どうせみんな死ぬB04
ビーツは優秀で、殉職した前艦長よりも人望に厚く、クランドに対して友好的で、そして紳士である───と同時に怪しさと胡散臭さを纏始めた。
これはおそらく、意図してのものだろう。
挑発にも似ている。口車に乗せようというのか。
グラディオスクルーは、最初こそ若過ぎるアリスランドの艦長代理に驚き、クランドと話術で渡り合おうとする姿に感心したが、エースを格下に見るような言動に、感情を尖らせつつあった。
誰もが視線を鋭くする。すると、ビーツの背後に控えていた漆黒の軍服に身を包む男たちが、殺意に機敏に反応しザッと音を鳴らして一歩踏み出す。
一糸乱れぬアクションと、凄然とした表情。個体差に差異はあれど、大抵の相手はこれで臆するのだろう。グラディオスクルーを睨みつけた。
しかしグラディオスクルーも負けてはいない。
ここにいるのは全員が正規の軍人だ。学徒兵は別室に控えさせている。学徒兵なら恐怖して後退るだろうが、カイドウの教え子たちは一歩も退かず、腕を組んで堂々とアリスランドのクルーに相対した。
「やめな、この馬鹿ども」
「お前たちもだ。下がれ」
カイドウとビーツが、互いの配下の臨戦態勢を解除させる。
「クノ艦長代理」
「どうか、ビーツとお呼びください」
「………ビーツ艦長代理。残念だが、その面会の要望も叶わない。彼はここにはいない」
「なぜです?」
「彼は負傷し、退役させることになった」
「………ふ。なるほど。そういうことですか。………そうか、だから………」
また独り言るビーツ。
今度は難解な問題の解答への道筋を見出したような、狙いのある含み笑いであった。
「ふ、はは………天罰はすでに下ったあとだったか!」
「天罰だと? きみはなにを言っている? なにがおかしい?」
「こちらの話しですよ。しかし、あえて言うなら、どうやら彼は因果を変えつつも、その反動を制せなかったようだ! 私ならそんなことはしない! ペンタリブルコロニーにいるということは………そうか。彼女の末路の肩代わりをしたのだな! 馬鹿な男だ。そこらにいる有象無象を生贄にした方がずっと楽なのになぁ!」
ビーツは急に笑い出す。まともとは言えない狂気を湛え、ドッグをさらに見渡した。
「来いよエース・ノギ! お前がいったい誰なのかは知らないが、この俺と同じ資格を持ちながら遊ばせた末に自分に跳ね返った愚か者! 俺の前に姿を表せ!」
「ここにいるぜ!」
もう、隠すことはできないだろう。
閉ざした目では暗闇しか見えないが、脳内チップを介すれば、ドッグにあるドローンカメラをひとつ起動し、防犯カメラよりも鮮明な映像を見ることだってできる。
俺たちは港からグラディオスに戻った。
その途中で全員が否が応でも目にしてしまうんだな。「アリスランド!?」とクスドが反応する。彼にはシミュレーションによる経験を積ませる過程で、特に目にしてきたからな。見間違うはずもない。
漆黒のグラディオス。俺たちがよく知る母艦の色違い。
そんな艦がグラディオスと並べば、誰だって驚く。
港のゲートを強引に突破する。異変を察知した軍警が俺たちに接近したが、あとから合流した砲雷科が追い抜いていき、事情を説明しているうちに俺たちはより奥へ走り、グラディオスとアリスランドが並んでいる港へ突入に成功したのだ。
『アーレスさん。クランド艦長は、これを俺に見せたくなかったんですね』
「わからない。けど、艦長はきみたちを巻き込みたくなかったというのは本心だと思うよ」
アーレスはとぼけている様子はない。この意見もまた本心か。
タラップを駆け登り、レイシアが待っている艦内へと駆け込む。全員息を荒げながら、床に座り込んだ。
「みんな、大丈夫!?」
レイシアは大量の水とタオルを携えていた。ソータたちに手渡す。シドウやアーレスはそこまで消耗していないのか、すぐに呼吸を整えた。
「エースくん。災難だったね」
『俺はこんな体ですから。ソータたちに押してもらわなければ助かりませんでしたよ。災難だったのは後輩たちだ』
そう。俺ひとりではなにもできなかった。
きっとあの男たちに捕まっていた。例え軍の施設にいようが、病院にいようが。
ここまでみんなに繋いでもらえたのだ。ならば、俺がやるべきことはひとつ。
『だから、ここからが俺の仕事です。レイシアさん。みんなを頼みます』
「ちょ、ちょっと。どこに行くの?」
『呼ばれてるんですよ』
「誰に?」
『顔も名前も覚えがない奴なんですけどね。でももしかしたら知ってる奴かもしれない。確かめないと。これはきっと………俺だけにしかできないことです』
この時点で、俺のなかにはひとつの仮説が組み立てられていた。
もしその仮説が事実だとすれば、俺にとって有益か、不利益かをも見定めなければならない。
あの艦にいるという時点で、もうすでに嫌な予感しかしないのだ。だがそれでも、話がわかる奴であるならば、と一縷の望みをかけて、俺は面会に臨まなければならない。
『おっと………うん? ハーモン? コウ、ユリンまで、なにやってんの?』
いくら鍛えているとはいえ、長距離を俺という荷物を押して運んだソータたちも疲れ果てている。レイシアに託し、車椅子を進ませようとするも、片手だけではどうもうまく直進しない。
すると急に安定した走行となる。ユリンが俺の車椅子を押し、ハーモンとコウが両サイドを歩く。
「置いてきぼりにはさせないわよ。エース先輩」
好戦的な笑みをするユリン。怖い。
「言っただろ。俺がエー先輩を守ると」
「おぅこら。訂正しろや。それを言うなら俺らだろ?」
「フッ。最近、お前とはやけに気が合うな。前ならこうはいかなかった」
「だな。ま、エー先輩のお陰だろ」
「確かに」
コウとハーモンは、俺の前を歩きながら、突き出した拳を合わせる。
確かに前なら、犬猿の仲だったふたりが、こうして肩を並べて共闘するなんて姿勢は、絶対にやらなかった。ファンとしては心温まる光景だ。
「ちょっと。なにふたりだけの世界に入っているのぉ? 私を蚊帳の外に置くなんていい度胸ねぇ」
「安心しろ。ちゃんと枠内だ」
「頼りにしてっからよ」
「ならいいわぁ」
珍しくユリンが唇を尖らせる。プクーと頬まで膨らませて。かなり可愛い。でも怖い。なにするかわかったもんじゃない。
パイロットのなかでも武闘派の3人を従えて、俺はついにドッグへと入る。
コロニー内は重力が発生しているため、いつもは無重力区画であるドッグも重力圏内にある。車椅子の車輪を転がせる。
「来いよエース・ノギ! お前がいったい誰なのかは知らないが、この俺と同じ資格を持ちながら遊ばせた末に自分に跳ね返った愚か者! 俺の前に姿を表せ!」
うわ、名指ししてきやがった。3人の表情が険しくなる。俺を愚か者と呼んだあいつを地獄に突き落としてやりたくてたまらない目だ。
『ハーモン。やれ』
「おう!」
ハーモンの大声は、広域のあるドッグによく響く。隔壁を開き、挨拶代わりに一発、叫ばせた。
「ここにいるぜ!」
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