どうせみんな死ぬB06
ドゴン! と床で激しく音が鳴る。
あまりにも速くて、そしていきなりだったゆえ、俺も反応が遅れた。
アークという黒いノーマルスーツの少年は、俺を車椅子から叩き落とすと、馬乗りになって後頭部を掴み、床に押さえつけたのだ。
今度は俺を人質にするつもりか。レイシアよりマシだが。
「エー先輩っ」
「テメェ! 俺らの仲間だけじゃ物足りねぇってか! エー先輩から退きやがれ!」
コウとハーモンが、同時に左右から仕掛けた。
ところがアークは、俺を拘束したまま逆立ちし、左右から迫る鉄パイプを両足で捌いた。
あの跳躍力と、優れた身体能力。原作でもかなり体術に優れていたが、こうまで化け物にはならなかったはず。
つまり原因はビーツにある。
「ぐおっ!?」
「なに!?」
ハーモンとコウが同時に蹴り飛ばされる。
俺の上でブレイクダンスを踊るように舞うアークが、柔らかい関節を駆使して開脚した。
「そのひとの上から退きなさい」
その隙にユリンが接近する。鉄パイプさえも邪魔だと判断したのか、漆黒のノーマルスーツに抜き手を放った。
ユリンの動きはハーモンとコウに比べて、最小限かつギリギリまで引き付けるから読み辛い。いかに化け物じみた反射神経と身体能力を有するアークであっても、彼女のすべてを読み取るには至難の業だろう。
「………ふふっ」
抜き手を振り抜いたユリンが妖しく笑う。
やはり逆立ちして、両足を振り抜いた状態からでは、ユリンの迎撃が間に合わなかった。アークは俺から飛び退いてユリンから距離を取る。
しかし、俺から遠ざけたからといい、この怪女がアークを許すはずがない。俺の上を跨いで、さらにアークへと距離を詰める。
抜き手は先手を取るが、握らない分、攻撃力は減るが速度と手数が増す。速度が増せばカウンターも可能。ユリンはアークが同じタイプであると見抜き、カウンターを視野に入れた近接格闘戦に持ち込んだ。
するとアークも応戦する。カンフーを取り入れた拳術。蹴りを交えるが、ユリンの防御からの受け流しで無力化される。
たった数秒で何十という攻防が繰り広げられたことか。
「オラァッ!」
アークがユリンとの攻防に集中したその時、ハーモンが横槍を入れる。一瞬だけ無防備になった脇腹へ後ろ回し蹴り。蹴りのなかでももっとも破壊力を秘めたそれが、抜群のタイミングで叩き込まれる。
「ユリンだけを見ている場合か? 方法を選ばなかったのはお前だ。俺たちを無視して勝てると思わないことだ」
ハーモンの肩を踏み台にしたコウが高く飛び上がり踵落としを繰り出す。アークは起き上がると後転して回避。しかし、もうそこにはユリンがいて───
『やめろっ!』
ユリンの右手が止まった。アークの喉元に突きつけられていた。あと1秒遅ければ抉っていたかもしれない。
アークは手刀でユリンの手を弾こうとするが、その前にユリンはすでに飛び退いていた。
「なんで止めるのかしら? エース先輩」
「そうだぜ! こいつらから手を出して来たんじゃねぇか!」
『だとしてもだ! お前らは、絶対にこいつと戦うな! 戦っちゃいけないんだよ………』
俺はアークが誰なのかをよく知っている。登場するのはもちろん第2クールからだ。その生い立ちを考えれば、敵対するのは酷過ぎる。
「くくく………よくわかっているじゃないか。そうだ。このまま戦い続ければ死んでいたのはお前たちだ」
これを仕組んだ張本人、ビーツは怪しく笑う。
ブロンドの長髪。前髪で右目を隠したビジュアル。それがビーツだ。
さっきからこの男が憎くてたまらない。なにもかもが気に入らない。俺だけを攻撃するならまだしも、アークを使ったところは特に許せない。
同時に、ペンタリブルの街で感じた視線がアークのものだったとも気付く。アークなら砲雷科の監視網を突破し、また俺が不在となったソータたちを制圧することもできるだろう。レイシアさえ人質にすれば、いかにシドウとて無力化は可能だ。
『ビーツ艦長。狙いは俺でしょう? こいつらに構ってないで、俺だけを見ていればいいものを』
「そう言うな三下。これは試験だ。俺と同じ境遇で、ほぼ俺と同格の装備を持ち、そして困難を切り抜けられるかどうかのな」
『試験? そんなものを課す必要はないと思いますがね』
アークによって車椅子から叩き落とされた俺は、駆け寄ったソータたちの助けを得て起き上がる。
すると、ビーツはよりムッとした表情を浮かべた。
「あるさ。………お前は俺とは違う。アリスランドに配属され、あの地獄を歩んだ俺とは違う! お前はグラディオス側でありながら、この体たらく! 救える命をすべて救って満足か? そんなもの自己満足にして偽善だ! 俺ならもっと………もっと、俺の理想へ忠実にルートマップを敷く! そんな姿にならなくともな! それに比べて、お前の姿はなんだ? 哀れすぎて同情もできやしない。もっとも優れて、優遇されたポジションにいながら甘え、愛を享受しなかった! なんてもったいない。………なら、その愛はいらないのだろう? 寄越せ。俺にすべて」
『意味がわかりませんね。さっきからあなたの言動は、支離滅裂だ』
側から聞いてるクランドたちにとってはそうだ。支離滅裂にも程がある。
しかし俺にとっては………少し違う。わかる気がする。ビーツが言いたいことを。
『寄越せと言われてもね。もしあなたが俺の立場で、同じことを言われたら、はいどうぞとくれてやるんですか?』
「それはあり得ん。よってお前も拒否をする。だからそれを見越した試験をすると言っている」
ビーツの笑みが狂気を増す。
《シビリアン・エース。全周囲に警戒》
《全周囲だと?》
再三に渡るハルモニのレッドアラートが鳴る。
しかしここには、銃を持つ人物はいない。アークはユリンたちが3人で抑える。ビーツの背後にいる人員だって整備士たちがいざとなれば壁となる勢いだ。
俺が周囲を警戒すると、突然カイドウが割り込んだ。
「もう見ちゃいられねぇな。おいビーツとやら。なにグラディオスで勝手やらかしてやがる? ここがテメェの管理下にあるアリスランドならともかく、グラディオスで、それも俺たちの目の前でクルーへの暴行は見逃せねぇな」
「クランド艦長のご息女への無礼は謝罪しました。………しかし、そこにいるエースなる人物は例外だ。聞けば、その者はすでに退役したそうではありませんか。一般人だ。ならば、グラディオスとは無縁のはず」
「………誰から聞いたって?」
「ペンタリブルの支部からの情報です」
だとしても早すぎる。照会しようにも時間が足りないし、誰かがビーツに耳打ちする動きもない。
いったい、どうやって俺のことを知った?
一方でカイドウは苦虫を大量に噛み潰したような苦渋を浮かべる。
クランドもそうだ。
俺が振り返ると、ふたりとも震え「やめろ」と言いたげな目を浮かべる。
だが俺は迷ってなどいられないんだ。そのために戻ってきた。ソータたちの案では、もう無理だ。ゆえにアリスランドとの邂逅を利用した。ビーツがこんなに動いてくれるとは思いもしなかったが。
ゆっくりと、確実に首肯する。ふたりにとってもっとも見たくない首肯だ。
しかし、こうなった以上、クランドの選択はひとつしかない。
「それはすでに会議にて撤回している。エース・ノギは先程、正式にグラディオスのクルーとなった。私が認める。ゆえにアリスランド側の主張は認めない!」
言い切った。俺にとっては最善で、クランドたちにとっては最悪な選択を。
たくさんのブクマ、評価、リアクションありがとうございます!
アークという人物は………また今度紹介するとして。
今朝はたくさんのガソリンを注いでいただきました! 本当に気合いが入ります!
そのお心に応えるべく、筆を加速させまして、本日は13時にも更新することをお約束します!
もっと気合いを注いでいただけると………今日は21時にも更新するかもしれません!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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