、艦が維持できないような環境を作ってしまった。グラディオスとはそれではいけないんだ。………ああ、なんでこうなる? やはりエース・ノギが悪いんだ。俺ならもっと、もっと高次元へ………ハァ。もういい。ならば………いっそのこと………」
「ビーツ艦長代理。………グラディオスクルーへの中傷は許さない」
「クランド艦長。あなたもそうなのですね? 汚染されてしまったんだ………」
「きみは先程からなにを………む?」
俺がグラディオスクルーに復帰し、クランドの庇護下に戻る。ビーツの暴挙を本格的に咎めようとした、その時だ。
パン、パパン。とどこかでなにかが鳴る。
銃声ではない。もっと小さい。モニターで外を見る。どこかでトリガーハッピーがやらかしている様子もない。
《全周囲に警戒!》
ハルモニが再び警鐘を鳴らす。いつもより強い語調で。
全周囲───俺の周りだ。
脳内チップを利用して、全権を取り戻したハルモニをフル稼働。音源の分析結果を得る。
ゾッとした。
やらかしているのはビーツだった。
先程の癇癪は幼稚な印象を植え付けるだけの演技で、目的は別にあったのだ。
それこそカイドウでさえ考えもしなかった方向に。
「なんだぁ、この音は。おい。どっかでなんかが鳴ってるかもしれねえ。見て来い」
『動くな!』
「あ、あん? どうしたエース」
答えている暇はない。部下を動かそうとしたカイドウは、まだ俺の意識が可能な範疇にいる。整備士もだ。
コートを叩き落とす。それを強く振るう。
そんな、なんてこともない動作で発生してしまったイレギュラー。
ドッグはカイドウの指導のもと、清潔に保たれており、戦闘時以外なら空気の循環も優れている。ノーマルスーツではなくつなぎで動き回れるくらい。
そこに放たれる───無数の塵。
意識をより拡大する。カイドウの言うとおり、動いている。待機中のドローンカメラ全機。
そこから放たれる、不可視な電気。
やがて、それは───
「わぁっ!?」
「な、なんだこれは!」
ソータたち、クランド、カイドウ、整備士たちの周囲で激しく炸裂した。
「ッ───!!」
躊躇っている場合ではない。
俺は待機中のプロトタイプガリウスGへと意識を飛ばす。レイライトリアクターが作動。回転を始めた。カイドウたちが驚いて振り返るも、動くことはできない。
極小の炸裂が連続で周囲で発生している。
ハルモニの分析の結果、それがトラッキング現象に似ているものと判明。
なぜ? と考えている暇はない。
それをやっているのがビーツなら、こちらも対応するしかない───!
「ククク」
「………ッ!」
ビーツの薄ら笑いと、俺の短い声にならない声が衝突した。
あらゆるカメラで視点を共有。脳内で擬似的に空間を描き、ハルモニによるシミュレーションを一瞬で記憶し、すべての順番を一度たりとも見逃さず、ここにいるグラディオスクルー全員を守る。
「わ、わぁっ!」
いよいよ、不可視な炸裂が可視化された。
周囲で鳴る音がパンという単発なものだったが、今ではパパンと連発に変わる。
クランドとカイドウでさえ狼狽する。
逃げようにも逃げられない。徐々に範囲が狭まってくる。
《ハルモニッ!》
《イェス。メカニック・エース》
炸裂が全周囲を囲む頃。最後の手段を使う。ゴォと空気が鳴った。
「………ほう。判断が早いな。俺よりも劣化しているとはいえ、やるではないか」
空気が動いた途端、炸裂が遠ざかる。
ビーツは胸の前で腕を組み、不敵に笑う。
これだけのことをしておきながら、負荷がないのか?
こいつ、化け物かよ………っ。
「説明したまえ、ビーツ艦長代理!」
「ちょっとした挨拶ですよ。エースとかいう俺の劣化している代用品が、どこまで働くことができるかという試験でもありました。皆さんを巻き込んでしまったのは謝罪しますが、何卒ご理解いただきたい」
「先程の謎な現象はきみがやったというのかね? もしそうだとすれば、これは同胞といえども、敵対行動と見做す他あるまいな! きみは勝手が過ぎる!」
「なに。子供のちょっとした悪戯ではありませんか。しかし、それでも許さぬというならご自由に? 我々を敵視するというなら、こちらも防衛しなければ。例えば、個人で行動しているところで、先程の炸裂が発生したり………ねぇ? 火傷では済まないかもしれない。ご息女が火に巻かれたところをご覧になりますかな?」
「き、貴様ぁ………!」
今度はクランドを脅迫する。あれだけ尊敬していると言っていたくせに、こうなると仮面を外すのか。堪え性のない奴め。
ビーツの脅し方は子供のそれではない。笑い方も、仕草でさえどこか熟練されていて───なぜだろう。俺はこいつのどこかに、既視感がある。
俺とビーツは転生者だ。ただお互いに前世の名は知らない。
けどもし、ビーツが俺の知人であるとするなら最悪だ。
さっきから異常な発熱をする頭のなかで、誰かの笑顔がチラつく。俺が学生時代、一度たりとも勝てなかったあいつの顔が………?
「そんな危険分子を放置するわけにはいかん!」
「私と戦争したいと? 構いませんが、それはまたの機会にしませんか? 流石に私も、ちょっとだけ疲れました。クランド艦長も他のことを、視野を広げてみるのを推奨しますよ」
「逃げられると思っているのか!」
「恋だけではなく、怒りはひとを盲目にするものですねぇ。言い方を変えましょう。私ばかりに構っていていいのですか? 今の現象を誰が防衛したのか………予想できないはずがありますまい?」
「なに!?」
全員が、俺に視線を集中させた。
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