どうせみんな死ぬB03
「いやぁ………はは。失礼しました。興奮による感情の昂りを抑えきれず、お見苦しい醜態を晒してしまったことをお詫びします。………こちらが移籍を依頼するパイロットは………ソータ・レビンス、ユリン・エフナール。シェリー・ダルシャナ。そして………ヒナ・ワルステッドがご存命なら、彼女も是非」
「馬鹿な………グラディオスのパイロットの半分以上を譲渡しろというのか!?」
「しかしなにも問題ありますまい? むしろ、扱いに難があるパイロットはこちらで引き受けます。クランド艦長には、この機会に是非、ペンタリブルの正規のパイロットを選定し、貴艦のパイロットとして移動するよう、お声がけするといいでしょう。子供よりも大人の方が、規律を遵守するでしょう」
「きみの言いたいことはわかる。しかし───」
「それと、メディカルルームに収容している患者もこちらで引き受けます。アリスランドは再生治療の権威を軍医として招くことができましたゆえ、四肢欠損した整備士がいれば、是非に。外から見えたのですが、主砲を修理なさっていましたね。レイライトブラスターの欠陥点はこちらも留意しております。こちらも先月、腕が消し飛んだ者もいましたが、再生治療の甲斐あって、すでに現場に戻っております。クランド艦長。その者を憂うなら、当艦でお引き受けします。例えば、腕を失った少女が泣き叫ぶところなど見たくないなら、躊躇う必要はないと思いますが」
「───腕を失った少女? いないが」
「………そうきましたか。やはり………暗躍している者がいるか。小癪な真似を」
「先程からきみは、独り言が過ぎるな。私にも理解できるように言ってみたまえ」
「申し訳ありません。こればかりは………テンプス艦長の特務を引き継いだと思っていただければ」
「私にも話せない事情があると?」
「ええ。しかしそれはお互い様でしょう? クランド艦長だって、私には話せない事情があるはず。それと同じです」
グラディオスクルーのなかで、ビーツという少年への懐疑が深まる。
最初こそ笑顔が似合う爽やかな少年だと思っていた。アリスランドのなかでクランドと同等の人望を築き、整備士でありながら艦長代理まで上り詰めた手腕。それはきっと評価できるものだと。
だが、先程からビーツはなにかを隠している。
それでいて要求は大胆だった。
クランドは、きっと第七世代ガリウスGの、七号機以降を要求するものだと予想していた。
グラディオスクルーのなかで、ガリウスGのナンバーズに搭乗できる者は限られている。元々パイロットがひとりしか揃えられなかった。志願した学徒兵の予備パイロットのなかで、適合者はまだ出ない。近くシドウが乗り換えると考えていたゆえに、八号機から十三号機のうちどれかを貸し出すのなら、渋々ながら助力してやってもよかった。
そんなクランドの予想を裏切り、要求してきたのは機体ではなくまさかのパイロット。
ビーツの眼力は確かだった。よりにもよって、シミュレーションスコアが上位な4人を引き抜こうとしている。
それでいて負傷者の収容の打診があったが、これには覚えがなかったので否定すると、またもや自分の世界に浸り始める。感情の起伏が激しいどころではない。クランドの話さえ聞いていないようにも思える。
「きみは、当艦が所有している第七世代ガリウスを求めてはいないのかね?」
「ナンバーズのことですか? いただけるなら、まぁ………そうですね。せっかくなのでお引き受けします」
いつの間にかビーツの態度が一変している。
まるで買取業者が不用品を回収するような、そんな言動だった。
「勘違いしないでもらいたい。ガリウスGも、パイロットも、当艦には必要な存在だ。いかにアリスランドという兄弟艦が窮困しているからといい、無策でこちらの戦力を割けるはずがない。機体ならともかく、パイロットの譲渡はできない。きみたちこそ正規軍からパイロットを厳選するといい」
「………」
ビーツは黙考する。
不愉快そうにはしていない。ただ、なにかを模索しているような表情をして、右手を口元に添えていた。
「………しくじったか」
「なにか言ったかね?」
「いえ、なにも。クランド艦長のお話は理解しました。機体はともかくパイロットは移籍できないと。承知しました。パイロットの問題は、是非とも次の機会にでも」
「それが来るとは思えんがな」
ビーツという少年の特徴の一片が掴めた。
今浮かべている笑顔こそ仮面だ。本心は別にある。
「では、機体の譲渡のお話を。もしいただけるのであれば………そうですね。アレをいただきたい」
「な、なんだと!?」
声を荒げたのはクランドではない。カイドウだ。
ビーツが指をさしたのは、七号機から十三号機のナンバーズではない。壁の奥に懸架され、大破したまま現状維持と保存がされている、もうガリウスとしては使いものにならないはずの───プロトタイプガリウスGだった。
「………理由を聞いてもいいかね?」
到底クランドも理解に至らない。
「実は、とある筋からの有力な噂がありましてね。あのプロトタイプのなかには、ケイスマンという技術開発者が残した、とある貴重なデータがあると。………勘違いなさらないでいただきたい。私はその噂の真偽が知りたいだけなのです。そして………実はすでに、私はその貴重なデータを入手しております。双方を重ね、どれだけ一致するのかを確かめたいのです」
「………タキオン」
「おおっ、さすが整備科主任。そこまでご存じでしたか。ならば結構。プロトタイプは不要です。………しかし、そうなると困りましたね。我々はグラディオスから、有益ななにかを得られなかった。せっかく御援助の機会をいただいたんだ。広大な宇宙のなかで、こうして対面できたのもなにかの縁。………ならば、せっかくなので会わせていただきたい人物がいるのです。ご紹介願えますかな?」
「いったい誰を?」
「エース・ノギという人物がいるでしょう? ビームシールドの設計者として本部に申請したようですが………いやはや、タイミングが悪かったですね。まさかグラディオスでもビームシールドを設計していたとは」
「グラディオスでも? ということは、アリスランドでも………いや、こちらの申請が弾かれた理由は、まさか」
「ええ。私がビームシールドを設計し、本部に送らせていただきました。こちらの方が数日早かったようですが」
「………きみがビームシールドを設計したのかね?」
「ええ。これでもメカニックなので。1週間で作れましたよ」
クランドとカイドウは驚愕を禁じ得なかった。
エースがビームシールドを設計するまでの苦悩を誰よりも知っている。挫折から這い上がり、アイデアで課題をクリアし、製造まで至る。自ら実証実験し、有用性を示してみせた。
しかし非情にも上には上がいた。エースがビームシールドの設計から製造まで要した期間は1ヶ月以上。しかしこのビーツというメカニック上がりの艦長代理は、1週間もかけずして設計から製造まで至った。
「スペックを拝見しましたが、いやはやなんとも………私が作ったものと比較しても、劣化しているとしか思えませんな」
「なんだと?」
「勘違いなさらないでいただきたい。私は元メカニックとしての見解を述べているのです。あんなお粗末な、付け焼き刃程度のビームシールドで満足しているようでは、エース・ノギという男の底も知れる。私はもっといいものを作れる」
「ならば、なぜそんな男に面会を望む?」
「着眼点は悪くなかったからです。スペックに違いはあれど、奇しくも同じ装備を作ったグラディオスの整備士に会いたいと願うのは………まぁ、私情のようなものですよ」
感想、リアクションありがとうございます!
確かにガソリンを注入していただきました! 筆も加速することでしょう! もっといただければ6話も可能なはず…!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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